EPIROGE 銀の盾 Byレコチューブ
SIDE ヤルルとシーラ
「魔王を倒したライエル・ハーストンをこの国の勇者に任命するぅ」
「うおおおお!英雄ライエル!英雄ライエル!」
王冠を被った王がライエルの手を持って掲げさせ、ライエルも手を振ってそれに応えて歓声が沸く。
「くふっ」
それを見て噴出したシーラにヤルルは視線を送る。
「おかしいか?」
「だってあの顔、顔面いっぱいに青あざ作ってる人が勇者だなんて」
「魔王との闘いでついた名誉の怪我ということになってるようだ」
「ふーん、名誉の怪我ね」
透明の魔術を扱えるヤルルとシーラはあの場にいて詳細を知っている。本当は誰が倒したか、そして何が起こったのかを。
「本物はどうだった?」
「彼なら大丈夫。平穏を望む人。恋人と一緒に幸せになると思う」
何で赤面してるんだっと首を捻りつつもヤルルはちょっと残念だなっと思った。強さを求めてくれたら信じられない魔法を見せてくれるかもしれないから。仲良くなるために彼がやってる店とやらに通うべきだろうか。
「ねえ、それよりあれをあのままにしていいの?」
「いいさ。不相応な者を掲げて困るのは人間さ。自滅の道をひた走るのを僕らエルフが止める義理は無い」
ハーレムメンバーに囲まれて有頂天となっているライエルにシーラは顔を歪める。
「でも、腹立つんだけど」
「嘘で塗り固めて成り上がったとしてもいずれはバレる。実力を伴わない肩書なんてものは重荷になる。彼が勇者に相応しいかはそれこそなってから問われることだからね。それに勇者なんてものはそもそも人の世には理外な気がしてならない」
「どういうこと?」
「神から定められでもしないと”ありえないもの”ってことさ。それは必ず歪みを与える。その存在が出てこなければ賞賛を得たであろう者」
ヤルルの瞳に映る忌々し気にライエルを睨むロアード団長と勇者を利用してやらんと企む邪悪な大臣の顔。果たして欲深き人間がこの状況で我慢ができるか。
「本物の英雄によって迷宮に空いた直通ルートのせいで、この国の経済もまた歪むはずだ。勇者なんて言ってる場合じゃないと思うけど、それにこいつがある僕らにとっては彼がその地位に収まっていてくれた方が都合がいい」
そういってヤルルは懐から取り出した魔道具をポチリっと押した。
”おい!お前が俺を操ってるんだろ!ちゃんとやれよ!力が発揮できねえだろ。俺に協力しやがれ魔王”
あのシーンでのライエルの言葉が流れ、カシャっと止めたのは”録音再生機”携帯ラジカセである。ジークが使用し落ちていたものを彼が回収した。
「彼はエルフの盾になってくれるだろう。少しくらいいい目を見せてやろうじゃないか。まあその前に死んでしまうかもしれないけどね」
何となく王家によって彼が高難度ダンジョンに放り込まれる様が見えたとヤルルは眉間を揉んで話は済んだと離れてゆく。それを追おうとしてシーラは振り返った。
彼女が気に掛けていたのはライエルハーレムの一人、フィアのこと。恐らく、彼女は意識を回復させていてライエルの嘘を理解している。いや、もっといえば彼が姿を偽っていることまでもあの子は把握しているだろう。
それでも付き添っているのはきっと好きだから。でも、それも長くは続かない。ライエルの瞳にはハーレムの一人に映っているだろうから。
「自信がないから本当の自分を愛してくれる人に気づかない……か」
そんな男からさっさと離れればいいのに、彼女もまたもしかしたら自分に向いてくれるかもという淡い希望に縋り付いている。
そして彼らは滅ぼそうとした勇者をエルフとして讃えている。
「変なの人間って」
呟きシーラはヤルルの腕をとって照れる彼に寄り添ったのだ。
SIDE マリアベールとパーネ
「マリアベール様!どこですかマリアベール様!」
エルザの声から離れながら、元聖女マリアベールはホッと息をついた。エルザは優秀だが心配性でくっつき虫である。
自分にその気があるんじゃないかって疑うくらいだ。正直、満更でもないのだがと真っ赤になったマリアベールは今そんなこと考えてる場合じゃないと首を振る。
目指すは丘の上の教会。元教皇パーネ様が住まいし場所である。
類まれなる聖なる力と神の言葉を理解するパーネ・ルゼリア。彼女の凄さはそれだけに留まらず未来を見通す力があるという。
現地人であるはずの彼女が神的な特異能を有しているのはそれが先代勇者(聖剣イカスカリバー)のスキルであり、守り人の死後、彼女がイカスカリバーの主人に認められたからに他ならない。
勇者とはものであり、守り人は勇者がこちらの世界で力を行使する上で必要なマルチジョイントでしかないというわけである。
この事を知るのは私と私の母だけだとマリアベールは長い階段を上がる。元教皇という身でありながらパーネが世捨て人ルートを辿ったのはその力を封印するため。
無論、それもあっただろうが彼女は未来を見て動いていたのかも知れないとマリアベールは確信していた。此度の件のあちこちで彼女の影がちらつくからである。
上がり切ってマリアベールは庭園で水を撒くパーネの姿を発見した。枯木のような老女であるはずなのにまるで一枚の絵画のよう。
欲に塗れた本部とは違ってこここそが神聖の地と言わんばかりに厳かだ。賢者と勇者などという存在がいるとすれば彼女のように人前に現れないものなのかも知れないとマリアベールは思った。近づこうと思った彼女は人影を捉え思わず足を止める。
(先客?)
パーネと軽く言葉を交わしてその人はこっちに向って来る。掃除用具を持った恰幅のいい叔母さん。ペコっと頭を下げてくれたので此方もと丁寧に頭を下げる。小さな子犬達がテトテトと彼女の後をついていく。
(犬)
犬種は分からないがジークという男性が飼っていたものに非常によく似ていた。兎に角とパーネに歩み寄ったマリアベールは胸に手を当てルゼリアの礼をとった。
「パーネ様」
「何だいマリアベールかい。まあお前さんが来るのは分かっていたがね」
光り輝く瞳を向けられゴクッとマリアベールは喉を鳴らしてしまった。
「お時間を取らせるのもあれなので早速本題を、此度のこと全てパーネ様が描いた絵だったのですね」
「ひっひっさてどうだろうね。アンタに言えるとしたら確かにわしは未来を覗けるけどね。所詮はそこまでさ。切り開いたのはあの子達であってわしは軽く背中を押したようなものさ。引退した身でもあるからね」
「……ではやはりジーク様が」
「いいかいマリアベール。分かっていると思うが吹きこんだら容赦はしないよ。大事な孫娘の婿なんだ。その禁を破ればわしが死んでいようと恐ろしいことが起こると覚悟しておくことだよ」
「きっ肝に銘じます」
フンと鼻を鳴らすパーネ。やはり元教皇、権威が滲み出ていた。
「人が使うには過ぎたる力さ。娯楽に使うくらいが丁度いい。それにどれほど強靱な力を持つ英雄様であろうとその者もまた人間。英雄だろうと人類の奴隷ではない、人並みの幸せを得る権利はあるとわしは思うからのう」
遠い目をするパーネ様。過去を思い出しておられるのだろうか。先代のイカスカリバーの守り人はライエルのようなハーレム大好きの異世界人であったらしい。
屑男だったがそれでもライエルと違って一人一人の女を愛する男だった。壊れたのは彼のハーレムメンバーがエルフによって殺されてから。
これは後に判明したことだが、エルフが手に掛けたわけじゃなかった。エルフが魔族と通じている出鱈目を信じさせるがため、人型を殺めることに躊躇いがあった異世界人(守り人)の箍を外すための人による策謀。
(どっちが魔物なんだか……ですね)
「話は終わりかい?」
いや、本題がまだだとマリアベールはキっとパーネをみやる。
「あの、私がパーネ様の元へ訪れたのには実は相談事がありまして。ライエルという男のハーレムに入れと命令されてしまって、既に聖女の地位を降りた私には権力がなく、早い話が貞操の危機といいますか……その」
「安心しな。アイツはもう勃たないよ」
「へ?」
「あのゴミ屑男はあたしの大事な孫娘を襲おうとしたどころか、手に入らなかったら殺す気だったからね。ライン越え、罰として薬をくれてやったわ。ハーレムだろうが生涯不能さ。いーひっひっひ」
さっき英雄とか賢者とかだと思ったのを撤回したい。後、絶対この人は怒らせちゃいけないとマリアベールは心に誓った。
ふと視線を感じてマリアベールは振り返った。あったのは銀の板。いや、盾にも見える。先代勇者が剣だから、対を為す存在。まさかあれが次代勇者?此方を向いていて何故だか誰かに見られているような感覚にマリアベールは襲われた。
「ふんっそれほどわしらの生活を覗くのが楽しいかい、随分と夢中じゃの”異世界人”」
(え?)
今、パーネ様は何といった?だが聞き返す前にざわざわとした声が入ってくる。現れたのはジークとパーネが引き取っている孤児である子供達だった。
何をするのかとじっと見ていれば銀の板をとって音楽を流し踊りだした。
「アクミョウ退散!アクミョウ退散!色即是空でオンミョウジ!HEY」
何だあれ……。
「こっこれ!ジークや。子供達にそのようなキテレツな踊りを教えるでないわ」
「はっ年寄である婆さんには理解できねえかも知れねえ。だが、これが時代の最先端なんだよ。いや、俺がして見せる。俺はこの踊りをフェアリーケイブをチェーン店化することでこの世界に流行らせるっ」
「アホな事するでないわ!この大馬鹿者めがっ」
意味不明だが、何となく彼が色んな人から選ばれた理由が分かった気がした。げっ目が合ったと締めに入って帰ろうとしていたマリアベールの口元が引き攣る。
「おっアンタ確かエルザさんの主人とかいう。丁度良かったエルザさんに教えるためにこの踊り是非覚えていってくれ」
「何で私が教えるんですか!」
「よし、大事な宣教師候補だキッズよ囲め!」
「お姉ちゃん教えてあげる」
「一人語りのところは恥ずかしがらずにドヤ顔で立つのがコツだよ」
「ちょっと待って!子供を使うなんて卑怯です!」
マリアベール、オンミョウ宣教師強制就任。ジークさんってただの変人で表に出しちゃいけない人だっただけの話なのではとマリアベールは思ったのだった。
FIN
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あとがき
『異世界人は動画サイトに夢中のようです』を最後までお読み下さった方、本当に有り難うございました。
うーん、纏めるのムズい。ジークの冒険はこれで終わりとなります。きっとジークはミリーさんと幸せな家庭を築くでしょう。
ラストにちょっと匂わせた通り次回作のプチ宣伝要素も盛りました。
元廃人がゲーム内ストーリーに全力フォーカスしたMMOもの【廃人遊戯譚『ヴァラエティーパラシス』】(ストック100万字)を公開。
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読んでくれてほんとにサンクス(/・ω・)/




