動画06 胸ピアノ再び
「ぐっ」
一体、何が起こってる。体が内から焼けるように熱い。パトが的確に右足を嚙んでくれなければ意識をやってしまっているところだ。
おかしい、昨日の俺は魔物の拾い食いなどしてないのに……それに腹痛じゃない。全身が軋み、汗が噴き出すのだ。
昔経験したレベルアップ酔いに症状が酷似している。が、それよりずっと重度。そもそも戦ってないし、一体俺の体に何が起こっているのか。気力を振り絞って俺は治療院の扉を開いた。
「でたわね、頭ボブゴブリン」
良かった。いつもの看護婦がいてくれた。
「……頼む、カーネル先生を」
「貴方まさかまた食べたの?いい加減って!ちょっとしっかりしなさい!どうしたのよ!頭ボブゴブリン」
ヤバい死ぬ。せめて最期くらい名前で呼ばれたかった。ぎゅっと柔かなものに抱きしめられる。あれ?この子結構胸が。刹那何かに殴られ、俺の意識は暗転した。
◇◇◇
「諦めたらそこで命終了ですよ」
覚醒し、バっと身を起こした。危なっマジで〇ダースの天使みたいな奴が俺の体に纏わりつく瞬間だった。もう少しで天に運ばれていた気がする。
丸々とお太りになったカーネル先生は王都で造られるキャスター付きの椅子で移動する。彼はカッと机の角を蹴ってシャーっと俺の元へやってきた。
「カーネル先生……」
「どうやら落ち着いたようですね、大丈夫でしょう」
「えっと俺やっぱどこか悪いんでしょうか?魔物とかしか食べてないんですけど」
「いや、ジーク君は至って健康体だ。恐らくレベルアップ酔いだと思われる。それも極度のね」
「レベルアップ酔いって俺上限なんですが……」
「存じているよ。が、低ランク帯の者が単独で上位種を撃破した場合極稀に突破が起きるという症例が確認されてはいてね。これに心当たりは」
「いや全く。上位種どころか戦ってないですけど、強いて言うなら先日此方でお世話になった通り魔物肉食ったくらいですかね」
「ふむ、まぁ鑑定を受ける事をお勧めするよ」
うーむ、あれ結構高いんだよな。
「えっと……今持ち合わせが無くて。余裕が無かったらいきます」
スッと手を出してきたカーネル先生に首を捻ると彼はオホンと咳をうった。
「治療費。払わなきゃ人生終了ですよ」
「あっはい」
あれ?これ治療院で金落とすところまでルーティン化してない?何か一生貯まらない気がしてきた。
看護婦ミリーさんとパトが裏庭にいるとのことなので、向かうと音楽が聞こえてきた。クラッシックって奴だろうか。よくもこんな曲を思いつくものだ。
しかし誰が引いて?あれ?俺銀の板置いてきたっけ?
何でだろう急に処刑BGMに聞こえてきた。行きたくないけどパトを回収しなくては。
(いた)
樽の上に乗ってプラプラと足をふる頭ボブゴブリンBOTことミリーさん。帽子を外して金色の髪を下ろした姿があまりに美少女過ぎてドキッとした。
一目惚れしてしまったかも知れない。
いいや、俺にはナタリアちゃんという心に決めた人が。そういえば柔らかいものを触ったような記憶がとつい手をワキワキさせてしまえばそれに気づいたミリーさんにジト目で見られた。
「大事は無かったようね頭ボブゴブリン」
「えっと、お陰様で。あっ今回は魔物肉を食べてないからな。それに俺にはジークって名前があって……その……」
駄目だ、女性慣れしてないのがバレる。ここはクールに撤っ──
「そうよね。頭ボブゴブリンは失礼よね。名前を変えるべきよね。ホントお洒落な趣味を持ってると一瞬でも思った私が馬鹿だったわ」
ハイライトの消えた瞳、彼女がすっと手に持ったのは銀の板で、あの胸ピアノ動画だった。
どういう状況か画面が胸のドアップ、それを胸部に翳すものだからミリーさんが水着みたいになってる。結果、男の生理現象が起こった。
「っ!何でこのタイミングでテントを築けるのよ。こっこの下半身ハイオーク」
ヤバい、このままでは不名誉なあだ名がキメラ化する。
「待ってくれ。誤解だ」
「こっちこないでよ変態」
「これは君じゃない。どっちかっていうと俺はその銀の板で興奮した」
誠心誠意、偽りのない正直な答え。
「余計気持ち悪いわよ!このド変態!」
「違っ!いや待てそれは死ぬ」
やいのやいのといい訳することに一杯一杯になって俺は気づかなかった。実は他の人には一切見えない銀の板の映像が彼女だけ見えているということに。