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動画23 FINAL 異世界人は動画サイトに夢中の用です 後編

 死闘が演じられると信じていた。あの高速紙芝居のように……。物語の最後を彩るべき演武が。一太刀、二太刀と切り結び、俺は失望し、武器を持った手を下ろす。


「はっなんだ。威勢のいいことあれだけ言って諦めたのか?そうだよな。お前如きが俺に勝てるわけ」


「ライエルお前……弱くなったな」


「あ?」


「確かにお前はレベルで俺の上をいってるのかも知れねえ。だがな、所詮レベルなんて数値だ。本当の経験は数字じゃ測れねえと俺は動画で学んだ。お前が女のケツを追っかけ回している間、俺は精霊界を学び続けた。どうやらそれが歴然とした差を産んだらしい」


「何言ってっ」


「お前弱いよ。昔のお前よりもずっと弱くなってる」


「ふざけ」


 キーンっとライエルの剣を弾く。決別した間柄ではあるがここまで落ちた姿は見たくなかった。


「おい!お前が俺を操ってるんだろ!ちゃんとやれよ!力が発揮できねえだろ。俺に協力しやがれ魔王」


「何故我が貴様の命を聞かねばならんと言いたいところだが、貴様が持つ本来の力は発揮されている。敵わないのはお前よりも奴が遥かに強いのだ」


「なんだと……」


「そもそも、本当に勇者なのか貴様は。見た話しとまるで違う。気絶した時点で疑ってはいたが、我から見ても貴様は余りに貧弱過ぎる。凡だ」


「ああ俺も賛成だ。ライエル、お前がどんな肩書背負ってようが今のお前高速紙芝居で秒殺される雑魚敵にしかみえねえって」


「意味わかんねえことをつらつらと。だが、俺を虚仮にしたなっ。この神に選ばれた勇者ライエル・ハーストンを」


 こういうのを自尊心が強い奴っていうんだろうか。はぁ、もうめんどくさい。


「お前が成功しようがマジで興味ねえ。勝手にイチャイチャしてろ。まぁ要はだ。追放したなら一々関わってくんなっこのストーカー野郎っ」


 全追放もの高速紙芝居で抱えた鬱憤を込めて、思いっきり顔面に叩き込んで気絶させた。スカッとした。


 何で追放したのに関わってくるんだこいつら。兎に角これで万事解決……じゃなかった我慢できず勇者をぶっ飛ばしてしまったがまだ魔王がい──


「ジーク!!」


 ミリーさんの声にハッとすれば目の前に爪を振りかぶる魔王マスタード、俺の体が押され代わりにミリーさんが切り裂かれた。


「っ」


「ミリーさんっ」


「卑怯だと幾らでも罵るがいいっ死ねっ!」


「バフッ」


 抱きついて守るがパトが入って防いでくれた。彼に任せミリーさんを看る。ヤバい血の量だ。


「大丈夫、私治療士だから治せる。ジーク、私は大丈夫だから貴方は逃げて」


 正直言えば彼女を連れてさっさと逃げようと考えていた。英雄じゃない俺が魔王に勝つことなど不可能。だが、完全にプッツンした。


「ジーク駄目よ」


「どういう理由かアイツは俺を殺そうとしているし、ここで屠る以外に道はねえ。後、悪いミリーさん、俺は恋人傷つけられて黙ってられねえみてえだ」


 ライエル戦で剣を使い切ってしまった。もう、これしかないとフィットネスカリバーを取り出す。そのタイミングでスタっとパトが隣に着地した

「シャドウイーターだと……まさか」


 シャドウイーター?パト見て言ってる?が、どうだっていいとヒュンヒュンヒュンとフィットネスを開始する。


「パト下がってろ。んで、魔王マスタードだったか」


「何故貴方が人と共にっ」


「お前は俺の大切な人を傷つけた。筋トレしたまま消してやるよっ」


「それでも我は引くわけにはいかん」


 再び攻撃を仕掛けてきた魔王マスタードの腕は触れた瞬間、消滅した。恐ろしきかな精霊魔法。ありったけを注いでいるためちょいとクラクラするがカーネル薬をぶっ刺して耐える。


「この力っ!やはり貴様なのだな!貴様があああああ」


 来たと俺は引いて後ろでにフィットネスカリバーを構える。まさか最後の最後でスキルを披露することになるとはだ。


「剣術一式、マギア一閃」


 誰もが使える横凪の初期技だが、纏わせたメルト玉によって空間を削るように魔王マスタードを腹で分断した。ドシャッと崩れたマスタードと同時にガクンと落ちた膝を支える。


「はぁはぁはぁ」


 信じられないほど魔力をもっていかれた。凡人たる俺には一回が限度。だが、それでも異界の知識のお陰で魔王を倒し──


「お前生きて……」


 どうやったのか魔王マスタードは立っていた。それでもただでさえ白い顔が青白く染まり、彼もまた決死であることがみてとれる。


「くっくっく、恐ろしい力だ。いやこの世に存在してはならぬほどの理外の」


 ゴハっと血を吐いて、それでもなお彼は俺を睨みつける。


「だからこそお前のような者が守り人に選ばれたか。だがっ」


「なっ」


 走ってきたライエルがマスタードの心臓を突き刺した。いや、彼は意識を失ったまま。つまりこれはマスタードによる自滅。


「我の経験値は渡さぬ。協力なぞしてやるもの……かっ」


「ライエル様っ」


 マスタードが逝ったタイミングでライエルハーレムが目を覚まし、更にエルザさんやマルス君援軍に来た教会・冒険者勢が姿を現した。


「こっこれは」


「ライエル様が魔王を倒したんです!私達を助けるために限界を振り絞って」


 流石は勇者様だと歓喜の声が上がる中で俺はミリーさんを助け起こす。


「大丈夫?ミリーさん」


「動けないけど何とか」


「すぐカーネル治療院に届けるよ」


「ありがとう、でもいいの?貴方が倒したのに」


 そのままライエルの体がズルっと倒れ込んだので騒ぎになってる。


「説明するだけでも揉めそうだ。いいさ別に。運良かったのもあるし、そっそれに今はミリーさんの傍にいたいし」


 恥っず。互いに真っ赤になってミリーさんは何も言わず身を寄せてきた。そのままお姫様抱っこで抱き上げる。


「パト、キー、あとクーだっけ?帰るぞ」


「バフ」「キー」「クー」


 何か放し飼い従魔がまた増えてしまった。まあいいや。


「ジーク殿一体何が」


「悪いエルザさん、怪我人だ。話は後で治療院優先だ」


「では、私も付いてゆこう。ここは50層……いや、そもそもジーク殿はどうやってここへ。あれ?ジーク殿?」


 すまないエルザさん、今は二人きりにさせて欲しい。俺達にとって迷宮はお決まりのデート場所なのだ。


 ◇◇◇


「まさかミリーさんが聖女だっただなんてな」


「やめてよ聖女だなんて。お役目が嫌で逃げ出したんだから。ルゼリア教会からは破門よ破門。まあそのお陰で助かったんだから、力には感謝しないとなんだけど」


 特に治療することなく彼女の体は元通りとなった。ただ、失った血が多かったので絶対安静ということでカーネル治療院のベットに寝かしつけられている。


 入ってきた風が彼女の金髪をサラリと流す。


「退屈だろうから、銀の板は置いてく。じゃあな安静だぞミリーさん」


 去ろうとしたがぎゅっと裾を持たれた。振り返るとトマトみたいに真っ赤になった彼女が布団を開いていた。


「きて」


「いっいや、流石にまだ癒えてないわけで」


「貴方は頭ボブゴブリンなんだから、いつもみたいに理性なくして」


  キスをして──俺達は結ばれた。


 ……

 ………

 ……………


 初めてにしては上手くできたと思う。裸のミリーさんを片腕で抱き、同衾(どうきん)してるこの状況。ジーク、卒業致しました。顔がにやけてしまうのが抑えられない。凡人たる俺はこの華奢(きゃしゃ)な女の子を守るだけでも手一杯だ。


「ねえ、ジーク」


「ん?」


「本当に良かったの?魔王を倒したこと言わなくて」


「いいさ、チヤホヤされるのは柄じゃねえ。ただ凄い魔法知ってるってだけだし、それにこの力は人前で余り使っちゃいけねえ力な気がするんだ」


 メルト玉は善も悪も消滅させてしまう危ない力。使い方次第で大切なものも失ってしまう可能性がある。知る人は少ない方がいい、きっと。


「それに注目されるとコイツが見れない」


 そういって俺が銀の板を手に取ればミリーさんがちょっと呆れた息を吐いた。


「貴方もう中毒になってない?」


「しゃあねえだろ面白いんだから」


 そういって精霊界の映像を流して二人で見入ってしまう。


「ねえ、いつか私行って見たいかも」


「ずっと見てたら行き方分かるんじゃねえかな。マジ何でもあるから」


 俺達は銀の板に齧りつきとなって──カラカラと音が鳴ったと思えば扉が開かれた。キャスター付きの椅子に座ったカーネル先生である。


「二人とも病院はラブホではありませんよ」


「「ごっごめんなさいカーネル先生!」」


 動画は楽しいけど夢中になりすぎは要注意。ただラブホって何だ?


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