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オーラム星の街に着いた

 そこにはバスのような大型宇宙船がたくさん停めてあり、沢山の人々(子供たち)が乗り降りし、そしてそれらの「バス」は次々と出発したり到着したりしていた。

 それはトンネルのサービスエリアで見たのと同じような宇宙船だった。それで僕は直感的に、この場所は「宇宙空港」だろうと思ったけれど、空港というよりは、バスターミナルという感じの場所だった。

 ところでアクエリアスが駐機した場所の隣には、八人乗りくらいのミニバンのような宇宙船も停めてあった。いろんなサイズの宇宙船があるのだろうと、僕は妙に納得した。

 大:バスくらい

 中:八人乗りのミニバンくらい

 小:アクエリアスみたいなやつ


 それからアクエリアグのドアが縦に開き、僕らは「車」っぽい宇宙船を降りた。

 そして僕はナップサックを手に持ったまま背伸びをした。

 僕がサービスエリアの駐機場でアクエリアスを降りた時は、宇宙酔いで気分最悪だったけれど、宇宙酔いバスターのおかげで、その時の僕は気分最高だった。

 それからふと見ると、アクエリアスはレンガ色ではなくコンクリート色をしていて、セリア君はアクエリアスの小さなトランクから自分の荷物を出し、駐機場のコンクリート色のフロアに並べていた。

 本当にアクエリアスはカメレオンカラーだ!

 それからセリア君はアクエリアスの船体の横にある小さなフタを開けた。

 ガソリンでも入れるのかなと思って見ていると、駐機場に備え付けてあった小さな自動販売機のような機械から、電気のコードのようなものを引き出し、アクエリアスの横っ腹のフタのところにあるコンセントのようなものにそのコードを差し込むと、正面のパネルで何やら操作をした。

 するとその機械がブーンとうなりだした。要するに充電をするみたいだ。

 それで僕は言った。

「へぇ~、アクエリアスは電気自動車なの?」

「当たらずとも遠からず。イオンスラスタだ」

「イオン…スラスタ? 何それ?」

「平たく言うと電気式ロケットエンジンだ」

「へぇ~、凄いんだね。電気のロケットかぁ」

「そうだ。凄いだろう。で、ふだんはここに駐機しておくんだ。その間に充電もしておく。充電が終わるとサービスの人が来て、コードを抜いて元に戻しておいてくれるし、イオンスラスタや反重力装置なんかのメンテナンスもやっておいてくれるんだ」

「へぇ~」


 そんな話を聞いて呆気にとられた僕は自分のナップサックを肩に掛け、一方セリア君は両手に荷物を持ち、二人で駐機場から続く通路を歩いた。

 サービスエリアと同様、沢山の子供たちとすれ違い、やがて改札口のような所に着くと、セリア君は一旦荷物をフロアに置き、機械のモニターにぺたんと手の平を当てた。

「これで料金を払うんだ」

「これだけ?」

「手の平で僕を識別できる。最新式さ」

「へぇ~、凄いんだね」

「そうだ。凄いだろう。だけど宇宙のトンネルの料金所では思い切り旧式のカードなんか使っていただう? 宇宙トンネル公団の連中はめちゃくちゃ頭が固いんだ」

「そうなんだ。いろいろだね。で、ここは宇宙空港…、だよね?」

 それから僕は、さっき駐機場で直感的に思った事をセリア君に言ってみた。そしたらセリア君は、

「またしても当たらずとも遠からず。空港には惑星内線と宇宙線があるんだ。宇宙だけとは限らない。もちろんアクエリアスは宇宙線用だ」

「宇宙線って、どこへ行く宇宙船なの?」

「トンネルを抜けてサファイア星、つまり地球へ行くのとか、あとはオーラム星の月へいくのとか、いろいろさ」

「オーラム星の月って、行ってみたい!」

「あそこはチーズみたいにぼこぼこで、何も無いぞ!」

「へぇ~、そうなんだ…」


 それから渡り廊下を歩くと、沢山のお店が並んでいるフロアに出た。

 ダイヤモンドや金なんかがふんだんに使ってあり、とても明るい場所だった。もちろん、いろいろなお店もあった。

 洋服売り場や食べ物屋等々。サービスエリアと同じで、どの売り場も十二、三歳くらいの子が立っていた。

 もちろんお客さんも子供ばかりだ。いや、子供ではなくて本当は「大人」だけど。

 でも時々、体の大きさは六年生くらいなのに、顔がおじいさんやおばあさんのような人もいた。中には腰が曲がって杖をついている人もいた。

「僕らが大人だって意味、分かっただろう?」

「何となく…」

「あのおじいさんは三十歳近くだね」

「三十歳のおじいさん?」

「こっちではみんな十歳で成人して、寿命は三十歳くらいなんだ」

「じゃセリア君も三十歳で死んじゃうの?」

「三十まで生きたら、そりゃあ凄い長生きだよ」

「そうなんだぁ…」


 それを聞いた僕は、何だか悲しい気分になった。だけど僕が悲しそうな顔をしていると、セリア君は気を利かせ、話題を変えてくれた。

「買い物をしていこう。着替えもいるだろう」

「そうだよ。僕、パジャマ姿だもん。スパイクなんかも履いているし、しかも靴下無し…」

「ソックスもいるね。でもそれってそんなに変な格好じゃないって言っただろう」

「サービスエリアで、そんな事を言ってた気が…」

「地球のパジャマは、この星のトレーニングウエアとか、それどころか、野球のユニフォームなんかにも、何となく似ているんだ」

「何となくトレーニングウエア?」

「ユニフォームにも!」

「そうなんだ」

「だからスパイクもおかしくないし…、いやいや、スパイクはちょっぴりおかしいか。じゃあスニーカーを買おう。それと、ジャケットもだね」


 それから僕らはしばらく買い物をした。

 そして僕は買ってもらったスニーカーに履き替え、スパイクはスニーカーの入っていた箱に入れた。

 それから外へ出ると、すでに日が沈んでいた。

 だけど伴星(小さい方の太陽)が東の空に昇っていて、結構な明るさだった。

 考えてみるとこの惑星は、やっぱりややこしい空だ。

 それに少し寒かった。

 それで僕はパジャマの上に買ってもらったばかりの暖かそうなジャケットを羽織った」

「少し寒いだろう。三月だから」

「違うよ。明日から夏休みだよ」

「ここは三月なの! ややこしいけれど、トンネルの両側では時間関係がややこしいんだ」

「何だって?」

「あまり気にしなくもていいよ。シンプルに考えようぜ」

「うん…」(ややこしいのやらシンプルなのやら…)

「だからもうじきプロ野球のシーズンが始まる」

「分かったよ。気にしないよ。シンプルにだね」

「そうそう」

「それに三月なら、シーズン開幕前で都合がいいかもね」

 それから僕らはセリア君のマンションへ向かう事になり、外の駐車場に止めてあったセリア君の自動車に乗り込んだ。

 コメット250とかいう若草色のダサい車だ。アクエリアスと比べたら、まるっきり平凡な形の乗用車だ。そしてそれに乗り込むセリア君の姿は、何だか仕事帰りのサラリマーンみたいに見え、妙に微笑ましかった。僕はそんな事からもセリア君が「大人」なんだと、妙に納得したりした。


 それから僕らはマンションへと向い、車は未来的な都市高速道路をほとんど音も立てず、滑るように走った。あまりに静かで、エンジンで走っているのか、モーターなのか分らなかった。それでセリア君にきいてみたら、燃料電池車だと説明してくれた。

 その車の窓からは子犬市の街並みが見えた。

 黄昏時のビルの外壁が伴星に照らされ、黄金色にきらきらと輝いていた。ビルの形は地球の都市のような四角いものもあったけれど、円錐形や三角錐や正八角形や球形や、バラエティーに富んでいた。

 そして伴星と街の明かりに照らされた黄金色の外壁と、沢山の窓の明かりとが、輝きを競っているようだった。

 それから高速道路を降り、街路樹のある道路を少し走るとマンションに着いた。

 セリア君はコメット250をマンションの駐車場に止め、そこから歩くと「黄金マンション」と書いた看板のある入口があった。

 もちろんマンションは黄金色だ。形は平凡な四角柱だったけれど、窓はなんとダイヤモンド製だそうだ。(げろげろげ~)

 そしてマンションの中に入り、エレベーターに乗ったら、あっという間にセリア君の部屋のある二百三十八階に着いた。

 僕もセリア君も耳がつんとなったので、二人でつばを飲み込んでからドアへと向かった。

 それからドアの前で、セリア君がドアに付いていたカメラに向かって「ねこじゃらし」と言うと、「ナカニハイレ!」という宇宙人みたいな声がして、それから、カチャとカギが開いた。

 次にセリア君は強引に僕の耳を引っ張り、僕の顔をカメラの前に持っていき、カメラに向かって「お友達」というと「リョウカイ♫」と返事が来た。

「これでいつでも君はここに入る事が出来るよ。『ねこじゃらし』がパスワードだからね。覚えておくといい。何かあったらいつでも来ていいよ」

「凄い! 顔で識別するんだね。これも最新式?」

「物凄~~~~~く旧式だ。この町で最初の、黄金の外壁を使った建物だから『黄金マンション』という名前が付いたそうだけど、建ったのは千二百年も前の事なんだ」

 千二百年前というと奈良の東大寺が建立されて間もない頃だ。

 何だか入るのが畏れ多い気がした。


 でも部屋の中に入ると畏れ多い事は何もなく、普通にリビングや台所があった。

 家具なんかは地球のやつとずいぶん違うけれど、これは多分冷蔵庫だ、これは多分電子レンジだ、これはきっとソファーだと、一応は分かった。

 ソファーといえばセリア君が飼っているらしいトラ猫が気持ち良さそうに爪とぎをしていた。

 だからソファーはぼろぼろだった。

 ちなみに、この星の猫は地球のよりふたまわり程大きく、しかもその色といい形といい、地球のベンガル虎そっくりだった。もう少し大きかったら僕は逃げ出してしまいそうだ。

 それから奥の方にもうひとつの部屋があった。

 そこには国家機密とかいろいろあるらしいから、僕はやたらと入らない方がいいと、セリア君はちょっと怖そうに言った。だから僕はそこを「秘密の部屋」と呼ぶ事にした。

(で、それ以外は自由にしていいって)


 そして僕がそのソファーに座ったら、セリア君は冷蔵庫から五百円玉くらいの大きさの円盤状の物体を二個出して皿に乗せ、電子レンジで三秒チンしら大盛りカツカレーが二人前出来た。

 それを食べ終えて少し休んでから順番に風呂に入った。湯船は金で出来ていて洗面器はダイヤモンド製だった。

 風呂から揚がると、僕はまたパジャマを着た。セリア君も風呂から上がり、僕らは眠る事にした。

 でも興奮してなかなか眠れなかった。

 電気を消しても伴星の明かりで部屋は少し明るかった。

 だからという訳ではないけど、それからしばらく、僕らはいろんな話をした。

 だけどしばらくしてセリア君はきっぱりと、「明日は早起きしてプロ野球の球団事務所へ行く予定だ!」とか言い出した。

 だからもう寝なきゃって。

 だけど僕は不安だった。

 本当に雇ってくれるのかな? 

 こんな僕を、プロ野球選手として…


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