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月姫雪菜は絶滅した吸血鬼  作者: 黒い水
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七月二日 土曜日②

 休日の学校の廊下。

 いつもの騒がしさは皆無であり、学校らしくない静寂さの中で、汗をかいた私服の男子生徒と、学生の平均身長以下の小さな幼女体系の誰かが話し合っていた。


 幼女体系の誰かはニコニコしながら、男子生徒に小包を差し出して・・・。


「こんにちわぁー!よーく来てくれたのです!ほら、これが頼まれてた例のブツですねぇ!」

「なーにがぁ、ブツですよだよ!頼んでねぇよ「頼んだ」の間違いだろうが・・・休みの日に呼びやがって」


「先生に向かってため口とは、ひどいですね!尊愛敬愛師愛親愛が足りてないねぇ!まぁ、許しましょう!これが大人な女性ってやつです!」

「先生ってんならもう少し生徒を気遣えよ。そして、愛がほしいならそれらしく振舞ってくれ」


「おやおや、好感度が足りないのですかね。選択肢ミス?」

「休日に用事押し付ける選択肢が正解でたまるかぁ!!」


 目の前の幼女のような先生に叫ぶ。


 そう、このちっこくて、会話するだけで一日の平均ビックリマーク摂取量を爆上げしそうなのが、俺の担任。戦潜海火(せんせんうみび)、海火先生だ。

 名前からわかる通り人族側であり、そして、後転的に純粋な人間ではなくなった『半人』に分類される人だ。


 年齢はわからない。先生をやっているのだから、最低でも外見年齢以上ではあるんだろうが、どの生徒が聞いてもはぐらかされるのだ。


 立場の説明としては・・・なんというか、クラスで尊敬されてないタイプの先生だ。

 ちっこい見た目もさるごとながら、恋愛漫画に対するねじが外れてるのが問題だった。


「ていうか。なんで、わざわざ月姫とは別クラスの俺を呼ぶんですか・・・。あいつ、俺と同じの冒険系ではなくて、魔導系ですよね」

「電話ではああいいましたが、とくに意味はありませんよ!人間の男女間の恋が!見たいとか!そんな私利私欲に先生が突き動かされるわけないじゃぁないですか!でも、人間の幼馴染とか希少の希少!良くも悪くも二人の仲をつないどくのはきっと君のためになる!そのついでだよついでに、幼馴染みと恋仲になって恋愛漫画「君の瞳で卓球を」みたいな展開をやってもらいたいだけです!ランランちゃんから聞いてますよ?仲いいんですよね?」

「マジでなんで、貴方が先生になれたのかわかんないんだけど。あと、本音をわかりきった嘘で丸めたあとに、隠す気なく本音とクソみたいな建前を垂れ流すのやめてもらっていいですか!?あとランランは殺す」

「なにいってるかわかりません!あと、理解するな!感じろです!あと、ランランは、もうメッ!ってやって半殺しにしたので大丈夫です!」

「グッドでよくやっただけどそれ以外はバッドだ!」


 と、こんな感じに、リアルで恋愛漫画のきゃぴきゃぴを見たいとかいうイカれた人なのだ。

 ・・・意外にまじめな時はまじめらしく、恋愛相談はしっかり乗ってくれるから女子生徒からの評価は高い、と言われているのだ。でも、会話してると本当か怪しくなる。その噂、バーバヤー・ランランが流してるんじゃないのか?


 ・・・あと、その漫画、本当に恋愛漫画か?

 タイトルを通した編集者は何考えてんだ?


 そんなことをぶつくさ頭で思いながら、最後の嫌がらせに、面倒くさいんですよオーラを垂れ流しながらしぶしぶ小包を受け取る。


 両手で包めれないほどには大きいが、それでもそれほど大きいわけではない正方形の箱の小包だ。具体的に言うなら、サッカーボール程といったところか。


 そして、微妙に重い。


「これ、なんですか?」

「私にもわかんないんだよね!まぁ、開けるなってのと、アリス校長からのものだっててことはジキル先生から聞いてる。だから開けないように!」


「はぁ、わかりました」

 アリス校長。その名が出たことに、少し驚きながらも、うなずく。


 アリス校長、フルネームは夢現(ゆめうつつ)アリス。この学校の校長をしている人で、そして、魔族と人間のハーフだ。


 これだけしか俺は知らない。


 ・・・知らないのは仕方ないと言い訳させてくれ、始業式にも出てこず、いくら調べても何の情報も出てず、年齢も性別も何にもわかんない、学校にも全く来ない。挙句、顔が唯一見れる機会の始業式でも顔を出さず、送られてきた手紙をジキル先生が朗読してお終いにするとかいう謎しかない先生なのだ。


(始業式の時の手紙も『長生きしただけの老骨の長話を聞くほど君たちも暇じゃないだろう?勉学に励め!以上!』だったし・・・)


「そんな校長が、月姫になんの用やら・・・」

「まぁ、希少な純粋な人族だしね~。魔導系だし・・・実験素材とか、魔法瓶とか・・・あ、もしかしたら金のスニッチボールかも!」

「なんですか、それ」


「若者にはわかんないよね、とほほ」

「?」


 がっくり肩を落とす海火先生に困惑の視線を送るしかできることはなかった。


(それに、月姫は人族じゃなくて吸血鬼だし。ていうか、あいつどうやって、いろんな検査の目をかいくぐってるんだ?躱しようのない人類保護機関の学園全体検査でも、人族は二人いるって結果だったし)


 ・・・この頃、月姫のことを思うたび疑問が噴出してくるな。


「はぁ」

「おや、ため息とは・・・幸せが逃げますよ?」


「それも先生特有の昔の知恵ってやつですか?」

「いえいえ、昔の迷信ですよ昔の、ね!では。気をつけて」


 お話は終わりなのか、先生はとことこと、職員室に向かう。


 それを見て、下駄箱へと向かわんと俺も歩を進め・・・。


「上代君」

「ん?」


 振り返る。海火先生が立っている。


「良い青春を」

「わかってますよ」

 海火先生の良いこと言ったわーというドヤ顔を手で払いながら、その場を後にした。

 □ □ □ □

「あっづ」

 学校から一歩出れば、夏特有のコンクリートが発する熱気が冷えた体をなぶり、急速に体へ熱を流し込んでくる、カンカン、と照らす日差しは日陰に慣れた目を容赦なく焼き、ちょっとした立ち眩みをを覚えるほどだ。

 夏に入ったばかりでこれだ。先が思いやられるってどころの話ではない。

 まぶしさに目を細めながらも、校門をまたいで歩道を歩く。


 玉にならないじっとりとした汗が背中を伝う頃に、ようやくたどり着く。

 月姫の家、その()()()


 木の葉をびっしりとつけた木の枝の数々。それが数多の木の数だけ重なり合い、地に大きな木陰を作り出していた。

 山。そう山だ。


 目の前には山があり、その入り口に俺は立っている。

 首を少し上げれば、遠いとは言わないが近いとは言いたくない距離に建物があった。


「森の洋館に住む吸血鬼・・・吸血鬼を知らない人類保護機関が月姫をここに割り振ったなら、ドンピシャだよ畜生」


 その建物は森の中にあるせいか、不気味なオーラを発しているようでならない。ここから見える白いカーテンで遮られた何の変哲もない窓一つでも、その奥から何かがこちらを覗いてるようなありえない錯覚を覚えてしまう。

 俺には、その不気味さが自慢しているようにしか見えない。

 吸血鬼にとって、こんな森の洋館は素晴らしい住処だろ?、と。


「ま、その通りだから何とも言えねぇよ。カーテン裏の錯覚だって本当かもしれないしな」


 滅びたはずの使徒級魔獣に分類される吸血鬼。それが相手なら、自分の思う予想外ぐらいなら簡単に乗り越えてくるだろう。


 そんな疑いを持ちながら。ミンミンと、少なくない早起きの優等生ゼミが行うコーラスに歓迎され、コンクリートと土の境界線をまたいだ。

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