⑪ 伝説の男再び
立った感じからすると、彼は京子より少しだけ身長が高い。
175cmくらいだろうか。
白人男性としては小柄な方かしら、などと京子は考えていた。
京子も挨拶を済ませると、一枚板の座卓を挟んで彼の向かい合わせに座る。
「坂本さん、京子の分も一緒に新しいお茶をお出ししてね。では、あとはお二人でごゆっくり。」
そう言い残して、祖母はさっさと立ち去って行った。
気まずい沈黙が1分ほどたった後、彼の方から話し始めた。
「突然オジャマしてすみません。とあるパーティーでおばあさまから、貴女のお話を伺って…好奇心が抑えられなくなりマシテ。」
彼の日本語は所々アクセントが怪しいが、流暢な方だった。
それより京子には、❝好奇心❞というワードが引っかかった。
「私の方は大学を出てからずっと、自称日本画家の家事手伝いですから、暇ですけど…好奇心って何のことですか?」
「ハッキリ言いますと、貴女方一族に隔世遺伝で代々伝わる能力の話です。」
えっ、おばあ様、そんな大事なことを、このガイジンにしゃべっちゃったの?と京子は内心焦ってしまった。
「ああ、そのことで、おばあさまを責めたりシナイデ下さいね。タダ私が天性の聞き上手なだけナンデ。」
彼は、まるで京子の心を読んだかのような返答をした。
「アナタも見たところ、マダマダお若い。お見合いしてすぐ結婚なんて、正直ナカナカ考えられないでしょう?」
「そう…ですね。」
でも人生の視野を広げるためにも、ぼちぼち違う男性と付き合ってみるのも悪くないと最近思い始めたところだったが…。
「そこで一つ、ワタシから提案がアルのですが…。」
「何かしら?」
「その前に少し、お庭を拝見できマスカ?歩きながらお話シタイのです。」
「いいですよ。」
「ありがとうございマス。実は、先ほどから正座がキツクて…。」
二人は少しだけ笑った。
二人は縁側から草履に履き替えて庭に出た。
祖母宅の庭は広大だ。芝生は平らではなく、ちょっとした起伏や池まで設えてある。パターゴルフでもしたら楽しそうだ。
木々の間では春の鳥の声も聞こえた。
「ところで…。」
並んで歩きながら、今度は京子から話しかける。
「サン・ジェルマンという名前に聞き覚えがあるのですが。」
「ええ、エエ、そうでしょうとも。」
何だかこの男は嬉しそうだ。
「貴方、まさかあの伝説のサン・ジェルマン伯爵じゃあないでしょうね?」
すると満面の笑顔でその男は答えた。
「ええ、私がそのサン・ジェルマンです。」
志村けんの❝私が変なおじさんです❞みたいな言い方だなと、その時不謹慎にも京子は思ってしまった。




