3話 デブおっさんと美少女ヒーローの地獄絵図
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鈴木一郎は物陰に隠れながら家に帰った。
彼は怪人を一撃で倒した力よりも、この瞬間の俊敏な身のこなしに感謝した。
美少女ヒーローに変身したのはいいが、解除の仕方なんて知らないし、万が一なんとなくで解除ができてしまったら、大変なことになると彼は考えていた。麗しい美少女ヒーローから30代のデブおっさんに変わるのだ。その瞬間を見ていた一般人が血反吐を吐き、子供達は大泣きをするに違いないと思っていた。
だから、自宅で変身解除するしかないと考えた。
しかし、15歳くらいにしか見えない美少女ヒーロー姿で鈴木一郎の自宅、つまりデブおっさんの家に入っていくところを知らない誰かに見られたら、もうこれは事案である。通報されかねない。近所の人にはデブおっさんの鈴木一郎が一人暮らしをしていることは知られているはずだ。だから、こんなところにこんな若いかわいい女の子が入っていくなんて、脅迫か何かされた上で入ってきているに違いないと通報される。その後は突然やってきた警察のおもちゃにされ、その様子はゴミYouTuberの配信ネタになるのだ。彼は絶対に帰宅する瞬間を見られてはならないと心に誓った。
彼は建物から建物の影に飛び込み、人を見つけたら死角になる電柱や物陰に姿を隠した。
苦労して自宅に戻ると、無情にも鍵は施錠されており、鍵を名も知らない子供に渡した鈴木は家の玄関ドアの前で呆然とするのだった。
鈴木は鍵はどうせ生きて帰って来れないだろうと、有名仮面ヒーローのキーホルダーごと子供に渡さなければよかったと心から思った。
窓を割って入ろうか、としばらく考えていると、前に鍵を無くして家に入れなくなったことがあったことを思い出した。その日から、郵便受けの内側の上部にガムテープで予備の鍵を貼り付けることを決めたのだ。
それを思い出し、郵便受けの中に手を突っ込んで確認すると、ガムテープの表面のツルツルと感じる部分に触れた。鈴木は神に感謝した。神様なんて信じてはいないが、この時ほど神に感謝したことはなかった。
鈴木は家の中に滑り込むように入り、ドアを閉めた。
洗面所に行き、鏡を見るとやはり目の前には美少女がいた。美少女に姿が変わるヒーローなんて聞いたことがない。
インターネットで見つけたヒーロー解除方法を試そうと、鈴木は変身を解除したいと心から願うと美少女姿は薄まっていき、30代のデブのおっさんが代わりに鏡に映し出された。
そこで、ふと、もったいない、と心の汚いデブのおっさんは思った。美少女の体を手に入れたら色々と触りたいに決まっているじゃないか。だって、男だよ。その上、30歳を超えて童貞なのだ。
これは触り心地を記憶したり写真に記録したり色々とやらないといけない、そう心の汚い30代童貞デブおっさんは思った。
「へーんしん!」
と鈴木は掛け声を出して、片手を腰に当てて、もう片方の手を真横より少し上方向に伸ばす。別にこんなポーズや掛け声をかけなくてもいいらしい。ヒーローに心から変身したいと思えばいいだけなのだ。
しかし、ヒーローに変身する時はなぜかと気合を入れたくなってしまうのが人の常なので、各ヒーロー色んなキメポーズをとって変身したり掛け声をかけたりすることが多い。
あたりが一瞬強い白い光に包まれると、モノトーンカラーのコスチュームの美少女ヒーローが現れた。鈴木は目を開けて、変身したことを確認する。確かに目の前の鏡には肩を少し超える黒い長髪で少したれ目で優しそうなのに凛々しい美少女が映った。
ふふ、と悪いことを考える汚い大人の笑みが美少女の口元に映る。とりあえず、この立派な胸を揉みまくろう、と手を胸につけた。
すると、鈴木の脳天を突き抜けるような電流が走る。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃー!」
美少女ヒーロー姿の鈴木は体をガクガクと震わせて地べたに倒れた。
胸に何か仕込まれているヒーローなのか、と心配になり鈴木は急いで服を脱ぎ胸を重点に調べ始めた。
服には異常はない。
自身の美少女の胸も確認する。鈴木にとって形も色も触り心地も理想的な形状であった。しかし、そんなことを考える暇はない。ヒーローとしての謎の装備や機能があって自滅するのは流石に嫌だ。
しかし、押しても、揉んでも、先端をつまんでも異常は見当たらない。
念の為に陰部も確認する。毛はないので毛の中に何かがあるということはないし、何かが隠されているようなこともない。無修正動画サイトで見たような女性のものであった。
そこで深呼吸して落ち着いた鈴木は、鏡の中の美少女に姿勢を正し修行僧のように両手を合わせた。それじゃあ性的にいただきますね、と思った瞬間、身体中が捻り切られるような痛みが走って、気絶をした。
鈴木は夢の中で、ヒーローとなる瞬間のことを思い出していた。
何モノからかの片言での言葉で
これ つたわらない これわかる
きさま せんしゅつされた
いのれ ほしい フォース
さしだせ じゆう
フォースとなり つよくなる
forceは フォースを つよくする
と言われた。
引っかかったのは後段の
さしだせ じゆう
フォースとなり つよくなる
forceは フォースを つよくする
だ。
これについて、鈴木は
汚い言葉をやめる
清らかな心でいる
旨を謳ったのだ。
自分の胸を触って性的な興奮を得ようなど、まさに論外である。
これが原因か、そう気づいた時に鈴木は洗面所の冷たい床からガバリと体を起こして意識を取り戻した。
体を起こして鏡を見る。すると見知ったデブのおっさんの姿が映っていた。
その後、恐る恐るいつもお世話になっている動画サイトを見たが元の姿ではあの痛みに襲われなかった。
鈴木は、一息をついて、無駄な脂肪がくっついている胸を撫で下ろした。
これで判明したのは、美少女ヒーロー姿で性的な欲求を満たすことを考えると体中に意識を刈り取るレベルの痛みに襲われる。その時、意識を刈り取られたら美少女ヒーロー化は強制的に切れる。
この美少女姿で歩いていて、唐突にエロいことを考えてとんでもない痛みに苦しんだ挙句、急に意識をなくしてデブのおっさん姿を晒すとか、いろいろとやっべぇーな、生き地獄だな、見ている方も見られている俺も地獄だ。そう鈴木は思った。
感想などあればよろしくお願いします