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七月三日 日曜日 ③

満足いくものができず、全部書き直ししなきゃってなって、毎週投稿できなくなってしまっていました。

楽しみにしてくれていた方はすいません。

「としでんせつ?」

「今はやっている噂話。根も葉もない根拠不足の面白摩訶不思議話っスよ」


 知らなかった。そんなうわさ話を俺は誰かとなんてしたことがない。‥‥‥というか、カオリとカイ、ミイカ以外に話し相手いないな。

 うんそりゃ、聞いたことないわ。

「おやぁ、先輩、時代に乗り遅れてますスか?最近、学生たちの間では有名な話の種ですよ?」

 知らない自分にミイカは意地悪なドヤ顔をした。


「うるさいわ。まぁ、で?その都市伝説ってのはなんなんだ?」

「いくつかあるっス。人がいないはずの場所から現れる一瞬の光、っていう小さい物や、真新しいものなら、魔法に関するものまで」


「魔法が絡む都市伝説?魔法って生まれつきだろ?」

「そう!今からそれを話すのはそれッス!なーので!その好奇心はキープでお願いするっス!」


 そう元気いっぱいに言った後、ミイカが静かに息を吐いて、雰囲気がガラリと変わった。目は細められ、呼吸は落ち着き、声色は感情を削いだ物に変化する。



「−−これは、とある人から聞いた話っス。この都市には、魔女がいる、と。」

「‥‥‥魔女?」


 全く聞き覚えがない言葉を無意識に反復してしまう。


 ミイカはその反応を見て二ヤっとしながらも、『真面目な語り部』という役になりきったように淡々とその噂について喋り始めた。

 □ □ □ □ □

 これから語るのは、誰かの話です。

 それは、落ちこぼれてしまった少女(亜人または獣人)の話です。


 ある日のことです。彼女は誇りを失いました。彼女は夢を失いました。彼女は肯定感を失いました。

 一つの失敗がまるでドミノ倒しのように、今を絶望で押しつぶしてしまったのです。

 彼女は空っぽになった自分を何かで埋めようと考えました。虚ろな目で、泣いて赤くなった目で、自暴自棄な感性に従って考えました。


 真夜中12時に彼女は鏡の前に立ちました。

 頭を垂れて、鏡を見ないように儀式を始めます。

 そう、すがったのは噂の『魔女』でした。


 少女は唱えます。少女は捧げます。

「忘れ去られた魔女よ、忘却から生まれ落ちた存在よ。私を贄に、私に力をください」

 空っぽの自分を、愚図な自分を少女は『魔女』に捧げたのです。


『あぁ、哀れな忘れ去られた子羊よ、その願いを叶えましょう。』

 そして、優しい『魔女』は現れました。

 少女の背後に現れました。

 少女の目先の鏡に現れました。


 ですが、振り向いてはいけません。顔を上げてはいけません。

 顔を見られると魔女は怒ってしまいます。


 噂の魔女は、顔を見てしまったら最後、その者を焼き殺してしまうのです。

 骨の髄から、灼熱で、じっくりゆっくり燃やしてしまうのです。


 優しい魔女は絶対に、顔を見られたくは無いのです。

 少女は地べたに頭を付けたまま、魔女に懇願します。


「私を特別にしてください。どうか、私も魔女にしてください」

 魔女は優しい声でその望みに応えます。

『ふふ、良いでしょう。これであなたも魔女です。ですが、一日だけですよ』


 その言葉を聞くや否や、少女の意識は闇の中へと落ちてしまいました。


 少女は小鳥の囀りで目を覚まします。

 頭の中にはすでにその言葉がありました。

「野に咲く花よ、世界を苗床にその花弁を見せて」

 その一言で、花は咲いたのです。

 自分に自信を持てない少女を励ますように、花畑が床一面に広がったのです。


 少女は世界を変える『魔法』を、手に入れたのです。

 少女は夢見た特別に成りました。


 □ □ □ □ □

 ピタリ、と。お話が止まった。

「めでたしめでたしっス!」

「お、おう」

 意識がふわふわする。どうやら相当、ミイカの語りに集中していたようだ。

「どうっスか!どうっスか!不思議でしたか?面白かったスか?」

「ミイカの語り方がうますぎてとてもよかったよ。‥‥‥なぁ、この都市伝説って魔法が手に入るって言う話だよな」


「そうっス」

「ありえるのか?そんなこと。だって、魔法だぞ」


 魔法。それは、生まれつきででしか得られない祝福。

 世界に一つだけの、そして、後転的に得られるはずがないモノ。


 魔法は持たざる者は絶対に持てない。才能や、努力でどうにかなるものではないありえない。

 後転的に、扱えることなんて絶対ない。例外は無い。裏技も存在しない。そう、授業で習ったはずだ。


 困ったようにミイカは、言う。

「あの先輩、これは妄想。作り話っスよ?」

「いや、それは、わかるんだが」


 ミイカの話し方がうますぎたからかもしれない。

 俺には、どうも実際にあった物語のように感じれてしまったのだ。


「まぁ、そうっスね。ありえないっスよ。『魔女』と契約すれば魔法を得られる。そんな甘い話があるわけないって、どこまで行ってもこの物語は作り話として、そんなわけないじゃーん、と笑われるてるっス」


「でも、ありえるわけがない。だからこそ、持ち得れないはずの魔法を得られるこの噂は、特別に憧れる学生にとっては垂涎物なんス。まぁ、ミイカには全然わかんないっスけどねー特別なんて‥‥‥」

「ミイカは、魔法に興味ないのか?」


 魔法を羨ましがらないミイカの言い方に対して、純粋な疑問を投げかける。


 言いずらそうに、目を伏せながらも、虚勢を張るような声でミイカは答えた。

「いやー、魔法なんて、怖いじゃないッスか。魔術と違って技術もいらずに、ただ唱えるだけで、いたずらに世界を書き換えられる。自分がそんなもの使うなんて、考えるだけで恐怖っスよ~」

「‥‥‥ミイカは、優しいんだな」


「そうでもないっスよ?先輩は、ミイカをかいかぶりすぎっス。あと、先輩はこれをやろうとは思わないでくださいっスね。本当に起ったら、こわー!なんで」

「ん?どしてだ?」


「この話には、まだ先があるんスよ」


 □ □ □ □ □


 それは魔女になった彼女(亜人または獣人)の話です。

 魔法を得た彼女は、その日、一日をとても楽しく過ごしました。

 花を生み出し世界を彩り、見たくないものを全て可憐な花びらで覆って。


 人生で初めて、最も幸せに、気ままに楽しく過ごしたのです。


 ですが、それは一抹の夢。刹那の夢。


 一日が過ぎた時、彼女の首がぽろりと取れてしまいました。

『子羊よ、楽しかったですか?』


 優しい声と共にそれを拾い上げるのは、どこからか現れた優しい『魔女』。

『魔女』は大事そうに、彼女の首を抱えて消えました。


 優しい『魔女』に首を奪われた彼女は崩れ落ち、倒れ動かなくなりました。


 物語はこれで終わり。これで終幕です。


 □ □ □ □ □

 一切のおふざけもなく、感情の機微さえかき消して、作中の無機質な死を表すような声でミイカは語り切った。


 つまるところこれは、美味しい話には裏があるという話だ。魔女にすがった者は最終的に首を奪われる、そんな都市伝説だったのだ。

「ふーん、なるほど‥‥‥」

「な!?え???えぇ!?反応薄くないっスか!?」


 その無機質な死になんの反応も示さない上代へ、まじめな顔をしていたミイカがその顔を崩して悲鳴を上げた。

 手をバン、と机にたたきつけて体も乗り上げている。

「え、なんだ!?あと、ここは店内店内!」

「あ、す、すいませんっス!‥‥‥でも、いや、あの、先輩?死ぬんスよ?首から上ががなくなって!そうなればどんな方法使っても絶対蘇生も復活もできないって授業で習ってるっスよね!?」

「習ってるが?」


 ゆっくりミイカが元の席へ座り、驚いたように当たり前のことを聞いてくる。


 腕が取れた、足が取れた。それなら、高価な薬や名高い術師に頼らなければならないが、生やすことができる。

 死んだとしても、死にたてほやほやで脳死が確定する前までなら、蘇生できる可能性が残っている。


 だが、頭を叩き潰されたら、その可能性は絶対になくなる。

 絶対の死が、確定するのだ。そう授業で習っている。


「それならなんでぇっスか!そこは普通、怖がるとこっスよぉおお‥‥‥」

 ふにゃふにゃと力を失ったようにミイカが崩れ落ち、それを見ながら上代は困ったように頭を搔いた。


 確かに、『死』は怖い。怖くないとは言わない。怖い。怖いが、『死』の先がある上代が恐れているのは、『死』そのモノだけとは言わない。上代が恐れている『死』とは、いつ月姫(現実)吸血鬼(非現実)に変わるのかを含めてのもの。


 殺し方も殺しに来るタイミングもわかる即死程度で、『魔女』を怖がることはできない。

 だって、殺し方も殺しに来るタイミングもわからない『月姫雪菜』の方が怖いのだから。


「なんか、すまん。怖がれなくて。怖い話をしておいて、オチで相手が怖がらないとかちょっとやだよな‥‥‥」

「ちがう‥‥‥いや、間違ってなくはないっスけど、違うっスよぉ‥‥‥やってほしくないから、怖がらせようとしたんスよぉ!!」


「ん?今さっきの話で、何かミイカに不都合ってあったか?俺が死ぬだけだろ?」


 この都市伝説を俺がやってもし成功したとしても、最終的に俺が死ぬだけで何もミイカに不利益が生じないはずだが‥‥‥。


「はっあぁ‥‥‥。なんでわかんないスか!ヒオリ先輩に死んでほしくないからっスよ!人間なんて、吹けばパンッて死んじゃうんぐらいもろいんスよ!心配するし、元気でいてほしいって言ううのは先輩ラブなミイカにとっては当たり前なんスよ!このにぶちんばかー!」

「にぶちんばかって、聞いたことないなぁ」

 そう言って茶化したのだが、それがお気に召さなかったらしい。

 後輩は怒りを全身で表すように、手を小さくぶんぶんしながら。


「‥‥‥んーもう!申し訳ないからで始めたお茶濁し話でしたけど。知ったこっちゃないです!ミイカは怒りましたっス!当分、ミイカは先輩のことをちょっとぞんざいに扱いますからね!」

 ミイカがキッと睨みつけてくるが、怖いというより可愛いが勝っている。


「それでいいよ。そもそもミイカは、俺に尊敬を抱きすぎなんだよ。ちょっとぞんざいぐらいが、きっとちょうどいいぜ?」

「ふふん、そういってられるのも今の内っス。あとあと泣いて謝ってもぞんざい扱いを辞めてあげませんっスよぉ~」


 にやにや意地悪顔。なるほど、こういうのがミイカの言う『ぞんざい』か。

「泣かせられるもんなら泣かしてみろよミイカ。俺は、エアコンなしの真夏でも音を上げずに我慢できる男だぜ?」

「え、それは普通に心配だから今すぐ改善してほしいっス」


 ガチトーンの言葉とどこか哀愁漂う目でドン引きされた。

 さすがに、ちょっと泣きそうになった。

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