2話 デブおっさん、みんなのヒーローに!
興味を持っていただきありがとうございます
怪人に木っ端微塵に鈴木は殺された。
そう鈴木は記憶していた。
でも、おかしい。死んでいるのに記憶を認知している。
死んだらそこで終わりではなかったか?
彼が、そう思っていると、頭の中に声が聞こえてきた。
%汝Σα』∞←》J086力#
全く理解不能の声であった。
しばらくすると、
これ つたわらない これわかる
きさま せんしゅつされた
いのれ ほしい フォース
さしだせ じゆう
フォースとなり つよくなる
forceは フォースを つよくする
女性なのか男性の声なのかわからないが、片言で語りかけてくる言葉があった。
しかし、鈴木はこの言葉を、世界からヒーローに選ばれた者への福音であることに気がついた。
ヒーローになる直前、男女不明の声が聞こえ、ヒーローになると言われていた。
多分そういうことだろうと鈴木は解釈した。
最初の謎言語は世界が日本語ではなく、北京語とかロシア語とか縁もゆかりもない言葉だったからだろうと鈴木は思うことにした。たまに、世界なのか神様だかわからないがミスはある。世界に怪人が現れて人を虐殺していくとか、世界の明らかなバグだと信じて止まないからだ。
フォース、これはヒーローになる力のことだろう。
じゆうをさしだせ、とは縛りだろう。
縛りをつけるとヒーローに変身中により強くなるということだろう。
縛りだなんて言ってもな………。そう言えば、何かと悪態つく癖があるから、自分のためにも清い言葉使いを心がけるとか清い心のままでいたい、というのも縛りになるのか?
そんなことを鈴木が考えていると、
じかんない
過去の記憶 さんしょう
フォース 種別 きぼう はんめい
force 受理 承認
アビリティ あたえる
突然、鈴木の頭の中に、そのような声が響くと、目の前が真っ白な世界から真っ暗な世界に変わる。
次第に光が強くなり、目の前にビル街が広がる。
先ほど見た、街の景色に、少し離れた位置に全身黒色の怪人がいた。
その怪人は、鈴木の方を見て目を見開いていた。
そして、その目は、敵だ、と明確にドス黒い感情に包まれていた。
怪人は一瞬で距離を詰めて、鈴木に向かって拳を振り抜く。鈴木は慌てながら、怪人の腕を弾きながら横にズレて避けた。怪人は勢いがあまりビルに衝突していった。
ビルの壁が崩れ、転がっていた怪人が立ち上がる。
怪人をいなした力に鈴木は驚き、そして自身がヒーローに変身したものだと確信した。
やらなきゃやられる、そう鈴木は思い、立ち上がる怪人に駆け抜けるとともに拳を怪人の頭に振り抜く。
ゴキュリと骨を砕くような音と肉を潰したような音が、振り抜いた腕から伝わって鈴木の耳に入る。
怪人の頭と首が分離しすぐに灰となって消えた。
鈴木は過度な息苦しさで、自分自身が息をしていなかったことに気づき、思いっきり息を吸った。肩が上下して胸に重みを感じた。
ヒーローになると、概ねの顔立ちとかは変わらないが筋肉のつきが変わることがあるそうだ。こりゃあ胸筋だけでバストが100センチを軽く超えたのではないだろうか。まあ、元々のデブの体型では脂肪で100センチ超えていたと思う。それにしても、胸筋が前の方に重心があるなと感じた。
それに、視点がおかしい。怪人と自分は同じぐらいの身長だったはずなのに、ヒーローに変身後は怪人の方が15センチメートルから20センチメートルくらい高い感じだった。
携帯電話からアラームが聞こえ、取り出して画面を確認する。
『怪人はヒーローにより撃退されました
撃退に貢献したヒーロー 不明
link ライブカメラ映像』
ライブカメラ映像は、怪人を撃退したヒーローをしばらく映し出し、宣伝するものである。ヒーロー活動の収益は怪人の討伐報酬とスポンサーによるものだ。活躍するヒーローが宣伝する商品はかなり売れ行きが上昇することがある。
鈴木はライブカメラのリンクを人差し指で触る。
すると、見慣れたビル街があり、少女の姿が映し出されていた。美少女だ。少し垂れ目で大きな灰色の瞳は優しさだけでなく力強い凛々しさを秘めていた。白い肌なのに、不健康そうな感じはしなく、ミドルティーンくらいの年齢の瑞々しい肌だ。肩より少し長くて黒く艶のあるふんわりと巻かれたレイヤーカットの髪に、周りの風景からすると身長は160センチメートルを超えないくらいのウェストほっそりの痩せ型。痩せているのに、上品な胸のサイズがふんわりと魅力を放っていた。服装は黒と白のモノトーンカラーのバトルスーツだ。肌に生地がピッタリ張り付いていて、ヒーローの動きを阻害しなく、急所などに薄く硬い謎物質のプレートが補強されている。白い場所には薄らと鈴木の知らない花が刺繍されていた。黒色の編み上げされた半長靴もまたほっそりとした長い足によく似合っていた。
その少女は携帯電話の画面を見ていた。
鈴木と同じ色の携帯電話カバーをつけていた。
鈴木は嫌な予感がして、携帯電話を持っていない手をあげると、画面の少女も携帯電話を持っていない手をあげた。
その場でスクワットをしてみると、やはり画面の少女もスクワットをし始める。太ももの筋肉が鍛えられる感覚のほかに胸に異様な重量を感じた。
鈴木は視線を下に向けると、足先は見えず、黒と白の服に包まれた立派なお椀の形をした胸が見えた。
鈴木の嫌な予感は正しく当たった。
画面の美少女ヒーローと鈴木は等号で結ばれた。
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