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月姫雪菜は絶滅した吸血鬼  作者: 黒い水
12/14

七月一日金曜日 ➅

 話し声と食事の音がにぎやかに飛び交う、大きめと小さめの中間にあるようなラーメン店で二人の学生がカウンター席に座り、メニュー表を見ながら話していた。

 一人はスカートを履いており、その下からスペード型の艶やかなしっぽをゆらゆら揺らしている。程よく健康的に焼けた薄小麦の肌を持ち、薄い肌色の短い髪を生やした少女・・・のような少年、ミイカだ。


少年だ。少女にしか見えないが、それは少年だ。柔肌に、中性的な高めな声をしていて、尚且つ女装はしているがそれは紛れもなく生物学上では男だ。


もう一人は、さして描写をするほどではない。どこからどう見てもただの人間の高校生だった。

 


 上代秘織、現代において最も数を減らした絶滅危惧種の純粋な人間その人だ。


「そーれは、災難でしたね先輩。まったくなんですか、あの新聞部の陰湿クソ野郎は、フェイク記事のばらまきだけならともかく先輩にまで害を及ぼすなんて吐き気がしますっスよ、全く」

「はは、ありがとなミイカ。愚痴に付き合ってくれて。気分がましになる」


 あの泥みたいな気持ち悪い体験をした後に俺は図書館に行き、報告をした。変わった点は特になかったが言うならば、げんなりしているのをしてか知らずか、カオリが三秒ほどこちらを見つめ・・・。


 お疲れ様、と、そう俺に言葉をかけたのだ。


 あの自堕落猫からのねぎらいの言葉があるなんて、と驚いて固まっていたら、それだけだ。話す気はない。とでも言うように本へ目線を戻された。

 ペラリ、ペラリとめくる音に拒絶されながら、そのまま解散。俺はそのまま待合場所の校長の像(本当にそうなのかはわからないが、自分達と同じ年ぐらいの背丈、若さで魔術師らしいローブと三角帽子を被った像が校長の像だ)の前でミイカを待ち、合流。そして、今に至る。

 

「あった時の先輩は心配になるぐらいげんなりしてましたからね・・・ふふん、ミイカ、先輩のメンタルケアに一役買えたなら至極満足ですよ!・・・あれ、至極恐悦だっけえっと・・・あ、今ならメンマ増量無料みたいっス!やったっすね!」

 だが、ころころと表情が変わる見ていると、心が癒され、こちらも頬が緩むというもんだ。

 あんなことはあったが、楽しくラーメンを食べれそうで安心する。


「にしても、今日の先輩はいろいろな体験をしたようですねぇ、月姫さんとロッカーに閉じ込められたり、怖い幽霊族に会ったり・・・濃い経験をして疲れてませんかっス。体感三日ぶんみたいな?」

「あぁ、それぐらいには濃かった」


 ミイカは注文を決めたのか、こちらにメニュー表を渡してくれる。

 喋り続けたせいで乾いたカラカラな喉へ水を流しながら、受け取ったメニュー表を見て注文を決めた。

「よし、決めた。ミイカ、頼む」

「はいな!わかったっス!店員さーんこっちっス!」

「へいへい、ちょっと待ってくれ。新人、注文だ」


 指示を飛ばす大柄な牛の獣人の店主に合わせ、小走りでくる同じく大柄な牛の獣人に注文を伝える。

「えーと、私はふつうの醤油ラーメンに、メンマ増量、味玉トッピングでおねがいっス」

「俺はとんこつラーメン大盛、メンマ増量で、あ、あと餃子二人前」


「店長ー!通とんこつメン盛り卵、盛りとんこつメン盛り、餃子二つ!」

「あいよ」


「・・・よかったんスか?餃子二人前」

「話聞いてくれたお礼だよ」

「でも、お金が・・・」

「人類保護機関に養われてる俺だが、少しぐらい使える金はあるよ。お小遣いとして、月に何円か支給されてるからな」

 店員が去ったのを合図に会話を再開する。

 お金の心配をされたが、大丈夫だ。

 人類保護機関の脛をかじって生きているような俺だが、ある程度自分で自由に使っていいとされるお小遣い的なものを、月にいくらかもらっているのだ。豪遊ができるとは言えない額だが、後輩に餃子を奢るぐらいなら差し支えない。


「こういうところで使わずいつ使うんだ案件ではあるし」

「そうっスかぁ、じゃあ遠慮なくいただくっス!」


 まぁ、それに、明後日に行く月姫のダンス大会のチケット代のお礼もできてないのだ。これがお礼になるとは思わないが、これぐらい出さなきゃ先輩としての各が落ちる。


「話し戻しますが、風紀委員も災難っスね。モミジも悲しむっス、あいつあの見た目でやっぱり責任感つよいっスからねー、部下や同僚先輩が傷つくだけでも取り乱すんスよ、まぁ、それがあいつの長所でもあるんスが。あ、モミジってのは朝会ってた人っス」

「あーわかってる。わかってる」


 モミジの部分はあえてぼかして話した。ミイカの中では、誰か知らない風紀委員が、ランランの毒牙にやられた認識だ。あんな話、モミジからしても友人に話されるのは嫌なはずだからな。


「ミイカこそどうなんだ?部活どうよ?」

「ぼちぼちってとこっス。試合にはまだ出させてもらえないっスが、上手くいけばもうそろそろ試合に出してもらえそうっス!」

「それはよかったなぁ~」

 にっこにこで、手をぶんぶんふるミイカ。何だこの可愛い生き物。

 犬飼って癒されてる人ってこういう気持ちなんかな。


「可愛いなぁミイカは」

「へ?・・・え、可愛い?可愛いって可愛いい?可愛いって言いましたスか!?」


 身を乗り出し、顔をずいっと近づけたミイカにびっくりする。

「え、あ?うん」

 なんか、まずかったのか?

 なんかコンプライアンスにでも引っかかった?


「そ、そう・・・そうっスかぁ!うへ、うひひ」


 乗り出した身を引っ込め、ほっぺに手を当ててご満悦。


 表情が本当にころころ変わるなぁ・・・、と、どこか困惑の感情が胸を占めるが、可愛いのは変わりないので胸に秘めて眺めることにする。


「・・・ねぇ、先輩」

「ん?」


「明後日、楽しみですね」

「そうだな」

 にへへ、と笑うミイカに相槌を打ってラーメンを待った。

 やってきたラーメンはとても美味しかった。

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