第15話
「な、なにが起こってるんだ!?」
ティービーを通じて決闘を見る観客たちは、その光景にただただ混乱していた。
冒険者ランクとは、一種の成績でありクエストを一定数熟せば誰だってランクアップできる。しかし、ランクが上がれば上がるほどその難易度も跳ね上がる。討伐対象になっている魔物も相応に強力となる。
だから、
ラバーも決して弱いわけではない。『断絶』という魔法の中でも特に異質な適正を持ち、聖剣に選ばれる男だ。その強さは、高ランク帯が集まる王都ですら名が通っているほど.......
そんな男がいま誰とも知らない昨日登録したばかりの新人に戦いにすらならず弄ばれているこの状況に誰も声が出なかった。そして、この男もまたそのうちの一人でもあった
「何故だッ!何故........何故ぇーッ!」
ご自慢の聖剣と適正魔法で際限なく切りかかるが、そのすべてを躱すか謎の防御魔法によって阻まれる。更にはおろそかになった足を掬われ現在ラバーはナーユの足元に突っ伏していた。
「じゃあ終幕と参りますか」
そういってナーユはしゃがみ込み自身を見上げるラバーの両目を手で被せる。そして.....
「惑わせ『悪夢』」
その号令にラバーは力なく倒れこむ
「そこまでッ!この決闘ラバー=ジョーフーの戦闘継続困難と判断した為、フィスト=ミスティルの勝利とする!」
観客は一瞬の沈黙の後、ドッ!と湧き上がる
「スゲェー!なんだあの新人!剣聖の奴最後まで遊ばれてたじゃないか!」
「だから俺は言ったんだ。あいつはやるやつだってッ!」
「嘘こけ。そんなこと言ってなかっただろ」
っといった具合に観戦していた者たちからは様々な声が上がっていた。
「最後の魔法...あれは一体何なんだ?」
審判のミルテットがラバーを確認し、ナーユの元へ近づき困惑した表情で尋ねる。
「俺の適正魔法。『幻』それで望み通りの良い夢を見せてあげてるだけだよ」
「え......いや、どう見てもうなされているだろ........どんな夢を見せているんだ?」
「裸の男集団が次々とラバーに凌辱する夢」
それを聞いたミルテットは顔を真っ青にして、その両手で即座にお尻を庇う。そして一歩、二歩とナーユから距離を取る
「は、ハハハ.........ご愁傷様です。」
その目からは哀れみの感情が滲み出ていた。
「この魔法はいつ解けるんですか?」
「こいつが自力で抵抗するまで。ただし、俺がこの魔法行使に使った魔力はSS級の魔物が丸一週間掛けても出てこられない程に膨大だ。果たして人間は何時間で抵抗できるかな」
「..........」
ミルテットは静かに目を閉じ、ラバーに向かって手を合わせ合掌する。
・・・・・・・・・
「ただいッ....わっ!?」
挨拶を遮る形でユグドラシルが猛スピードでナーユへ飛びついてくる。その勢いは『流石神の子』と言う以外思いつかない程。その衝撃が不意打ちでナーユのボディーに直撃する
「グッフゥゥゥ~~ッッッ!!」
スーパーボールのように何度か床、壁、そして天井を跳弾し倒れこむ
「た、ただいま.........」
そう言い残し、意識を手放してしまう
「う、うぅぅん.........ここは?ッ!痛って」
火の光が顔を挿すように覆ってくる。それによって朦朧とする意識が徐々に覚醒し、重い瞼を開ける。そこに映ったのは見覚えのある天井。一、二度見た程度だがそれでも覚えている。起き上がろうと腹に力を籠めるとその瞬間激しい痛みがナーユを襲う。
(あぁ....そうだった。シルさんが俺に突って、俺がそれに反応できず......そんな感じだったか)
思い出すとさらに腹部が痛む
労わるように優しく自身の腹部を撫でる。しかし、そこでとあることに気づく
「あれ!?俺なんで裸なんだ?」
そして、更に.......
「それになんだ?この倦怠感........シルさん?お~い、ってぇぇぇえぇ!?」
「アンッ!♡」
更に更に
立ち上がろうと左手を支えに起き上がるとその手には生暖かく、とても触り心地の良い|《何か》があった。そして、それと同時に艶めかし嬌声が左隣りから聞こえる
その瞬間ナーユは全身の体温が奪われたように冷え冷えとし、そのくせ背筋から汗が滝のように流れ出す。
「もぅ........昨日あんなに愛し合ったのに、朝からなんて大胆なのね♡」
シルさんも裸、同じベット、それにシルさんの言った言葉。朝チュン........嫌な予想が頭を横切る。そして、それは頭の中に留まり。何度も反響する。
「ぁ.........消せ『忘却』」
「え!?ちょ、ちょっとッ!」
そこでナーユのとった行動は自身の記憶消去だった。
そして、またナーユは深い眠りについた
・・・・・・・・・・・・
「ゔぅ......ここは?あ、頭が割れる」
意識の覚醒とともに強烈な何かによる吐き気、そして頭を強打されたかのような痛みがナーユを襲う。
(二日酔い?....いや、俺前世でも現世でも酒なんて飲んだことねぇーよ..........)
「ゔぅ~~~........」
「やっと起きたのね、旦那様」
謎の苦しみにベットの中でうずくまっていると、ドアが開く音とともに何故か不機嫌そうな声で話しかけてくる
「え、なんで怒ってんの.......俺悪いことしたっけ......」
あらん限りの(蚊の鳴くような)声で聴く。
「あら、旦那様が自分で気づくまで教えてあげないわ」
プリプリと怒りながら、帰ってきたばかりのはずなのに再度出て行ってしまう。しかし、そうでないことは簡単に見通せてしまう。何故なら探索魔法をほぼ常時発動しているからだ。
ドアを閉めたのち、町に行くでも森に行くでもなく部屋の前でこちらの様子を伺っている
「!?!?」
(何故だ?この気分の悪さといい、俺は昨日何をしたんだ?)
謎は深まるばかりだった