七月二日 土曜日
惰眠をむさぼり、目を開け、上代秘織がつぶやいた一言は。
「あっづ」
熱い。当たり前だが、今は夏、夏である。そう夏なのだあづい。
一人暮らしの部屋の中、半そで半パンという小学生コーデで、網戸と扇風機の風にあたりながら、ベッドの上で熱さを逃がさんとごろごろり。
古き懐かし三種の神器の空調機器はどこへやら、ここだけ時代遅れの天然サウナだ。
「早朝は涼しいが、やっぱり九時ぐらいになると熱いな・・・」
スマホを引っ掴んで、電源入れれば安心さえ覚えるホーム画面が光を放ち、日付がしっかり進んでいるとわかる。
「寝首は掻かれていない、と。いや、掻かれてこの時間に起きてたら遅刻まった無しでたまったもんじゃないんだが」
大きくを伸びをして、台所に向かう。ボールにドライフルーツとコンフレークのミックスを入れ牛乳をぶち込みスプーンで食べていく。
手抜き飯だが、土日なんだからこれぐらいの適当は許されて当然だと言い訳しよう。
「くぅ・・・ぅ」
満腹になった幸福感のまま、手を上に突き上げ背伸びをする。
関節がバキバキなるのを聞きながら、何をしようかと考えて・・・ハッとなった。
「課題あるわ」
寝ぼけ頭のまま、机に向かう。
□ □ □ □
いくらか、時間がたった後。
課題を引き続きやるが、めんどくさいゆえに思考がそれていく。
仕方ないと言えば、仕方ない。月姫に殺される前にもやっていため、二回目なのだ。
「二度目だと言ってもめんどくさいことには変わりないんだよなぁ」
しかも、新鮮味がないので辛さが倍だ。
答えなんて丸暗記しているわけがなく、計算問題は一から。
論理魔語と、魔術基礎、化学基礎のノート提出課題の答えの筆記はなんとなくわかってても。シャーペンを動かすことそのものが面倒だ。
「あと、あづい」
エアコンがついてない部屋というのは、もはや処刑部屋とかわらないのではないかと・・・ん?
「・・・え、死ぬの?俺死ぬ?」
処刑部屋だろうと、苦笑しようとして、ではなんでこんなところにいるんだと呆気に帰る。
そういえば、ワイドショーかなんかで、熱中症を発症するときにほんとに怖いのは脳が熱でぐつぐつ煮えることだかなんたか、言っていなかったか?
ぱちん、と。脳裏の未来予想図に死のピースがはまった。
ぽたりと、ノートに顎からしずくが滴る。この滴る汗は冷や汗、いや、体の悲鳴の涙かもしれない。
時計を見る。
すでに短針は12に向かっており、真昼間だ。
ん?は?え、つまりおれは汗ながしながら2時間なんやかんやぐだぐだと勉強し続けていたということになるということで・・・。
「ばかか!?マジで死ぬの俺!?」
勢いのまま勉強机からガバっと立ち上がる。
うが・・・眩暈が。
「くそ、いつも通り図書館行けばいいのになんで、ここで、勉強してんだ」
日常のルーチンさえできないとか、ボケてるのかもしれない。いや、ただのバカだ。
水道から、直接がぶがぶ水を飲み、服を脱いでシャワーを浴びる。
汗を流して、新しい服を着、勉強道具全部ぶち込んだ鞄をしょってこの拷問部屋から飛び出そうとしたとき。
ブブブブ、と。スマホの着振音がした。
□ □ □ □
俺は、今外を歩いている。
図書館とは逆方向に。
「この世界には、人をパシリに使うやつしかいねぇのか」
簡潔に言えば、電話をかけてきたのは担任だった。
しかもこのイベントは、死に戻りした前の周回にはなかったものだ。
要件は、『同じ人族の月姫さんに渡しそびれた荷物を学校まで取りに来て家に届けてほしい』。
・・・ミイカとの大会鑑賞イベントだけで良いよ。なんで、お使いイベントが追加で発生してんだ!
『休みの日の学生に学校まで取りに行かせるなよ。てか、不登校でもなんでもないんだから月曜日に渡せばいいだろうが。』
と、反論した。反論したとも、やりたくないから。そして、先生から返ってきたのはクソみたいな返答だった。
『人族2人の恋愛フラグ立たせたいじゃん』
誰だよ、この色ボケカップリング狂いを先生にしたやつ。