7月1日金曜日 ④
最近忙しいので少し投稿をお休みします。
九月のはじめあたりには、投稿再開します。
詳しい目途は活動掲示板に決まり次第乗せるのでよろしければ、お気に入り登録お願いします!
何が高速で這い上がってくる音が遠吠えに隠されながら聞こえてくる。
「はぁあ!?なんだなんだぁ!?」
「雪菜ちゃんはどこだですかですわぁああああああああああああああああ!!!!」
怖い。シンプルに意味がわからな過ぎて怖い。
階段をどったどったと、駆け上がってくる気迫に押され、小声でありながら、しっかり中にいる奴に聞こえるように扉を叩きながら叫んでいた。
「ちょ!、月姫!!なんか来てるぞ!お前に用があるやつが来て」
「入って」
4回目を叩く前に扉が開かれ、叩いていた腕が掴まれた。
部屋に引き込まれる刹那に見えた廊下の光景は、悪夢みたいなものだった。
この学校の学生服を着た少女が、階段の壁に張り付いていた。
腕の関節を反対側に折っていて、首が変な方向に曲がった姿の少女が。
明後日の方向に曲がっていたからたぶん、あちら側からこちら側は見えてないとは思う。
・・・・・・・。
あれは人か?というか、あれは学生か!?魔獣の類のナ二かだろ!!
振り返りそう叫ぼうとして、月姫へと視線を向けて。
「こっち、静かに」
その姿を見た瞬間、目と声が奪われた。
こんな状況なのに綺麗だと、見惚れた。
黒と赤が混ざり合ったゴシック調のフリルがついたドレス。
彼女はそんな衣装に着替えていて、さながらおとぎ話から出てきたお姫様のような美しさを持っていたのだ。
それは想起させる、姫、と。血と共に被害者の魂を奪う吸血姫、と。
物語の中だけの美しき怪物、人間の矮小な魂を掴んで掌握し、支配し、自我を持つことを自分以外に意識を向けるのを許さない幻想の生物が目の前にいるのだ。
だから美しさに言葉を封じられるのは必然で、そして我に帰った時には全てが遅かった。
「ちょ、ま!月姫さ」
「ごめん」
月姫が、押し込んだ俺ごと一緒に掃除用具入れに入ってきて・・・・。
─ーそうして,今に至る。
□□□□
『雪菜ちゃん!!雪菜ちゃんはどこですかぁああああ!!』
「・・・・」
「・・・・」
蒸れる掃除道具入れの中で、二人が息を殺してじっとしていた。
外で走り回っていると思われる魔獣(?)も怖いが、月姫と二人っきり個室入りも死ぬほど怖いのは変わりなく、早くこの状況が終わることを切に願い月姫に問う。
「な、なぁ。いつ出れる」
「・・私も出たい。でも」
ロッカーにある三本線の唯一の通気口。
そこから見える窓際の風景と音は、出たくないという感想を作り出すには十分すぎた。
『どこですかぁあああ!!そんなドレスより!私のドレスを着てくださぁああい!!私のデザインのほうがあんな粉もん野郎より上手くできてますからぁああ!!』
明らかに人の動きではない動きで四つん這いに廊下の天井を這いずり回り、かと思えば片っ端から教室の扉を開けては中を何度も覗き込み、月姫を探し回っている。
端的に言ってきもい。
学生服を着て、黒髪の少女的な華奢なスタイルをしていることだけはロッカー穴の三本線というせまっ苦しい視界でもわかるのだが、関節を無視したブリッジ走りはそんな少女感をぶっ壊していて、なんでも可愛いと思える思春期の男子でもさすがに許容できない。
・・あんな魔獣が世界にいていいのだろうか。生物の冒涜では?
「お前を探し回ってるけどさぁ・・あれ、なんだよ!」
「被覆部に所属してる幽霊族のミニアちゃん、友・・・・・・知り合い。」
魔獣ではなかったが、生物でもなかった。
だが幽霊族ならば、目の前の人の姿をしながら人とは違った動きができることに納得がいく。
幽霊族の体は機械仕掛けの入れ物で、肉を伴った生命ではないのだから。
「じゃあ、どうすんだよ。体力無尽蔵の幽霊じゃ、疲れて諦めるなんてことはないし、あの剣幕じゃ諦めるということ自体ありえるか微妙だぞ・・」
「練習に遅れるのは私も嫌」
ちらっと見た赤い目は、憂い気に伏せられていた。
「そりゃ、明後日大会があるお前からしたらそうだよな」
「・・・・」
ため息をつきながら、理解できる憂い気に同意を示し、辛さを共感する。
しかし、それではどうにもならないこともわかっているので思考を巡らせて、打開案を探そうとして・・
「あ?なんだよ月姫」
「ん、私の事を・・大会の事を知ってるなんて意外だと思って」
・・その瞬間、やらかしたと思った。
殺されると、またやり直しを強制されるとそんな既視感が恐怖を増大させる。
だって、月姫が自分を意識したから。
なんとなく見れていた顔が見えなくなる。
その口の中に鋭い犬歯があるように思えて仕方がない。
首元に流れる汗は熱いからなのか、それとも肝が冷えるほどの恐怖を感じているからなのかわからない。
一秒が数年に思えるような、そんな一瞬の後。
「ちょっと、嬉しい」
怯えた死は来なくて、唇はただ好意的な言葉だけを紡ぐ。
開かれた口の中は、大きすぎず尖りすぎなかわいらしい八重歯がチラつくだけだった。
「・・・・」
「なに?鳩が豆鉄砲撃たれたような顔して」
「いや、だって、お前は・・うれしいのか?」
「・・・秘織、おかしい人?友達が、頑張ろうって思ってる大会のこと知ってたら普通うれしいよ?」
「そ、そうか・・」
「ねぇ、貴方っていつもそうなの?今日だけ?」
訝しむ視線が頬を突くが、殺そうとしてこないのだから甘んじて受け入れよう。
(・・でも、どうしてだ?どうしてこいつは俺を殺すんだ?)
幼稚園時代からの仲で、あんまり付き合いや接点ががないという歪な関係ながら友達という認識であるのは驚いたが、その認識である自分を殺すというのは意味が分からない。
憎んでいるなら、何かしら自分に負の感情を持っているなら、理由がわからなくても納得は・・・まぁ、いく。
しかし、目の前の彼女を見ても、日々の行動を振り返ってみても、否、先ほどの言葉を考えるだけでも、彼女が自身に向ける感情はどこまで行っても友好的でしかないのがわかる。
混乱が加速する中、時間だけが過ぎ去っていく。そして、幽霊族のミニアと呼ばれる少女はいまだ外を這いずり回っていた。
『いないぃいいいないいいいいいないい!!!匂いはするのに!どこにもいないぃいいい!!!???・・まさか?掃除道具入れ?』
・・・あ、まずい。
ミニアが鋭い勘で正解をぼそりとつぶやいたかと思うと、階段側から順番にクラスの何かを開けるような音が響き始めたではないか。
月姫を血走った目で探すミニアに見つかれば、面倒ごとに巻き込まれるのは必然、そして、本能が告げている。
その面倒ごとはろくなことではない、と。
打開案なんて、見つかるわけがない。頭を回しても出てくるのは何もなく。心臓はうるさい。
「ん・・・。講演来る?」
「は?」
「私の大会来るの?」
「今それ関係な」
「来 る の?」
「はい、行きます」
密着状態のジト目で上目遣いを使われれば、真実を白状する以外ないだろう。
「そう、なら・・うん、ミニアちゃんには悪いけど晴れ舞台を守らせて貰うね」
彼女だけがその意味を知る独り言が発せられると同時に、腕を掴まれた。
こんな状況で何をするのか?
そんな疑問が答えを見つける前に、足音は自分たちのいる道具入れの前にまで迫っていて・・・。
そして・・・。
扉が勢いよく開かれた。
月姫雪菜の脚力によって、蹴り飛ばされる形で。