六月二十九日 水曜日
「朝。・・そして、殺されたな」
布団の中、スマホを片手に言葉を漏らす。今回のタイムリミットは今日を入れて七日。七日以内にあいつは、誰かに吸血鬼だとバレるようだ。
「・・何が原因でバレたんだよあいつ・・クソ」
殺されたことよりも、その原因を考えなきゃならなくなったことに天を見上げる。快晴だ。ざけんな。
パッパパー、と着替えながらキッチンに向かいパンをトースターに放り込み、つまみを回し、赤くなるのをみながらコップにミルクを入れて乾いた喉に流し込む。
さて、パンが焼けるまで時間があるから自己紹介といこう。
俺は、上代秘織。二階建てのおんぼろアパートで、一人暮らししている人間で、至って普通の高校生だ。
そして、接点がほとんどない吸血鬼の幼馴染に事あるごとにぶっ殺されて、死ぬたびに死に戻りしている男だ。
・・字に起こすと全く普通じゃない。
まぁ、置いといておこう・・なんで、殺されているかと言ううと、幼馴染が吸血鬼バレしたからだ。
なぜか知らないけど、周りに吸血鬼だとバレると、彼女はは真っ先に自分を殺すのだ。
なぜなのか、それは本当にわからない。
いや、いろいろ聞こうとはした。誰もいないところで吸血鬼だとバレたら俺を何で殺すのかと聞いてみたり。
わかったのは、聞けば最後グーパン一つで容赦なくどこであろうと心臓ぶち抜いてくるという事だけだった。
「う・・思い出すだけで、食欲失せてきた。」
トースターから取り出したパンに、いちごジャムを塗り口に入れる。
なんでこういうときに限ってバターを買い忘れてるのだろうか。
こんなふうに、俺をぶっ殺してくる幼馴染だけど・・一応、バレなきゃ殺しには来ないのだけは確かだ。幼稚園の頃からご近所付き合いしてきた俺が、幼稚園児のまま一生同じ時間ループしていていないのが根拠だ。
「なんで殺されるのか、未だにわかんねぇけどな。」
最初は困惑し、泣いてたり、鬱になったり、あいつを殺そうとしてたが.・・もう死にすぎて心が麻痺してしまった。
「それに、バレなきゃ普通の知人だし、俺は死んでも死んでないし・・だったらもうバレないように根回ししたほうが早いんだよなぁ」
ちなみに、死に戻りしてる理由はよくわからない。幼稚園の頃からしてる。死因は、言わずもがな。
「中高一貫。大学で別々だ。それまで、バレないようにすればいい。」
なんだか、鬱々としてきたのでその言葉で自分を鼓舞し、上着を羽織り、歯を磨きして靴を履く。
扉を開ければ、青空の下清々しい朝が待っていて。
「あら、秘織くん。おはようねぇ」
「あ、おはようございます、キイラさん。」
箒をもち、服を着た人間大の白いふわふわなうさぎが玄関口を掃除していた。
このアパートの大家、獣人の兎人のキイラさんだ。
もう一度空を見上げる。飛行機と龍が並行して空を飛んでいた。
「毎回思うけど、爺ちゃんあたりの世代ならこれ見て大興奮してたんかなぁ。俺に爺ちゃんいるかしらねぇけど。」
昔のライトノベルのファンタジー。
それが混ざりあった今の現代において、やっぱり死に戻りだけのただの人間の自分は、普通の高校生を名乗って良いのではないかと思う。