SIDE ある侵入者に戦慄するエルフ達 前編
ジークが訪れず数刻前の森にて──
「くぎぃ」
脳天に矢をぶっ刺し、倒れたハイオークの息を確認するエルフ。周囲の仲間もトドメのナイフを突き立てていき、怪我無く完勝。
これで里の危機は救われた。本来なら諸手を挙げて喜ぶシーンだが、彼らの顔は固かった。意識が向けられていたのは中央に転がる巨大な躯。
オークキング。B級であるハイオークも恐ろしいが、A級であるこの魔物は格が違う。事実、末席ながらも魔王のグループに属し、群れとなって周囲に災禍を齎すと言われている。
エルフ達は滅ぶことすら覚悟の上だった。なのに駆けつけた時には肝心のボスが死んでいたのだ。腹をくり抜かれ絶命したその姿は魔法に長けたエルフですらゾッとさせるものだった。
「ヤルル終わった。周囲に残党はもういない」
座り込んでオークキングを見分する青年ヤルルにエルフの女戦士シーラが声を掛ける。金髪碧眼の美男美女、ヤルルとシーラ。彼らがエルフ里における若きエースであり、討伐の任を命じられた先方隊である。
そういうと格好がいいが言わば鉄砲玉。彼らは死を覚悟していた。謎の幸運に救われる形となったが、めでたしとはいかないことを彼らは理解していた。
「了解したよシーラ。危機は去ったと里に伝令を出そう。僕達はここを調べる必要がある」
「オークキングを屠る相手がうろついてるだなんて考えたくもないわ」
「シーラ見てご覧。ほら、魔法で一発だ。他に目立った外傷はない。庇ったか、潰そうとした右手ごと消し飛んでる。炎でも氷でも雷でもない、言うなれば無だよ。たった一発の魔法でこいつは殺されたんだ」
目を爛々と輝かせるヤルルに始まったとシーラは溜息を吐いた。人よりも遥かに魔法に長けたエルフには魔法馬鹿が多いのだ。その中でもヤルルは特別酷かった。
「ヤルル、魔法どうこうは後。肝心なのは里の私達の敵になるか否かよ」
「流石にそれは分からないな。ただ、相手の種族は分かった」
シーラは軽く目を見開いた。
「本当なの!?」
「ああ、僅かながら残滓が残ってる。これは人族だけが保有すると言われる魔力だね。やったのは人だ」
・・・という沈黙に包まれる。
「正気?私達よりも遥かに魔法技術で劣る人がこれを為したっていうの?」
「確かに普通の人間じゃまず無理だ。でも、彼らにもいるだろ。化け物と呼ばれる存在が」
「まさか勇者っ」
ヤルルはコクリと頷く。それは伝承の域。存在すると言われるが見た者は少ない。そして他種族にとっては決していい事じゃない。
勇者の誕生は世界の危機の訪れとも伝えられている。
何故なら勇者の正義は人だけの正義であるから。大昔、幾つものエルフの住処が勇者によって滅ぼされ、それが原因となってエルフは人との関係を断った。
「シーラ、もしかするとここへ確認に来るかも知れない」
「ここへ?」
「部下に確認させたけど魔法痕がかなり続いているらしい。彼はエルフの目で確認できぬほどの遠距離で仕留めた。人は討伐した物の一部を剥ぎ取る風習があると聞いたことがある。精鋭を残して隠れて張り込もう」
勇者がどんな者か分からない。死ぬ可能性だってあるが、シーラは悩むことなく頷いて同意を示したのだった。
左右に信頼のおける部下を配置し、ヤルルとシーラは同じ茂みの中に潜む。狩人である彼らは張り込みには慣れっこだ。ただ緊張感は拭えない。
想定よりずっと早く彼らは近づいてくる気配を捉え、ホッとした。
「本当に来た」
「シーラ、静かに」
向こうも探知をうっているようだが拙い。もしかしてこれただの人間なんじゃないかと眉を潜めたシーラは現れた凡としか言いようがない出で立ちの油断しきった冒険者の姿にその思いを強める。
「勇者じゃない。大方、回収を頼まれた冒険者。どうする?……ヤルル?」
本来であれば弱き者はエルフが仕掛けた結界によってこの森に入れないどころか認識すらできないが今はあの魔法によって破壊されている。人にこの場所が伝わるのは許容できない。殺すか?
返事がないことを不審に思ったシーラがヤルルを見れば青白い顔で震えていた。
「ヤルル?」
プルプルとした指で彼が示したのは冒険者の右足に噛みついている犬。勿論シーラだって気づいている。テイマー、あんな懐いていない雑魚モンスを危険地帯に連れてくるとはシーラにとって見下しポイントだったが。ヤルルが違うと口を開く。
「余りに珍しくFの魔物マナガルムと誤認されるけどあれはシャドウイーター。オークキングに匹敵するA級の魔王級の名を冠する魔物だよ」
衝撃の事実にシーラは絶句したのだった。




