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六月二十九日 ③

「先輩と同じ人間の人じゃないっスか!おはようっす!」

「ん、おはよう」


 静かに、凛とした声に鼓膜が震える。

 美しい。何度殺されても最初に頭に浮かぶ言葉は、いつもそれだ。

 可怪しいとわかっているのに、異様だと自覚しているのに、俺はいつもそれに見惚れてしまう。


 日傘の下から、赤い瞳が上目遣いのジト目でこちらの目を覗き込んだ。

「お は よ う」

 もう一度同じ言葉が、何かを求めるように語気を強くして紡がれる。


 息を忘れるほどに、その目に飲み込まれそうになりながらも頭は彼女が何を求めているものを知っていた。


 息を吸え、声を出せ、惚けている場合ではない。


「・・・・お、おはよう。月姫さん」

「ん、おはよう」


 小さく開かれた口には、あの夜に見た異様に長い犬歯は存在していなかった。


 彼女は「おはよう」を返されて、満足したのか、自分から視線を外してスタスタと歩調を合わせる気がないように自分のペースで先を歩き、人ごみに消えていった。


「はぁ〜、あの人間は先輩の幼馴染...ですよね?なんか、距離遠くないっすか?昔見た漫画だと幼馴染ポジションってあんなんじゃなかったっすよ」

「リアルだと幼馴染ってだけで、仲が良いとは限らねぇんだよ。実際、挨拶する程度の仲だし」


 なのに殺されるのだから、あいつの頭の中はどうなってんだ本当に。


「あぁ・・・快晴だな」

「・・・?そうっすね」


 7日。それまでに、何が理由で誰によってどうしてあいつが吸血鬼バレしたのか、突き止めなきゃならない。じゃなきゃもう一回、首絞めが待っている。


 思い出したあの情景に、ゾワゾワと背筋に電流が走る。

 さすがに困る。このままアブノーマルな性癖が生えてくるのは、ちょっと忌避感がある。


 早く見つけないと、と思考の暗雲に曇る頭とは全く違う青空にため息を付き考える。

 それを見たミイカがどうしたのかとオロオロするが、彼がそれに気づくことはなかった。

 □□□□


 この日の放課後は、タイムリミットの一週間の中でどんなイベントが有るのかどうかという事を調べることにした。

 この学校の生徒である鳥人族のハーピーの二人組が空を飛びながら、楽しく談話する様子をぼんやりと見ながら、図書館へと歩く。

 前のこの日は、部活の先輩に見つからないようにそのままダッシュで帰宅してたから、こうやって違う一日の風景を見るのは少し楽しい。

「死ぬのはゴメンだけどな。」

 一年の春とか、死因もわからず何度もループしてたし。


 暗い、電気もついてない一室の前にたどり着く。

 ここが、この学校の図書館だ。

 扉を開けば、明かりがつく。特殊な魔術によって拡張され、外見よりも大きく広く作られたその空間には誰もおらず、司書の生徒がいるはずのカウンターには積み上がり文字通りの山の塊になった本が存在するばかりだ。

「カオリいるか?」

「いぃますぅうう」

 その本の山から、ふさふさの猫の尻尾が二本ミョコンと生えた。

 その山からさらに、腕が生える。

 山を突き破り頭が生えて...


「・・・猫又なのになんで、モグラみたいなことしてるんだお前?」

「落ち着くのでぇ...」


 大きく伸びをした少女。

 黒髪黒目の猫又の亜人、鈴街カオリはズレたメガネを直しながらそう言った。

 □□□□


「私に、何か用ぅ?」

「一週間中にある、学校の行事教えてくれない?」


 黒い目がジトリと睨んだ。

「それだけ?それだけでぇ...私を起こしたの?」

「....悪かったよ。」


 寝ていたのかよ。気づけないって。


 あぁ、畜生。不機嫌なのが見てわかる。私に聞かず学年行事の紙を見やがれという顔だ。

 しかしながら、二回も三回も何かの見落としで、死に戻るリスクは避けたいので、物知りで間違いなく信頼できるやつに聞いておきたいのだ。


「お前以外に頼れるやつは、もうラノベグルイの先輩しかいないんだよ。頼・・・」


 ブツンと電気が切れた。

「・・・なぁ、なんで切れた」

「私が、電球交換してないからですねぇ」


「やっとけよ」

「面倒ですぅ。「鬼火」ぃ」


 ぽんと、2つの火の玉が彼女のよじる尻尾から出てきたそれがあたりを照らす。


「・・・もしかしてだけど。今、図書館に人がいないのって」

「私が、電球交換サボって不便だからですねぇ」


 ぽわぽわと、責任のなさからくる軽い言葉。

 こんなのが、図書委員で良いのだろうか・・・


「めんどくさいなら俺が変わりに直すので・・・教えてください」

「交渉成立でぇ・・・」


 起こしたのはこっちだし、頼み事をする立場だし...一時間ラノベ語りに付き合わされるよりはマシだから良しとしよう。


 こうして、情報収集と電球交換で、二度目の六月二十九日は終わった。

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