第2話
「う、うぅ......ハッ!ここは!?」
(ダンジョン....気を失っていたのか。しかし、魔獣は?)
ここは世界中に無数あるダンジョンの中で最も災難度ダンジョンだ。そこに住まう魔物たちも当然凶暴で凶悪だ。気を抜けば一瞬で殺されるようなダンジョンで気を失うのであれば二度と起きることは絶対にない。
......はずなのに
(なんで........アッ!)
「聖剣.....エクス、カリバー」
今もなお地面に突き刺さった状態で神々しく光り輝く聖剣に目をやる
(これか......)
ダンジョンの奥の方を目を凝らしてよく見てみると魔物の気配後うじゃうじゃといることがわかる。しかし一向にそこから近づいてこない。それはこの聖剣の力だろうな
「この剣があればなんとかなるかもな........ってあれ?け、剣が.....抜けない?」
地面に突き刺さった聖剣を抜き取ろうとすると明らかに剣から拒絶されている感じがする。
「も、もしかして........ステータス」
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ナーユ
年齢:15
種族:人種
属性:幻(EX)、付与(EX)
魔力量:SS
装備:ボロい布、聖剣エクスカリバー
《称号》元神童、堕ちた神童
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Error
この武器は装備することはできません
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自身のステータスとは違う半透明で赤い板が現れ、短くそう書かれていた。
(やっぱり......あの時俺は勇者が所持する剣と想像、付与を施した。つまり.....)
「俺が勇者じゃないから.....か」
幻魔法と付与魔法を組み合わせた魔法はナーユが想像したものをこの世界に付与する。なら勇者が持ち、民を守るため、魔王を倒すために振るう聖剣をイメージして付与したこの聖剣はきっとその通りになったのだろう。
「あっちゃぁぁぁ~~~~」
(完全にやらかした。魔力もまだ戻り切ってないし、これはしばらくここで待機だな)
深くため息を尽き、魔力回復の為に集中した
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「.......よし。大分回復してきたな」
ナーユは魔力が完全に回復するのを確認すると体をほぐすため膝を曲げ伸ばしする。
(あとは......)
「せぇ~のっ!ふぅぅぅ~~~~ん!!」
無属性魔法の身体強化で全力で聖剣を引っ張るがやはりというべきか全く微動だにしない。
「やっぱり勇者じゃないと抜けないのか?.........」
(でも、勇者って属性?......いや、称号だよな)
そこでナーユはふと思いつく
「これ勇者の称号も作れるんじゃないか?」
想像するは数多の物語に登場する勇者。誰よりも前を進み、その眼前に立ちはだかる魔を打ち払い、人々に希望と笑顔を与えた伝説の存在。
「そんな希望の存在を.....」
魔力を練り、今度は自分に向けて発動させる
「ぐ.....ぐあぁぁぁっ!!」
瞬間とてつもない激痛が全身に広がる。そして、視界は超高濃度の魔力によって具現化した霧が充満する薄暗いダンジョンから真っ白で何もない空間に変わる
(あぁ......死んだか?)
先ほどまでの痛みが嘘のようになくなり、代わりにとても温かな何かに包まれたようなそんな心地よさを感じ、自然と自分は死んでしまったと思ってしまう。
『いいえ、死んでおりません......一時的にあなたの魂を神界で保護したのです。』
「ッ!?」
突然どこからともなく女性の声が聞こえてくる
「だ、だれだ!?」
『私は女神ユノこの世界を統べる者です。流れ人よ』
(な、流れ人?流れ人って?)
初めて聞く単語に思わず頭の中で反芻してしまう
『流れ人とはあなたのように記憶を持ったまま違う世界から転生してきた者たちの事を指します。過去には、あなたの他にもこの世界に流れ着く者が幾人かいました』
(なるほど...って今!)
『えぇ、読みましたよ。あなたの心の声』
(マジですか.....)
「ま、まぁそれはいいですけど......そういえばなんで俺はここに?」
『はい、それはですね......あなたが先ほど成した行為。あなたが『創成魔法』と名付けて行使した魔法は神の御業に同等します。その行為を人の身で行えば当然その魂は粉々に砕けてしまう。本来一度でも使おうとすれば壊れてしまうような行為を二度も行ったあなたの魂はとうに崩壊寸前です。なのでこちらで一時的に保護することに決めました。』
「な、なるほど......え?つまりもうあの魔法は使っちゃダメなんですか?」
(せっかくあのダンジョンもこの力があれば攻略できると思ったのに........)
『そんなことありませんよ』
「え!?」
もう創成魔法が使えないと落ち込んでいるナーユへ女神は告げる
『それはもうあなたの魔法です。その行使を私が制限するのは間違っています。しかし、それを再び使えばあなたの魂は完全に崩壊し、その魂が再び輪廻の輪に戻ることはないでしょう。私であれば創成魔法に合わせ魂の強化も可能です。しかし.....その、神が無償で人に手を貸すのは神界の規則に違反するんですよ。それで提案なのですが.....』
女神はその先の言葉を言いづらそうに口ごもる
(無償?.....あぁ、対価か)
「俺なんかに何を求めるんですか?できることならやりますけど」
すると女神の声はわかりやすいほど明るい口調になる
『では、今あなたがいるダンジョン。そこの最深部に眠る魔王ユグドラシルを解放してあげてください』
(はぁ!?)
「はぁ!?なんで魔王を!!?ていうか魔王ってそんな名前だったのか.......ってあれ、ユグドラシルって前の世界じゃ神樹の名前じゃなかったか?」
そう神樹.......または、世界樹とも呼ばれた木。世界の誕生した瞬間から存在し、人々の安寧を守って生きた伝説の木の名前だ
『その認識で間違ってはおりません。しかし、一つ訂正しなければなりません。ユグドラシルはそんな人にだけ恵みをもたらす都合のいい期ではありません。ユグドラシルはこの世界に住む全ての生命を愛し、見守ってきたのです。それを.......それをいつからか人間は人にだけに恵みをもたらす聖なる木として崇め始めたのです。それに憤怒したユグドラシルは聖なる木から反転し、邪なる魔王へと変わってしまった』
そこで女神は話を区切った。女神の声はわずかに震えており、それが怒りによるものだとナーユはすぐに気が付いた
『しかし、反転して得た邪なる力は自身を蝕む。ユグドラシルはその力を失い、人種によって封印されてしまったのです』
(..........)
『お願いできないでしょうか。ユグドラシルは決して邪悪な存在ではないのです。私ではどうにもできないのです。お願いします。』
「はぁ~~!わかりました。ご先祖たちの過ちのせいでこんなことになってしまったんだ。ならその罪はしっかり償わないと」
『あ、ありがとうございます!では、あなたの魂の強化と......魔力を今の10000倍にしておきます。あとステータスの表記も少し変化していると思うので』
「え!?」
『どうか....ユグドラシルを.......』
そう言うとどんどん意識は薄れ声が遠のいていった