七月一日 金曜日
週での投稿に切り替えます。
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訂正 一部、過去に考えていたものが消えず残っていました。削除済みです。
新しい一日が、自分にとっては二度目の金曜日が始まる。
「今日も晴れだな。」
カーテンを開き、朝日を浴びながらパッパラパット着替え身支度を整える。
朝早いこともあり雲一つない、晴天が広がっている。
「今回は結構順調で、運がいいな。一回目で吸血鬼バレの要因が取り除けそうだ」
ご機嫌に冷たい牛乳を飲みながら、そう思う。
殺害されたのは、火曜日の夜。
月曜日に何もなければ、大会という多くの人の目に映る催し事が原因の一端にある可能性が高いと考えられる。
「それを観客として見れるとは、運が良いわほんと。」
昨日帰りに買ったバターをパンに塗り、齧り、牛乳と一緒に飲み込む。
そうしていれば、学校に行く時間が迫ってくる。
いや、遅刻しそうだというわけじゃない。
前の金曜日とは違った行動をしてみようと思って、早めに行こうとしているだけだ。
洗面台で歯を磨き、顔に冷水を浴びせて拭いて玄関へと走って靴に足を押し込み、つま先を叩きかかとを整える。
そのまま外に出て。
「キイラさーん、これ今月の家賃。」
「あらぁ、今日は早いのね。」
玄関掃除をする兎人の獣人のキイラさんに封筒を手渡しそのまま走る。
走る理由はないが、気分が良くて快晴なのだちょっとぐらい走りたい。
「車と、竜車に気をつけてねぇ。行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
元気よく木霊する挨拶を交わして、いい機嫌のまま走り出した。
□□□□□
車に衝突されることもなく、竜車に轢き殺されることもなく、月姫雪菜と合うこともなく、ミイカに後ろから角でぶっ刺される事もなく、安全に学校へとついた。
「「「おはよーございまーす!」」」
校門では、風紀員のあいさつ運動が聞こえてくる。
「せんぱーい!!おはよーっス!!」
その中に、紛れてミイカの声が聞こえて、タッタッタッ、と列の中から飛び出てきた。
「あぁ、おはようミイカ。元気だな。」
「元気いっぱい、いつものミイカちゃんですよ。」
ドヤッとする頬を横から羽の生えた腕がつねった。
「うひゃ!いひゃいいひゃい!」
「ミイカくん。今は朝のあいさつ運動中ですよ?お喋りは程々にしてください。」
となりにいた緑髪で緑の羽毛を持った女の子のハーピーの亜人が、強く頬をつねる。
名札をチラリと見れば、ミイカと同じクラスで同じ学年であることがわかる。
すると、彼女がこちらをメガネ越しにキッと睨んできた。
「あなたも早く行ってください。ミイカくんがあなたに反応してやかましくなるんです。」
・・・ははーん、これはあれだな。
「ミイカぁ、モテ期か?」
「せんひゃいわひぇわからないこひょいぅまえにモミジのてひょはなふひょうひいっひぇくだひゃい、ほっぷぇとれりゅ・・・」
「あ、ごめんミイカくん!」
パッと手を離され、ミイカの持ちみたいに伸ばされてたほっぺが元に戻る。
「大丈夫!?ごめんね。わ、悪気はそんなにないの。」
「ちょっとはあるんすね・・・。いや、大丈夫っスよ。でも、モミジ.・・・次からはやめてくれっス。とれちゃう」
たく、目の前でいちゃつきやがって・・・。
「俺は先に行くよ、ミイカまたな」
「あ、先輩。私の部活終わり、良かったらラーメン食べに行きませんか?」
背を向けその場を離れようとした時、ミイカにそう呼び止められる。
放課後。今日は放課後に調べることは別に・・・ない。
「あぁ、いいぜ」
「やったーっす!」
「・・・・・・ずるい」
なんか小さく嫉妬の声が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「ミイカくん、そのわたしもいつか・・その、買い物手伝ってくれたりしない?」
「んん?別にいいっすよ?モミジにはよく勉強手伝ってもらってるし、荷物運びでも何でもするっスよ!」
「あぅ・・ちがうぅ」
・・モミジよ、頑張れ。
□□□□□
授業、一時間目。
「はい、皆さん。恐々な今日の!興が乗る教は!魔術の練習です」
白いフクロウの獣人。ジキル先生は首をグリングリン回しながら、教卓に佇み奇声を発していた。
いつも思うが、この先生はちょっと怖い。
「人性を得る人生=復讐的な復習!・・つまりはおさらいです。魔の技、外方の技。それは魔術と魔法なり。魔法、それは限られた存在が使える『自分だけの固有術式』。魔術、それは『あらゆる存在が使える平等な術式』。これは、皆さん一年生に学びましたね?」
クラスの全生徒に同意を求めているのか、九十度グルンと首を回し傾げる。
「悪魔、妖精、小人族、鳥人族、魚人、人魚、兎人など一部の獣人、亜人は生まれつき、もしくは「契約」により、いくつかの魔術を『練習せずに』使えるようになることも。知っていますね?…では、おさらいは終了です。識り知るか?では初めに始めようか!?」
傾げられていた首が戻り直立。光のない黒い穴のような瞳が、全生徒の魂を吸い込まんばかりに凝視した。
そして、カンッ、といつの間にか握られていた木枝の杖が地面を叩く音が聞こえ・・
「『顕現せよ、深淵の門。こちらが覗けるなら、お前もこちらが覗けるだろう。』」
魔術ではない、誰にも使えないその人だけの魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣によって空間が歪み、クラスのドアの先が違う場所につながった。
これが、魔法。魔術では再現不可能な現象だ。
「趣向き赴くままに赴かん!学校の別館つまりは体育館!・・・では、番号順で先生の後ろについてきてください」
□□□□□
「『火よ』」
ジキル先生が配った魔術式が刻まれた指輪に意識を集中させ、火の粉を散らさせる。
そのまま次の段階へ、生まれた火花を集め硬め球へと形を整形していく。
「『火よ、加速を持って敵を・・・』」
その刹那、形作られかけていたブサイクな球炎が散り散りにほどけ消滅した。
「・・うまくいかないなぁ。カイ、そっちはどうだ?」
「形成はできるが、まだ打ち出せねぇわ。打ち出した瞬間マナの構築が崩れる。」
ここはワンダーランド学園の別館・・つまりは体育館だ。そこでする魔術練習が1,2時間目の授業だった。
本格的な戦闘魔術の授業は、高校1年生から始まった。
だが、亜人と比べマナの扱いが飛び抜けて不器用な人族の自分は、未だ火球の形成さえ満足できない状況だ。
「特別扱いはしない。だが、不憫には思おう。不便なる不憫すなわち不屈の精神!!」
「うわぁ!?」
「あ、ジキル先生」
カイと話していると、ジキル先生がぬっと入り込んだ。
『知っていた』自分は驚かなかったが、カイは急に現れたフクロウの横面に飛び上がる。
「ジ、ジキル先生、あんまり驚かさないでくれませんか?」
「死刑湿気失敬系!・・・驚かせたなら済まない。魔術のコツと基礎は集中だ。体内のマナを指輪、その魔道具に集め、術式を構築する。やり方が分かれば、地図を見なくても帰り道がわかるように魔道具なしでも魔術を使えるようになるはずだ。頑張り給え。」
カイへ謝罪し自分へそう言い終えると、ぐるんと彼はその白い顔を180度回転。そのまま後ろ歩きで別の生徒のところへと歩いていった。
「・・なぁ秘織、やっぱあの先生不気味だよな。」
「優しい先生なのはわかるけど、やっぱ怖いよな・・。」
そんな言葉の交換で会話に区切りをつけ、再び魔術練習に戻る。
しかし結局、魔術は最後まで前と同じで形になることはなかった。