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セリア君のオーラム星へ

 壮大な宇宙のトンネルを抜け、いよいよセリア君のオーラム星に近づいた。アクエリアスで宇宙から見ると、オーラム星は地球とよく似た感じの惑星だった。

 大きな大陸や海もあったし、刷毛で掃いたような雲も分かった。だけど少し色が違っていた。

 地球は青いけれど、この星は紫色。

 いや、すみれ色だ。

 だから僕は勝手にこの星のことを「すみれ星」と名付ける事にした。

 セリア君たちにしたって僕らの青い地球を勝手に「サファイア星」などという、でたらめな名前で呼んでいるのだから。

「大きさは地球とだいたい同じだ。大気の成分なんかもそうだ。高等生物が住む為には、水や大気や温度などの条件から、似たような環境の惑星が必要なんだ。それと大昔の地球みたいに大陸は一つにまとまっていて、それ以外は海と島だ」

「へぇ~」

「それから、一日の長さは地球よりやや長くて二十七時間」

「二十七時間?」

「うん。それと、ええと、オーラム星の大気中のチリなんかのサイズの関係もあって、大気中で散乱される可視光線の波長が、地球の場合とは微妙に異なっていてね…」

 セリア君は観光案内みたいに説明を続けていたが、途中から話が少々小難しくなった。

「…だからオーラム星では、大気中で散乱される光の波長が地球の場合より少し短くて、それでより波長の短い紫色の光を散乱するんだ。だから地球の空が青く見えるように、ここでは空が紫色に見える。それで何だって? え? すみれ色の、すみれ星?」

「そうだよ。す・み・れ・星!」

「いい名だね。それ、大統領に提案しておくよ」

 僕らがそんな話をしている間に、いよいよオーラム星に大接近した。

「よし! 大気圏突入だぞ! つかまっていないとえらい怖いど!」


 セリア君は突然、僕を威嚇するような恐い口調で言ったので、僕はあわててシートベルトを確認。左手でドアの取っ手を、右手でナップサックを掴み、大気圏突入に備えた。

 そしてアクエリアスは紫色のオーラム星の大気に突入し、キャノピーはオレンジ色の炎で覆われ、機体はゴーゴーと音をたてながら激しく揺れた。

 それに物凄い加速度で、僕の体重が何倍にもなった感じだった。それに僕はアクエリアスの機体が燃え尽きてしまわないかと、とても心配だった。

 だけどしばらくするとその炎は消え、白い雲と、その下の紫色の海原が見え始め、僕はほっと胸をなでおろした。

 そしてアクエリアスはしばらくの間、その海の上を飛んだ。時々小島が見えた。

 やがて陸地が近づき、海岸線の向こうには街も見え始め、さらにその向こうにはうっすらと山並みが見えた。

 街に近づくと何故か黄金色に輝いていた。

 その理由は後で分かるのだけど、それからセリア君は、その街の上空でアクエリアスを左に旋回させた。どうやらこの星の西へと方角を変えたようだ。

 すると遠くの山の上に輝くこの星の「太陽」が視界に入って、多分それは夕日だと思うけれど、それを見て僕もセリア君も目を細めた。

 ともかくこの光景を見るのは地球人では僕が最初なんだと思うと、とてもいい気分だった。

 ところで後ろを振り返ると「星」というにはあまりに明るくて、小さな「太陽」とでも呼ぶべき天体が、東の地平線の上で光っていた。不思議だった。

「今、大犬市上空を飛行中でぇ、正面の太陽はアルファセンタウリA。こいつが主星だ。そして、後に見える小さな太陽はアルファセンタウリB。こいつは伴星って言うんだ」

「伴星? あの小さめの太陽っぽいの?」

「そう。主星と伴星。これを連星系というんだ。宇宙では珍しい事ではない。でかい太陽と小さい太陽があるって事」

「へぇ~」

「ダイスケ君の太陽系は太陽だけだけどね」

「うん…」

「そう気にするな。で、主星が沈めば夜になるけれど、伴星が昇るから今夜は結構明るいぞ」

「結構明るい? 楽しそう」

「慣れるとどうってことないぞ」

「だけどそいつは豪華だよね」

「ええと、実はもう一つあるんだ。プロキシマっていう、物凄くちっちゃいのだけど」

「まだあったの?」

「プロキシマは赤色矮星なんだけど…」

「セキショク…?」

 ともかく三つあるそうだ。〈でも僕らの太陽系では太陽だけ。何か不公平!〉


 とにかくそういう話をしているうちに、アクエリアスは大犬市の上空を通り過ぎ、さらに高度を下げると眼下に山並みが迫って来た。

 でも何故か紅葉していた。

「セリア君、今ここは秋なの?」

「春だよ。新紅の季節だ」

「新紅? 新緑じゃなくって?」

「地球の植物とは葉っぱのメカニズムが少し…」

「違うの?」

「はっきり言ってそうだ。だから秋には綺麗な『緑葉』が見られるぞ!」

「へぇー、地球と逆なんだ」

 それからアクエリアスはどんどん高度を下げ、山のすぐ近くを飛んだ。

 すると紅葉、いや、新紅の木々が一本一本はっきりと見えた。

 紅葉したクリスマスツリーのような木やら、巨大なカエデの葉っぱのような木やらいろいろあり、見ていて飽きなかった。

 そして新紅の山並みを越えると、アクエリアスはもうひとつの街に接近した。

「小犬市」という名前の街だった。先程上空を通過した街と同様、黄金色だった。

 そしてそこにセリア君は住んでいて、セリア君のいる球団もそこにあるという。


 それからアクエリアスはさらに高度を下げた。そうすると小犬の街の建物が詳しく見えてきた。

 そこには金閣寺のような黄金色の建物が多かった。お寺なんかが多いのだろうか? 

 それをセリア君にきいてみたら、こんな事を言ったので、僕は豪快にぶったまげた。

「この星では金とかダイヤモンドとかプラチナとかはありふれた物質なんだ。特に金はほとんど錆びないだろう。だから建物の外壁なんかにはうってつけだ。それで、現在ほとんどの建物の外壁は金で出来ている」

「何だって?」

 僕が初めてそれを聞いたときはぶったまげたけれど、でもそういう星もあるんだなと、僕はすぐに納得した。

「だからさっきの街もこの街も、黄金色だったんだね。で、金がありふれた金属だったら、この星の貴金属って?」

「そうだなあ、ブリキとか亜鉛とか…」

「ブリ……」


 僕がブリキの事で愕然としていると、小犬の街の中心部近くに空港の滑走路が見えた。そこはランプが点滅していたので、すぐにそれと分かった。

 アクエリアスはそれに誘導されるように飛びながら、タイヤを出してその滑走路にぐんぐんと接近。やがて滑走路の中央にふわりと着陸した。

 セリア君は操縦がうまい! と思ったが、よく見ると自動操縦だった。

 そしてアクエリアスは着陸するとそのまま自動車のように誘導路を走り、立体駐車場のような建物に入り、その中の道をくるくる登ると、(お父さんの運転する車でイオンモールなんかの駐車場を登る感じ)最後に駐機場に到着した。


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