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動画23 FINAL 異世界人は動画サイトに夢中の用です 前編

「うぅ……ナタリア……」


 カーネル先生の薬のお陰でマルス君が意識を取り戻した。


「良かったマルスさんっ」


 ぎゅっと抱きしめるナタリアちゃん。一度は恋心抱いた相手だけど、幸せそうで良かった良かった。


「俺は一体」


「マルスさんは悪くありません」


 起き上がろうとするマルス君にカーネル先生が近づく。ってかカーネル先生の初めて立ってる姿を見た。歩けたのか。


「君は操られていたんですよ。恐らくは吸血鬼に」


「吸血鬼?」


「覚えてねえのか」


 流石に噛まれてでもないと操れないと信じたい。吸血鬼ってかなり強いって聞いたことあるし。まだダメージが残っているようでボーっとしていたマルス君はゆっくりと首筋を擦った。


「いや、そういえば痛みが走ったことがあった」


 ぐっと顔を寄せて診察したカーネル先生が唸る。


「これはヴァンパイアバットの()み傷ですよ」


 魔物図鑑を取り出したナタリアちゃん。流石はギルド受付嬢である。


「ヴァンパイアバットっていえば吸血鬼が子飼いにする使い魔で、全身黒の蝙蝠こうもり。特徴的なのはカ・キ・ク・ケ・コの音階で必ず鳴くというあの魔物ですね」


「キー?」


 俺の肩で小首を傾げたキーにざざざっと皆が後ずさった。薄情だなお前ら。


「ヴァヴァヴァヴァンパイアバットじゃないですか!今度はジークさんが操られ」


「あー大丈夫大丈夫。こいつはうちのペットだから。なーお前は()んだりしないよなキー」


 ぶんぶんぶんっと首を振るキー。やっぱ言葉分かってる。


「ペ、ペット?」


「そ、飼ったんだ。キーは俺とずっと一緒にいたからマルス君を()んだ犯人じゃない。それにこいつはもう家族みたいなもんだ」


 キーっと涙を浮かべて抱き着いてきたがあんまり嬉しくない。


「あの、前から思ってたんですけどジークさんって何者なんですか」


「何者って俺はただのC級冒険者だって。10層ルーティーン行う、迷宮で料理店開いて魔物を放し飼いしてるってだけの。偶に薬キメルごく普通の冒険者さ」


「ジーク君、君は立派な変人ですよ」


 カーネル先生っ。自覚症状ちょっとあります。


「大変だジークさん……」


 やり取りをガン無視して真剣な視線を俺に向けるマルス君。


「ん?」


「首の痛みはロアード団長も訴えていた。もしかすると団長も操られ」


 ゴアアアっとこの世のものとは思えない恐ろしい雄叫びが轟いた。爆音が響き窓から見ると丘の上の教会が燃えていた。不味い。あそこにはパーネ婆さんや子供達、そしてミリーさんがいるのだ。


「ジーク君」


 ぽいっと投げられたものをキャッチ。マルス君に物理で投じた薬だ。


「ヴァンパイアの術に(こう)する薬ですよ」


 流石はこの町最高のお医者さん。できるってレベルじゃない。俺が窓から出て降り立つと走ってきたパトに乗せられてしまった。


「うおっパト!大丈夫かこれ」


「バフッ」


 うちのペットは最強だ。


「じゃあ任せた。全力で行ってくれ!ミリーさんの元までええって!ちょっと待って速い速い速い!速すぎだってパト!」


 恰好つかないが俺は振り落とされないようにガシっとしがみ付いたのだった。


 教会が見えてくると共に子供たちの鳴き声が聞こえてきた。結構な戦闘があったのか色んなものが壊れている。パトから降りて子供達が密集してる場所へ向かう。


「ジークお兄ちゃん」


 気付いた子供が泣きはらしてボロボロになっていた。その頭を撫でて前へ。囲まれた場所に転がっていたのは綺麗な顔で眠るパーネ婆さんだった。


「……ミリーさんは?」


(さら)われちゃったの。勇者様たちも一緒に」


「勇者?」


 思い浮かぶのはライエルだが、何でアイツがここに?騒ぎにいち早く駆け付けたとか?いや、そんなことよりもだと俺は微動だにしない婆さんにジト目を送った。


「婆さん生きてるだろ」


「何じゃ気づかれてしもうたか」


 パチッと目を開いた婆さんに子供達が目を丸くした。


「え?」


「こちとら魔法を使える前衛だ。魔力探知でバレバレだってーの。あんたの孫が(さら)われた。遊んでる場合かよ」


 イラっとしたが青白い顔に溜飲(りゅういん)は下がる。


「好きで転がっていたわけじゃないわい。文字通り死んでおった。自身にリザレクトを掛けるので力を使い果たしたんじゃよ」


「婆さん化け物かよ」


「「「おばあちゃん」」」


「おーこれこれ。疲れておるんじゃ。気持ちは分かるが離れてくれるかい。ミリーお姉ちゃんを助けるためにも少しだけジークと話をさせておくれ」


 頷き、下がってゆく子供達。しっかりとした教育を受けたお陰でもある。子憎たらしい婆さんだが慈善家だ。


「助けにゆくつもりじゃろう」


「当然だろ」


「ジーク、お主はC級じゃ。少なく見積もっても相手はAを超えるであろう化け物。それでも行くか?死体を増やす無駄な行為と知ってなお」


「ライエルも攫われてロアード団長って人も操られてる。そいつらを解放すりゃワンチャン」


「そう都合良く行かぬことはお主も分かっているはず」


「まあな。でもやらないよりはマシだ。婆さん、俺はこれまで命を第一に考え生きてきた。今だってそれは変わらねえ、ミリーさんはもう俺の命なんだよ」


 決まった。


「……お主、まだ孫と付き合って一週間と経っておらんだろうに」


滑った。だが──


「俺の事好きになってくれる人とかミリーさん以外にありえない。彼女を失ったら一生女ができねえ自信がある」


「カッコがつかぬのう。もっと体裁の整った言葉を吐けんのかお主は」


「生憎とヒーローじゃなくて至って普通の一般人だからな俺は」


 ふっと苦笑したパーネ婆さんは真剣な顔つきで俺見た。


「孫を頼む」


「任せとけ、死ぬんじゃねえぞ婆さん」


 パトに飛び乗って愛する人を助けに行く。この状況、俺が散々楽しんでいた高速紙芝居の主役のようだ。まあモブだけど。


「小僧っこ」


「ん?」


「敵は迷宮奥。転移鏡で行った方が早いじゃろう」


 そうだけど、最終局面で一回自宅経由するとか何か締まらないだろ婆。


 ◇◇◇


 蔓延る魔物達を見て結局、転移鏡を使ってのフェアリーケイブへの帰還。


「うーわ」


 魔物が入った様子はない。なのに誰かによって壊された痕がある。


「これライエルじゃねえだろうな」


 丁度アイツが座っていた辺りだが、そうだったら絶対弁償させてやる。というか何であんな勝ち組なのにアイツはイライラしてるんだろうか。マジよう分からんとパトとキーに視線を合わせる。


「さて婆さんにはあー言ったが、こっから先はマジで死ぬかも知れねえ。お前らは俺の従魔だが首輪の無い放し飼いだ。俺に付き合う義理はないぞ」


「バフッ」


「キー」


 凛々(りり)しい顔。言葉が話せなくても彼らの気持ちが伝わってくる。主人と共に玉砕も厭わない。まさかここまで懐かれているとは。思わず二匹を抱き締める。


「一生涯ボッチ勢と思ってたがな。俺にも立派な仲間ができた。いいか?俺らのルール、ルーティーンは絶対に帰還することだ。何が何でも生き残れ」


 チラっと皿を見て、爛々(らんらん)と輝き期待に満ちた瞳を俺に向ける二匹。確かに急いでる身だとはいえ、マジで死ぬかも知れない以上、最後の晩餐(ばんさい)を喰っておいた方がいいだろう。アイテムボックスから作り置きを出してやる。


「よし食え」


 ガツガツと貪る二匹。こいつら単に飯が旨いだけで付いてきてるわけじゃないよね?俺の人望だよね?そのあまりの食いっぷりに不安を覚えた俺だった。


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