動画23 FINAL 異世界人は動画サイトに夢中の用です 中編
「右手に灼熱低級ガナフレア、左手に氷結低級アイシクルロア。二つ合わせてメルト玉」
タンマリ魔力を込めたので超巨大。大丈夫、魔力回復ポーションを飲みながら行い魔力切れのリスクを落としている。何かハイになってるせいか魔力が枯渇する気がしないけど。
超緊急事態ということで現在30層にいる俺は迷宮の床を突き破ることに決めた。後で怒られまくっても知らん。魔王さんに全ての罪を吹っ掛ける。兎に角、全力で彼女ミリーさんの救出優先だ。
「ぴゃお」
銀の板で学んだ通り、カッコいい魔法の打ち方を行う。放たれたメルト玉によってズオンっと空間が削れ、大穴が空いた。やっべ、ちょっとデカくし過ぎたかも。うん、魔王のせいってことで。
「じゃあパト、キー付いてこいよ。よっと」
その穴から飛び降りて一気に最終階層の50階へ。風魔法を使って着地する。これがオクトパ迷宮の最終地点、思いっきりズル使ったが初めて入った。
フェアリーケイブと同じくらいの広さで中央にはコア。王座は多分、元からあったものではなく自前で取り付けたものか目を見開くヴァンパイアが座っていて、あれが首魁だろう。女の子達は地に転がされ、ライエルが磔になっていた。
何でお前が姫ポジなんだよ。いや、ミリーさんだと困るが急にやる気なくなった。ミリーさんが倒れていた女の子の中にいてホッとする。
「バフっ!!」
愛犬家の俺には分かる。パトが屈めって言ったとその声に従えば空気の圧が抜けた。大剣の横振りを回避。突如現れた狼男。見る影もないが、これがロアード団長だろう。しかし──
「ガアアアア」
おっそ。振り下ろしてきた大剣を体を逸らして躱し、腹に拳を入れたら手で抑えのたうち回った。よっわ。ははーん、俺これ知ってるぞ。
「あれだな。パワーを求めたが故に変身してスピード落ちて弱くなる奴だな。残念だが動画で履修済みだ」
「迷宮を掘り抜いただと……今の魔法はっ!どういうことだっ。貴様!何者だ」
「俺が誰かだって?教えてやるよ。永遠のC級ソロ冒険者兼妖精料理店フェアリーケイブ店長、ファミリーネームレス彼女持ちのジークだ」
沈黙。高速紙芝居の口上を真似したが滑った。恥ず。あれ?俺のフィットネスカリバーじゃん。
「何で盗まれたのがここに?もしかして団長さんが俺んち入って泥棒だったって感じか?」
確かに筋トレ好きそうだったけど騎士団長が何やっちゃってくれてんのか。
「ガエゼ!ユウシャ アカシ ガエゼエエエエエ」
「いや、別に要らんけど金払ったの俺だから!これ俺のだって!」
イラっとして蹴ったらぶっ飛んだ。
「あっ」
宙を舞ってドシャッと地面に落ちる。死んでないよな?よし、気絶してるだけ結果オーライ。何か見た目だけで超弱かった。口空いてたのでカーネル印の薬放り込んで無かったことにする。
これで団長さんが元に戻るかは知らないが俺にできるのはここまでだ。対人でもレアドロップスキルが働いたのか何か落とした。何だろうこれっと持ち上げたら長方形の箱のようなもの。沢山ボタンが付いてて押したくなる。あっ銀の板と一緒で▷マークがあるじゃんか。
「何ということだ。まさか貴様がっ貴様が勇者なのか。わが友、四天王を倒したっ」
四天王?勇者?何言ってんだこの人?いや、このヴァンパイア。迷宮で態々用意した椅子に座ってるしちょっと頭おかな魔王なのかもしれない。ここに住んでるお前が言うなってツッコミはなしだ。
見方によってはご近所さん説浮上。いかんな、直通で繋がったし上手く逃げ出せても仲間って思われそう。
「そこにいるのはキー。貴様っ嘘を!我を裏切ったのだなっ」
「キー……」
成程、元飼い主はあの人か。ヴァンパイアだし、蝙蝠だし何となくそうなんじゃないかっていう察しはついていた。つまりキーは敵ってことになるが
「アイツのとこ戻りたいか?戻りてえなら行ってもいいぞ」
「キー」
フルフルと首を振って俺にしがみ付くキー。これが飼い主としての器の差だとフッと鼻で笑ってやるとヴァンパイアのこめかみに青筋がたった。本当は怖がらなきゃいけない相手だが不思議と怖くない。
答えは分かってる。倒れるミリーさんが俺に力を与えてくれている。そう、つまりこいつは愛の力。
「裏切りものめ!殺せクーよ」
ヴァンパイアが手を突きだしたと同時に蝙蝠が飛んできた。キーと同じ種族。雌らしくリボンが付いていた。
「クー」
「キー」
ここは待ち受けて倒すべきだが、釣られてキーも飛び立ってしまった。
「待て!一人で突っ走るなキー」
忠告虚しく、二体は激突、絡まりあって……ん?キスしたまま回転し始めた。チラっとヴァンパイアと目配せしあって再び蝙蝠に目を戻す。
俺達は今、何を見させられているんだろうか。空気がヤバい。俺は助けを求める一心でロアード団長の落とし物のスイッチを押した。
”味噌汁の精霊 みそしるっしいいいいいいい お味噌汁ぷしぃいい”
精霊語が流れる。あれ?これどっかで聞いたような。
「くっくっく流石は四天王を屠った勇者、精霊語を扱うとはな。だが、操れるのは貴様だけではないと知れっ」
ヴァンパイアが取り出したものにあっと声が出る。ミリーさんに預けた銀の板。何でこいつら人のものばっかパクってくんだよ。
”パンお姉ちゃん、カニのダイナソー取らないでよっ”
”もう二人とも喧嘩しないの!キッズチャンネル カニ&パン channelの登録よろしくお願いしまーす”
ブツっといって途切れる。どうしよう。互いに精霊語流しあった結果、何故か地獄みたいな空気になった。動けない。先に動いた方がこの責任を背負う。
「……ん、何だ?どこだここ!何が起こって?お前っジーク!」
丁度いいタイミングで眼を醒ましてくれたライエルにヴァンパイアと共にホッとする。俺達が知り合いと知ってかヴァンパイがニヤッとした。
「貴様ら顔馴染みか。なれば戦え!」
ライエルの身が地に降り立ち、操られる。意思ごと持ってかれていたロアード団長やマルス君と同じというよりは体が勝手に動いているようだ
「なんだ体が勝手に!どうなってる?」
「っくっくっく貴様を盾として使わせて貰う。人間には情が」
「制裁チェストパンチッ」
「ガッ」
ノータイムで顔面パンチを決めてライエルをぶっ飛ばす。何っ!?っと驚くヴァンパイアの傍まで転がったライエルが怒りの目を俺に向けた。
「てめえ!いきなり何しやがるジーク」
「そりゃこっちの台詞だライエル。俺はそっちのヴァンパイアさんよりもどっちかっていうとお前に腹立ってるんだ。餓鬼どもに聞いたぞ。俺の彼女ミリーさんに色目使ったんだって?ふざけんな、一体何考えてやがる」
「はっあれはてめえにゃ勿体ねえ女だ。俺に貸せよ」
「ハーレム築いてるだろ、それで満足しとけ」
「足りねえな。俺は勇者様だぞ。抱えきれねえ女侍らせて何が悪い」
勇者ってそういう存在なの?誤解してない?
「それで女の子が納得してるっつうなら他人事だ文句はねえよ。でもな人の女に手出すなつってんだ」
「いつから俺様にそんな口が利けるほど偉くなったんだジーク?俺がPTに入れてやったから冒険者続けられたんだろ?あっ違ったな今は格落ちして料理屋だっけか。勇者の権限使ってぶっ潰してやってもいいんだぜ」
「屑だ屑だとは思ってがここまでとはな。感謝するよライエル。お前から追放されておいて心から良かったと思える」
「ジーク、てめえの目が気に入らねえ。圧倒的カスであるお前が俺と対等の気でいるのが癪に障る。C級如きのお前が勇者である俺に勝てるとでも思ってんのか」
「操られておいてよく言えるな役立たず勇者様」
おっと堪忍袋の緒が切れたって感じだ。眼が血走っている。
「ぶっコロスッ」
「おいっ貴様らこの魔王マスタードを無視するでない!」
「「うるせえっ黙ってろ」」
「はい」
シュンとした魔王を気に掛けてる場合じゃない。追放時代からずっと抱えてきた鬱憤を晴らすために俺はライエルをぶっ飛ばすのだ。




