4話 戦いの後、そしてコレステロールと戦う
いつも読んでいただきありがとうございます。
鈴木はパソコンゲーム専用のビデオカードのスペック重視のパソコンでインターネットを閲覧する。
そこには時々エロ動画やライブエロ動画サイトへの広告が出てくる。
これは頻繁にエロサイトに行くから、ブラウザが気を使ってエロサイトに誘導しているのだ。
でも、そんな誘導には騙されない。何度もふむか馬鹿野郎、と。あ、でも、この子いいじゃない、とクリックしそうになって目的を思い出す。
ヒーロー化で外見が著しく変わるのか
ヒーロー化で性別が変わるか
これらを調べていたが、結局外見は化粧がされた程度に見た目が補正されるのはあるけれど、知っている人が見間違えるレベルのはないとのことだ。
性別が変わる例もなし。
鈴木が美少女ヒーロー姿で戦っている最中に変身が解けてこの元のデブおっさん姿に戻ってしまったら、その光景を見ている人はさぞかしがっかりするどころか、血反吐を吐いて倒れたり、最悪性癖を歪ませる。
子供は泣くのをやめず、それをなだめる親の苦しそうな顔……想像するだけで辛い。
美少女ヒーロー化については、完全に黙っていよう。そう鈴木は誓ったのだ。
だって、そうだろう?
ヒーローは夢を壊してはいけないのだ。
童貞のデブのおっさんが美少女ヒーローに変身とか、世も末なのだ。
3時間もしないうちに、街はいつもどおりの姿を取り戻していた。普段通りスーツ姿のサラリーマンや札幌駅周辺に向かう若者やおばさまたち、母親に乳母車を押された赤ちゃん。いつも通りだった。
ヒーローにはたくさん種類がいて戦うだけがヒーローの仕事ではない。
瀕死の人を回復させるヒーローや、壊された建物を復元させるヒーロー、一時的に住むところもお金を無くした人のために炊き出しをするヒーローなど多種にわたる。
そんな、縁の下の力持ちのような彼らのおかげで、昨日戦ってぼろぼろになったビル街も綺麗に復興していた。
その場で立ち止まり、磨かれてピカピカのビルの大理石の壁面を触る。何もなかったようにツルツルで綺麗になっていた。なんとなく、鈴木が子供を必死に逃したことも、自身が美少女ヒーローとして活躍したということも、何もなかったような夢の中の話のように感じた。
鈴木は通り過ぎる人の足音が聞こえてビルの壁から手を離す。
通り過ぎていくのは制服を着た高校生の男女で、
「ここで戦っていたヒーロー、まだ登録されてないんだってー」
「そうなんだ。ヒーローチューブとかやってないのかな」
「同級生で見たことある?」
「見たことないから、別の学校じゃない」
と話をしてた。それを鈴木はめざとく聞いていた。
ヒーローチューブとはヒーロー専用の動画投稿サイトだ。ヒーロー活動のスポンサーをつけるためにも、動画投稿サイトに自分自身の活躍をアップロードするのは重要らしい。
それはともかくとして、あの時、頑張って戦った時のことを話してくれるというのは、なんとも言えない達成感に鈴木は包まれた。脳内幸福物質がどっぱどっぱだぜ、と思っていた。
すると、お腹が減ってきた。
イベントが目白押しで、精神がすり減り、子供を命がけで逃がし、TS美少女ヒーローとなって命を懸けて戦ったのだ。落ち着いたらそりゃあ腹が減る。
鈴木はよく行くラーメン屋に向かった。
他にも食事処は知っているが、誰にでもある、この店が特に好きなんだ、というやつだ。
その店はビルの一階にテナントがあり、夕食時には少し早い時間だからお客さんの姿はいなかった。
インターネットなどで検索すると評価はある程度高いお店で、繁盛していないわけではないのだが、この時間帯はかなりお客さんは少ない。
お店の周りにはラーメンと書かれたのぼりが立っており、暖簾には『麺屋秘密基地』と書かれていた。
お店の中に入ると、豚骨や鶏がらを煮出した時の特有の匂いが漂っているが、臭いレベルまでにはいかない。店舗にはテーブル席が2つと、カウンターが10席があり、あまり大きな店ではない。
鈴木の姿に、厨房にいたスキンヘッドのもりもり筋肉質の店長が気が付き、
「鈴木さん、今日は何玉食べる?」
と低い声で聞いてきた。
「見た目で聞かないでくれよ。極秘ラーメン1つ」
「あいよ」
店長はそう答えて、麺1玉をケースから取り出して、沸騰していたお湯の中に落とした。
極秘ラーメンは、裏メニューとかそういうことはなく、この店の定番メニューの名称の一つで、豚骨と鶏がら出汁をベースにしたラーメンだ。出汁自体は普通の市販のラーメンスープに比べると2倍以上は濃く、こってりしていて、スープを飲むとコラーゲンが口の周りにまとわりつく。トッピングにノリと生の小松菜、小口切りのネギ、チャーシューが乗っており、小松菜とネギがこってりとしたスープに清涼感を与えてくれる。
出てくるドンブリ自体は細長く、スープの入る量は少ないが、これでもスープは十分足りてしまうほど味が濃い。
それと、このスープの少なさは店長の優しさである。店長曰く、少しでも腎臓に優しいラーメンにしたいから、らしい。ラーメンのスープの塩分は非常に高い。塩分の過剰摂取は内臓疾患に影響することがある。そのため、『健康じゃないとラーメン食べに来てもらえない。少しでも金を落としてもらうためにもどうしても必要な措置』と真顔で言う腹黒さに、聞いていた常連もそれ以外も苦笑いである。
本当に気を使っているのかランチタイムの無料サービスのミニサラダから、やや無口な店長の優しさを感じる。
そんな言葉が少ないけれどストレートな店長の人柄や、そもそものラーメンが好きで通ってくる人は少なくはない。
下手なヒーローよりもヒーローみたいな出立の店長のラーメンに替え玉追加して味を堪能し、帰路した。
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