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動画07 JRPGフィールド曲とイヤホン

 ミリーさんへの誤解を何とか晴らして、いつものルーティーンをこなしてから俺は再び帰ってきた。獣にちょっと荒らされた痕はあったけどそこまでじゃなくてホッとする。しかし、全然キャンプできてない。


 このままだと治療院に行くのまでが日課みたいになってしまうので今度こそ絶対に倒れないことを誓う。


 そういえばカーネル先生の話では俺が限界突破したんじゃないかって話だったが、シュッと試しに拳を振るってみるが──


「うーん」


 分からない。やっぱり勘違いなんじゃなかろうか。魔物を倒した記憶がないし、やったことと言ったら。言ったら……そういえば正体不明の魔法を撃ったなと昨日放った場所に立ってみる。


 地面に線が走っていて魔法痕が残ってる。もしかするともしかするかも知れない。


「バフッ!」


 行こうぜと俺の右足を甘嚙みしながら尻尾をブンブン振るパト。全くこいつは、自分で動かない可愛いやつだ。


「そうだな、確認だけ行くか」


 まあそんな強い奴でねえだろ。こっち側あんまり来たことないけど街近いし。序に獲物を狩れれば儲けものだ。


 よし!っと俺はパトを引き擦りながら地面に付いた(あと)を追ったのだ。


 ◇◇◇


 草っぱらがどこまでも続くデルタ平原。結構来たがいつまで経っても途切れない魔法の痕にいよいよ俺も首を捻る。


「うーむ」


 これは……想像以上に飛んでる。ただ、持続力高い=威力低いが魔法の常識なので火力はすこぶる弱いはずだ。いや、もう一回撃って確かめろよと言いたくなるのも分かるが俺はあのメルト玉撃ったせいで倒れてしまった説を唱えたい。


 少なくとも魔法消費量は相当あったろう。そういえば、ギルドの魔法講習員が保有魔力よりも強力な魔法を放ったらぶっ倒れるって言ってたっけ。


 これ魔力切れで倒れたんじゃないか?だとしたらアホ過ぎないか俺。よし、この話は封印しよう。


「ってか寒っ!ん?」


 冬が近くなってきたこともあって冷たい風が吹き、ポッケに手を入れると何か指先に触れた。


「何だこれ?」


 中に入っていたのは正体不明の紐。片側の先っぽが金属っぽくなっていて反対側が丸みを帯びた触覚みたいになってる。魔物かと思ったが生き物じゃなさそうだ。


「治療院の誰かのが(まぎ)れた?」


 いや、この服はずっと身に着けていたのであるとすれば気をやった時に介抱してくれたミリーさんくらいだが……


 じぃっと俺は見て何となく腹にしまっていた銀の板を取り出した。そういえばこいつに穴が有ったと思い出したのだ。丁度──


(はま)った!?」


 いや……で?どうすんのこれ。


 ヒューと冷たい風が俺を(おそ)う。プラプラして邪魔なだけ。しかし、これだけピッタリまるってことはコイツの装飾品であることは間違いなさそう。いや、絶対無かったぞ?もしかしてここに住んでる精霊が渡してきた?それとも……


(成長した?)


 何か急にホラー感。寒さもあってブルっと震える。いい加減この板どうしようか。確かに暇つぶしになるし、パトと出会えるキッカケを与えてくれたといえるがこいつのせいで調子を崩してる感も(いな)めない。いっそ──


「捨てるか」


 ポイしようと悩んだところで何かが薄っすら鳴っていることに気づいた。自分の手?糸の先、丸っこい部分を耳に近づけると


「うおっ」


 音楽が鳴ってる。もしかすると耳に嵌めるものなのかも知れない。


「いや、待て危なくないか?」


 寄生されるかも。何せ本体である銀の板も正体不明なのだ。だが、好奇心を抑えられない。ままよっとカポっと()めた。瞬間、世界が変わった。


 美しく壮大な未知の音楽。何故かは分からない。自分がまるで英雄になったかのような気分になる。俺は軽く剣を(ふる)い、シリアスな顔で歩き始める。


 これはいい、最高だ。移動って結構暇なのだ。一応、俺は魔力感知は得意な方だし旅のお供にもってこいかも知れない。


「テンション上がってきた」


 銀の板、やっぱりこいつは捨てられない。俺は口角を上げたのだ。


◇◇◇


 何か調子乗ってたら森まできてしまった。一体どこまで続くのか。まるで魔法が森をぶち抜いたかと言わんばかりに何本もの木が倒れている。曲も相まって手がプルプルと震えた。


「まさかマジで英雄の力が俺に」


 いや、違った。横に魔物の足跡がある。


「オークかこれ?」


 昔、戦ったがそこそこ強かった記憶がある。引き倒したのはこいつらだろう。囲まれるとヤバいかも。パトも危険に(さら)してしまうためちょっとだけ、ちょっとだけ見て帰ろう。もうここまでくると気になってしまうし。


 ◇◇◇


「何だこりゃ」


 そんなこんなで辿り着いた光景に口元が引き()る。殺戮(さつりく)現場に居合わせてしまった。無数オークの死体が転がりその中央に一際大きなオークがどてっぱらに風穴を開けて(むくろ)となっていた。まさかこれって上位種のハイオークって奴じゃ……怖。


 周囲に何もいないようだが長居は禁物(きんもつ)だ。血の匂いに引かれて寄ってくるものもいるだろう。踏み荒らされ魔法痕がここで消えていたがまさか本当に俺がこれをやったのか?


「ん?矢?」


 木で作られた特殊な矢がオークに突き刺さってた。ちょっと俺の苦い記憶を掘り起こすことになるが、昔組んでた仲間のエルフが使ってたものと同じ。そこでエルフ専用って学んだことがある。


 まぁそりゃそうだ。一度に全員を倒せるわけないしC級である俺の魔法でハイオーク一撃とかありえない。勘違い、大方エルフの高位冒険者が(ほふ)って立ち去ったといったところか。やっぱり俺のメルト玉は途中で消失でもしたんだろう。


 それにしても、ハイオークの素材を放置とか剛毅(ごうき)な奴だ。確か牙だけでうん百万とかするんじゃなかったか?ゴクッと喉が鳴った。


「拾得物って認められれば20%貰えるんだったか」


 恐る恐る近づいてピタッと止まる。いや、やっぱ止めるべきだ。下手をうてばこんな化け物を楽に倒した凄腕冒険者と敵対する可能性がある。ハイエナは普通に嫌悪される行為だし、トラブルの予感しかしない。ここで手を付けないのが安牌あんぱい冒険者の道。


 ただ、先ほどから耳を打つハイテンポな曲のせいでちょいと気分が高揚こうようしてる。何だか俺がこいつらを打ち破った気になってきた。最後にちょっと剣振っちゃおっと。ブンブンと空気を切っただけなのに何だか感触があったし、不思議とレベルが上がったような心地になる。これが音楽の力ってやつか。満足したとチンっと剣を収納する。


「帰るぞパト」


 あれ?パトの口が動いたが、これってもしかして周りの音全然聞こえない?まあもう帰るだけだしいっか。しかし、エルフって人里に下りてくることはほとんどないって話だったけどいる所にはいるものなんだな。


 俺ジークはソロ冒険者だがずっとそうだったわけじゃない。過去に一度だけPTを組みそのメンバーから追放を受けた身である。その時のリーダーがエルフ。もう立ち直ったけど苦い記憶なのであんまり思い出したくない。


 ってなわけで俺は全力で魔法痕を消し去りながらその場を立ち去ったのだった。


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