3、消えゆく少女の願い
人が集まるような時期ではなかったため、僕達以外に参拝客の姿はなかった。
長い間、手を合わせていた麻由がようやく黒い瞳を開けて僕を見て自然な笑みを送る。
僕は沈黙に耐え切れず「麻由は何を神様にお願いしたの?」と聞いた。
麻由は迷う様子もなく「えっ? 弘人君がずっと笑っていられますようにってお願いしたんだよ」と正面から答えた。
麻由自身には叶えたい願いがないのだろうかと疑問を覚えたが、どうしてか麻由らしいと思ってしまった。
僕は浮かない表情を浮かべていたつもりはない、むしろ麻由との散歩が再開出来るようになった事を喜んでいたくらいだ。
なのにどうして麻由が僕の心配をしているのかよく分からなかった。
僕が「どうして?」と一言聞くと、麻由は平然と当たり前のように「いつも一緒にいてくれるから」と答えた。
僕が欲しかった回答ではなかったけど、それで分かった事は麻由が僕に感謝しているという事だった。
それから麻由はいつも通り社務所に向かい、興味津々な様子で御守りを見て回った。
素朴な性格をした麻由の肩掛けポーチには幾つもの御守りが取り付けられている。それは安全に生きられない者が安全を願い、神様を頼っている証明のようだった。
神社を後にした僕達は石段を降りてケンタの散歩を続けた。
野良猫を見つければ追い掛け、同じように犬の散歩する人を見掛けると挨拶を交わす麻由。それも昔から変わらない、麻由の行動だった。
少し前よりも陽が短くなり、一日が過ぎていくのが早い。
商店街にある夕闇通りを歩く頃には空は青々とした姿から燃えるような紅へと様変わりしてしまい、僕達の背後には名残惜しくなるような長い影が伸びていた。
黄昏へと向かう空の下、僕達は揚げ物惣菜の専門店でコロッケを買い食いした。まだ高校一年生に過ぎない僕達でも懐かしさが身体に染みて来る味。
注文してから油で揚げたコロッケは熱々のサクサクでジャガイモと挽肉が同時に口の中で広がっていき、優しくお腹を満たしていく。
運動した後の夕食前に食べるコロッケは背徳感があって、慣れ親しんだ味でも美味しかった。
「ねぇねぇ、そういえば聞いて欲しかったことがあったの」
そう話を切り出した麻由は、夢で見た不思議な体験を話し始めた。
それは外からは全く中の様子が見えないトンネルだったという。
麻由は夢の中で光の球体を追い掛けてトンネルの中に入って行ったらしい。
一体、何が麻由を衝動的にさせてしまったのか分からないけれど、誘われるように長い距離を走り、疲れ始めた頃、波飛沫の音と同時に目が覚めたそうだ。
「それでね、とっても気になってるの。だから、どこのトンネルだったのか一緒に探してくれたら嬉しいなって……」
曖昧な麻由の記憶の中にあるトンネルを探し出すというのは至難の業に思えたが、僕達は麻由が納得のいくように一緒に調べることにした。




