いよいよシーズン開幕!
そして開幕戦はプロキオンズドーム(だんご虫ドーム)での「双子ポルックス」との試合だった。
僕らは選手入口と書いてある所からドームに入った。
ファンの人たちは列を作って僕らに熱い視線を送る。
何だか本当にプロ野球選手になったみたいな気分だ。
(いやいや、僕は本当にプロ野球選手だってば!)
ドーム球場の中は例の商店街のアーケードや市役所なんかと同じく、ふんだんにダイヤモンドが使ってあった。巨大なダイヤモンド製のおわんを伏せたようなイメージだ。
ダイヤモンドは固くてとても丈夫なので、こういう構造物には適しているんだと、セリア君が説明してくれた。
そしてそのダイヤモンドのドームを覆うように、巨大な黄金の板が張り付けてある。何と言うか、地球だったら考えられないような成金趣味だけど、オーラム星では基本、堅実と節約が美徳とされているらしいし、だからダイヤモンドや黄金の使用は、この星なりの「安心の堅実設計」で、要するに経費節約の為なんだってさ。しらんけど。
さて、スタンドにはたくさんの子供たちが座っていた。いや、大人だ。それにもちろんプロ野球なんだけど、たくさんの子供のような人々を見ると、どことなく小学校の運動会を連想させるものがあり、妙に親近感がわいた。
さて、親近感はいいけれど、しばらくすると試合前のセレモニーが始まり、始球式では中学二年生くらいの女子が出てきた。
ソフトボールでもやっている子かなと思ったら、この星の大統領だった。
木綿のドレスを着て、大きな石炭の付いたブリキのネックレスをしていた。
しかも大統領は、この惑星ならばプロのピッチャーとしてやっていけそうな程の腕前らしく、時速八十キロくらいの見事なナックルを投げ込んで、拍手喝采を浴びていた。
それで、対戦相手の双子ポルックスの先発は右ピッチャーで、僕らプロキオンズはもちろんセリア君だった。
そして双子ポルックスはその後、中継ぎも敗戦処理も左投手が出る事はなかったので、僕はその日、出番無しだった。
だから同じく出番の無いエナッツ君やギューリキ君たちと、ベンチでジュースなんかを飲みながら、やじを飛ばすだけだった。
まあそれはそれでいい。
それで、僕の出番はやはり地球の試合と同じく、左ピッチャーが投げる試合だった。
だから僕の「プロ野球デビュー」は、それから数日後のだんご虫ドームでのシリウス戦だった。
シリウスは隣の大犬市という街のチームだ。で、大犬市はアクエリアスでオーラム星に来た時、最初に上空を通過した街だ。
そしてそのチームのエースはポアシという左ピッチャーで、その彼が先発する試合だったんだ。
実はそのポアシこそ、セリア君やバナナ監督が言っていた「例の左ピッチャー」らしかった。とにかく、セリア君とどっちが凄いか「微妙」なほどの凄いピッチャーだ。
それで何と言っても僕はその「ポアシ対策」で、わざわざ遥か遠くの惑星から呼び寄せられた以上、負ける訳にはいかない!
だからその初出場の日、僕は六番指名打者で先発出場した。
僕は六番だから、プロキオンズ打線の一番から五番までのバッティングの間、グレープジュースを飲みながら、ポアシの投球をベンチからじっくりと観察した。
僕は地球ではいつも補欠だったから、ベンチからの観察にはとても自信があった。
ポアシはすらりと背が高くて、ちょっとセリア君と似たところがある。
だけどフォームは正統派のセリア君とは正反対で、超個性的だ。
僕の観察では、ポアシはぴょこたんと右足を上げ、左手は忍者みたいに体に隠すようにそろりそろりと振り上げ、いきなりビヨーンと腕を振る。全くへんちくりんなフォームだ。
しかも球が速い!
みんなはそのフォームに惑わされ、速い球に振り遅れ、しかもポアシ得意のスライダーにバットは空を切っていたんだ。
でも僕には妙な自信があった。
どんなに変なフォームにだって惑わされない、絶対の自信が…
その理由はこれまた僕のお父さんにある。
実はお父さん、酷い投げ方なんだ。
上半身はオーバースロー。
下半身はサイドスロー。
てんでばらばら。
しかもボールが手から離れる瞬間に、両足も地面からぴょんと離れる。
そんな投げ方、やろうったって簡単には出来ない。
多分地球では、お父さんと僕くらいだろう。
嘘だと思うなら、あなたもやってみるが良い。
それで、長年そんな酷いフォームで投げられたものだから、僕はピッチャーのフォームに全く無関心でいられるようになったらしい。関心持ったらマインドやられるし。
もちろんポアシのフォームも全くノーマルに見えた。(お父さんのフォームに比べれば…)
そうこうしているうちに試合は二回裏、ツーアウトランナー無し。突然、
「こらダイスケ。グレープジュースなんか飲んでいる場合じゃないぞ!」
バナナ監督に豪快に威嚇され、僕はベンチから飛び上がった。
〈そうだった。代打じゃなかった。打順が回って来たんだ!〉
それで僕は、この星のバット(のような物体)を持っていそいそと打席へ向かった。
だけど僕は、バッターボックスの手前に来ると突然、不安と期待と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安と不安で胸が爆発しそうになった。
しかもバナナ監督がベンチで僕を威嚇するものだから、ベンチで飛び上がった拍子にグレープジュースが鼻に入り、鼻がもぞもぞしていたんだ。
そしてその不安と期待と大量の不安と鼻のもぞもぞの中で、僕の脳内では性懲りも無く、こんな言葉がリプレイされ始めていた。
〈本当に僕はセリア君が地球で言っていたように「本当は凄いバッター」なのだろうか? 本当は「やっぱり大した事のないバッター」だったらどうしようどうしようどうしよう。困った困った困った困った…〉
だけどそのとき、僕の脳内の「別の宇宙の僕」が、こんな事を言い始めたんだ。
〈この期に及んで、そんな事を考えても仕方がないじゃん。プロ野球。イカしたドーム球場。開き直ろう。最高の舞台じゃん!やったれ~~~♫〉
それで僕はだんだんと勇気が湧いて来た。
そして僕は、もぞもぞする鼻を何とかするため、バッターボックスの手前で豪快に手鼻をかんだ。(きったねえ!)
すると鼻も頭もすっきりして、それで僕は冷静になれ、そらから僕は、
〈ポアシのフォームは関係ない関係ない〉
と念仏を唱え、そして、
〈ポアシじゃなくて、お父さんが投げていると思おう。フォームのへんちくりんさだったら、 お父さんは次元が違う。それに速い球だったら任せておけ。ギンギンのピッチングマシンの球と、エナッツ君の快速球でばっちり慣れっこだ!〉と、長々と自分に言い聞かせてから打席に向かったんだ。
とにかく僕は打席に立つまでの短い時間に、パノラマ視のように、我ながら感心する程いろんな事をごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃ考えていたんだ。
さて、それから僕は打席でじっくりとポアシの球を観察する事にした。フォームを観察してはいけない。球を観察する!
初球外角スライダー(ストライク)
二球目外角まっすぐ(ストライク)
ノーボールツーストライク。
いきなり僕は追い込まれた。
だけど僕は予想した。
最後は外角で勝負するために、その前に一球内角に投げて来るだろう。
それも〈インコースのストライクからボールになるスライダーだ!〉と。
それで僕は「インコースのスライダー来い」と打席で念仏を唱え、投球を待った。
ごちゃごちゃごちゃごちゃいろんな事を考えた僕の脳は、どうやらすっかり(考えることの)ウォーミングアップが出来、つまり脳が冴えわたっていたみたいだった。
だから予想的中♫
それで僕は思い切りオープンスタンス。
ばこぉ~~~ん!
歓声が上がったけれど、とっさに僕は思った。
〈ありゃりゃしまった。またファウルだ。あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”~~~、僕は大した事ないいいいぃ!〉
僕が絶望していると、
「こら、ダイスケ、走らんか!」
バナナ監督の大声だった。
〈そうだった。この惑星じゃあの打球は…〉
「ポアシのフォームを気にしちゃいけないんだ。フォームは見ないでボールを良く見て、シンプルに来た球を打つんだ」
翌日、僕はみんなにそんな話をした。
みんなは感心したように僕の話を聞いてくれた。
何と僕がプロ野球選手に打撃の指導をしていた!!!
ともかくこの時ばかりは、僕の酷い守備で凍り付いたみんなも、少しは僕の事を見直してくれたみたい。
しかもそれを隣で聞いていたセリア君が、とても酷いアイディアを僕らに提案したんだ。
「だったらダイスケ君がお父さんゆずりのめちゃくちゃ酷いフォームで投げて、皆がそのフォームを無視して打つようにすれば、練習になるんじゃないかい?」
たしかにセリア君は地球で僕のお父さんの両足ぴょんのバッティングピッチャーの様子を目撃していたんだ。
しかし本当に酷い提案だ。
でもって実際にやってみた。
主力打者たちは、出来るだけ僕の酷い投球フォームを見ないよう細心の注意を払いながら、その「シンプルな打撃」の練習に励んだ。
僕は僕でその酷いフォームにさらに磨きをかけ、例えば下半身はオーバースローなのに上半身はアンダースローだとか、あげくには「背面投げ」なんかもやってみた。
もちろん両足ぴょんも欠かさなかった。
「いいかい、ピッチャーのフォームは無視。ボールだけ見るんだぞ!」
ネットの向こう側でセリア君は大声をあげた。
その横でバナナ監督が僕の投げ方を感心したように見入っていた。




