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動画05 火と氷の魔法でできる消滅の力を持つ某アレ

 落ちてた魔物を食ってみたと語れば治療院の看護婦にやっぱり頭ボブゴブリンでしょと(なじ)られ、カーネル先生から(なぐさ)められて俺はルーティーンを終えてから再びキャンプ地に戻ってきた。


 そう俺は帰ってきた。


 放置してたが荒らされた形跡(けいせき)はなくホッとする。俺が腰を掛ければゴロンするパト。頭を()でれば右足を()まれた。


 だけど俺は愛犬家、この程度で怒るどころかあの曲を口ずさめるほどに愛犬家である。そしてもう絶対に魔物を口にしないはしないと心に誓った。そう、俺は成長したのだ。あの頃の俺はもういない。新生ジークである。


 ってことで明日から頑張ろう。


 一応、ルーティーン通りドロップ品は獲得したしとビンに蜥蜴(とかげ)の鱗を落とす。宿代も浮いてるしこのペースで貯めれば高い税金にも届くだろう。


 やはり俺はコツコツ型なのである。だからこそ頭打ちとなったレベルのせいで完全にやる気を失ったとも言えるが。何故か近頃、まだ強くなれるかもという謎の自信が沸いてくるのだ。まあ気のせいだろうけど。


 最近、俺はまた高速紙芝居に(はま)ってる。多分、少年とその仲間が魔族と闘う物語。言葉が分からないのでストーリーものはきついが、それでも迫力ある絵と音楽で楽しめた。


「おっそこだ!やれ!やっちまえ」


 戦闘まで下バーで一気に飛ばし、俺としては試合を見ているような感覚。その中でも興味を引いたのが弱気な魔法使いが使いだした奇妙な魔法である。


 炎と氷の魔法を合わせて強力な呪文を完成させたのだ。そのカッコよさたるや、男魂を(くすぐ)る。が、俺もいい大人だ。炎と氷を合わせたところで消滅するくらい理解している。これは子供騙し、新生ジークを騙そうたってそうはいかない。


 が、付き合ってやるのもまた大人かと俺は両の手を突きだし魔力を込めた。一応、ソロでC級なのだ。低級ながら全魔法を俺は使用できる。


 まず右手にガナ(炎系)そして左手にロア(氷系)。恐らくこれをミリ単位で均一化する必要があると高速紙芝居からは読み取った。


 俺ジークは幼少期から神経質なだけあってこういった操作が得意。ただ、体内魔力量が少なく強力な魔法とやらはからきしだったが、小さい頃は(あこが)れた。


「くっ」


 今も的確に右足を()んでくるパトが集中を乱してくるが俺は愛犬家。この状態でも成してみせるっ!


「うおおおおおおおお」


 カっと光輝き、両手の中に球ができた。


「え?できた?」


 何かできた。ただちっさい。ビー玉みたいな大きさだ。雑魚魔導士ながら力の奔流ほんりゅうを感じる。でも、ヤバい。消し方が分からない。


 とりあえず撃つかと指を立てると指先に浮かんだ。おお、カッコいい。今だ理解不能の言葉だが発音くらいは聞きとれた。呪文の名前は確か──


「メルト!」


 ポーズを決めて発射してみる。おっそ。超低速で進む俺製メルト玉。これは当たらない、戦闘では使い物にならない産廃(さんぱい)魔法。でも──


「消えないな」


 遅いながらも飛んでゆく。町の方に撃たなくて良かった。モンスが出る方向にやっちゃったがまあほっとけばその内自然消滅するに違いない。


 ちょっとガッカリ。ただ、ショボいとはいえ実際できたわけで練習すればいつかあの高速紙芝居の魔導士のように放てるようになるかもしれない。


 俺はぐっと拳を握った。


「訓練してみるか。明日から」


 俺は明日から本気を出す男、新生ジークである。よって俺が治療院にお世話になることはもう決してない!決してないのだ。そんな決意を固める俺はまだフラグという言葉を知らない。



 Side 魔王視点  登場と共に退場する魔王


 ラギア平原からずっと進んだ場所にある深い森。ここに生息する魔物は強く、名うての冒険者達も近づかない危険区域。そこで新たなる王が誕生しようとしていた。


 名をヴェルゴルン。ジークと同じC級に分類されるオークであるがその体躯たいくは通常の何倍も大きい。魔物の世界は弱肉強食、この世界の人間が魔物を狩ってレベルをあげるように魔物も他者をらうことで等級とうきゅうを上げてゆく。


 そしてその最上位クラスが魔王。一気に知力と力が増し人類の大敵となる。ヴェルゴルンはこの森に住む魔物を食い荒らし遂にオークキングに達したのだ。


「グハハハっ力が(あふ)れ出てくるようだ」


「流石はヴェルゴルン様ですガスよ」


 胡麻(ごま)()る配下もオーク。でも、彼らもハイオークと呼ばれるB級相当に分類される怪物であった。もし彼らがジークのいる街に下りていれば被害どころの騒ぎでは済まなかっただろう。


「それでこれからどうなさるおつもりですがヴェルゴルン様」


「グッハッハ決まっている。人里に下りるのよ。そして(にく)き人どもをぶち殺す。近くにあるエルフの里を襲うっていうのもいいなぁ」


 魔物のツボは人とは違うらしい、ケタケタと彼らは笑い出した。でもその笑みが止まる。ドゥンっという不可思議な音が響いたかと思えば大木が倒れたからだ。


 それがどんどん大きくなり、彼らは此方(こちら)に向ってきていると知った。


「何だぁ?」


「ほっ報告っ!正体不明の魔法接近!低速ながら威力は高い模様!木々をなぎ倒し我々の元へ進行中と見られっぐっ!?」


 報告役の下っ端を蹴り飛ばしヴェルゴルンは笑った。


「グッハ!どこぞのニンゲンが俺様の存在に気づいたか。このヴェルゴルンを魔法一発でどうにかなると思っているとは滑稽(こっけい)よ。見てろ、握り潰してくれるわ」


 そして現れた魔法玉。その遅さとミニマムさにヴェルゴルンはあざ笑うように口元を曲げる。が、手を伸ばした瞬間、案の定ボンっと腕が消しとびその体にボゴンっと風穴が空いた。


「あ?」


 ドシャっとヴェルゴルンは崩れ落ち、以後一言も発さず絶命した。()くして魔王は出現と共に退場となった。


 この世界の理に従って膨大(ぼうだい)な経験値は討伐者へと流れ出す。魔王を倒したとなればレベル上限の壁など優に突破する。


 C級が魔王討伐。そんな奇跡を起こした者は急激なレベルアップに体が耐えられないに違いない。そう、もしそんな者がいればそいつはきっと今頃、治療院直行となるだろう。


 そして──恐ろしいことに消滅の力もったその玉は魔王を(ほふ)ってもなお消えず新たなるストーリーを描くために超低速で突き進むのだった。ズゴゴゴゴっと


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