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動画22 おもちゃ紹介 キッズチャンネル カニ&パン channel

 迷宮などの閉鎖された空間以外でスタンピードが起きる事はほぼありえない。


 虫系の魔物が大繁殖して公害を齎すことはあるが魔物が多種族で群れを為すことはなくまして数万など──


 率いている者がいるのは確定。そしてそんな者がいるとすればまさに魔の王であり人にとっては厄災そのもの。


「くっくっ、ほら見ろ!俺の言った通り危機が訪れた。さっさと()びろよ。勇者たる俺に魔王を倒してくださいってな」


 言ってる場合か。リーダーの男がライエルを無視しナタリアちゃんに聞く。


「その慌てようは突破されたってことか」


「はい、町にいる冒険者さん達で何とか食い止めてますがこのままでは。皆さんの力が必要なんです。ここにいる全冒険者にギルド及び王家から緊急依頼を発令します。

どうか町の防衛を果たしてください。報酬は金貨10枚」


「へえケチな王家とギルドにしちゃ大盤振る舞いじゃないか」


 女戦士ヴィヴァロさんの言葉を受けて、ドワーフがどこからか取り出した大斧を担いだ。


「それならば断る奴はいるまい。まあもはや金の問題ではないがな」


「その通りだ。だが、今から下るとなると間に合うか?」


「それには心配はない」


 また俺の部屋から出てきたのはマルス君。更に続いてずらずらと教会の教徒たちが現れ『転移鏡』を運び出してきた。さよなら俺のプライベート。


 ってかHな本ベットの下に隠して置いてよかった。昨日見たけど仕舞ったよな俺?


「パーネ様より『転移鏡』の使用許可を頂いた。言葉通り転移の魔道具だ。数秒と経たず町に帰ることができる」


「はっ偶には教会の奴らも気が利くじゃねえか。おい!お前ら聞いたな。俺らA級PT『ネクスト』リーダーであるこのヒガンが指揮を執る。行くぞおめえら」


 おっととんでもない大物だった。PTでA級というのは全員がその等級でなければ名乗れない。彼が率いるのに誰も文句はないだろう。応!っと答えて立ち上がった冒険者達。ライエルが待ったをかける。


「おい!待ちやがれっ話は終わってねえ。謝って助けて下さいってお願いしろよ」


「グチグチ五月蠅えな。やってから言えよ。兄ちゃんがどれだけ強かろうと今出てる死者は救えてねえ。そこまで自信があるならさっさと倒してくれや」


 もうあの人、ヒガンさんが主人公でよくね。


「ジークさん」


 真剣な顔で寄ってきたのはルゼリア教会の騎士マルス君。そうかやはり俺にも役割があったかとキリっと顔を整える。


「その……これがベットの上に」


 Hな本をすっと受け取り、無言でアイテムボックスに放り込んだ。


「うちの信者は女性が多いので隠した方が良いと思いましてその……」


「マルス君、君は神だ」


 一般人な俺でもできることはある。大ボスは彼らに任せて俺は俺の闘いを行おう。


 ◇◇◇


 転移すると教会ではなく広場に出た。あちこちから黒煙があがり、想像以上に状況が最悪だと分かった冒険者達の顔が(きび)しいものとなる。


 ヒガンが的確に指示を飛ばし編成を組み始める。どうやら俺は非戦闘員と思われているようで戦力外。まぁ無理に参加したところでだし、ここはミリーさんについて彼女を守るべきか。彼女は手伝ってくれていた年長組と共にいた。


「ねえジーク、私この子達を連れて教会に行くわ。そこに子供達で集まってると思うの」


「だったら俺も」


「貴方には頼みがあるの。私の代わりにカーネル治療院を見てきて欲しい。お祖母ちゃんが強いから教会は大丈夫。でも、知ってる人がいないとチビ達が泣いちゃうから私がいないと。ヒガンさんに事情を話して冒険者をよこして貰うわ」


 それなら俺が守って治療院に強い冒険者を送った方がいいのではと思ったが彼女は首を横に振った。


「上手く説明できないんだけど、貴方が行かないと駄目だって思うの。何でなのかは分からないんだけど」


成程、なら俺はミリーさんを信じるだけだ。


「分かった。行くよ」


「いいの?こんな緊急時に自分でも容量得ないって思ってるのに」


「ミリーさんが何もなしに言ったりしないだろ。それに俺もカーネル医師には世話になってるしな」


「有り難う」


「大丈夫そうなら俺もすぐそっちに向う。それまで気を付けてなミリーさん」


「貴方も」


 そうだっと俺は銀の板を取り出した。パーネ婆さんから余り(さら)すなと忠告されたが、何となくお守りの気持ちで渡したかった。


「ミリーさん前弄った箇所覚えてるだろ?多分、子供用の映像転写したらアイツらにも見えると思うから、チビ達を落ち着かせるのにいいはずだ」


 タイトルは”おもちゃ紹介 キッズチャンネル カニ&パン channel”子供の精霊が玩具で遊ぶ様が流れるやつ。


 実はこっそり幼少組に見せたことがあって大人気だった。コクっと頷いて受け取ってくれた。


「ジーク、さっきは庇ってくれて……そのカッコ良かった」


 頬にチュっとして固まる俺を残してミリーさんは駆けて行った。ヤバい幸せだ。余韻に浸りたいがパチっと頬を叩いて顔のゆるみを解く、やる気が(みなぎ)った。


「パト、キー行くぞ。俺に力貸してくれ」


「バフッ」


「キー」


 目立たなくなっていいじゃないか。英雄様じゃなくたって人は救えるし、それも立派な物語だ。


 敵を(ほふ)りながら治療院に向って進む。こっち側の魔物は余り強くないのかサクサク倒せる。パトが強いのは知ってたがキーも中々の実力を持ってたのには驚いた。


 ただの()蝙蝠(こうもり)──マスコット的存在かと思ったのに風魔法で切り飛ばしてゆく。


 怒らせたら不味いかもしれない、餌は切らさないようにしよう。助けた母親が男の子と一緒に頭を下げてきた。


「あの、助けて頂いて有り難うございます冒険者様」


「一応冒険者ですけど、もう半分飲食店のオーナーっつうか。良かったら息子さんとこれ食って下さい。二号店出す予定なんで」


「はぁ」


「いいのお兄ちゃん?」


「ああ、しっかり食っとけ」


「有り難うお兄ちゃん」


 少年のクシャクシャと頭を撫でてやる。丁度きた冒険者に彼らを任せて駆ける。


 カーネル治療院から爆炎があがった。危機的状況と判断、申し訳ないが窓を蹴り破って侵入すると治療院の看護婦を庇うように立つカーネル委員長と何故かマルス君が敵対していた。


「は?どういう状況?」


「ジークさん!?」


 あっナタリアちゃんも看護婦に紛れてた。二人ともポーションを取りに来たって感じか?ここの薬は色んな意味で効くから。


「ガアアアア」


 人のものとは思えない声をあげ襲い掛かってきたマルス君はどう見たって正気じゃない。剣を弾き返し距離をとって改めて彼を見るが充血しボタボタと涎を垂らしている。イケメンが台無し。彼にはエロ本の恩があるので救ってやりたいが。


「マルスさんが急におかしくなっちゃったんです」


「ジーク君、症状から見て彼は吸血鬼によって操られているとみますよ」


 踏み込んでからのマルス君の一閃。死の間際だからかゆっくりに感じ捉えられる。


「うおっそれは見りゃ分かります。どうすりゃ」


「気絶か拘束をお願いできますか?そうすれば私が治して見せますよ」


 キランと眼鏡を光らせるカーネル先生が頼もしい。あの玉突きゲームを行う主役達を見守る監督のような彼をここは信じるのみっ。


「待ってください!マルスさんはB級です。貴方が勝てる相手では」


 音が聞こえぬほどに集中する。リズムだ。どれだけ早くても足の運びは決まっているっ。彼の踏み込みに合わせて足を出し、懐に潜りこんで腕を取る。そして背負って──


「投げるっ」


 ビタンっとマルス君の体が地面に激突。かなり痛そうで呻いたが我慢して貰う。そのまま腕をとって十字に固める。これも銀の板から得た知識。


「しゃっ!精霊の武術つえええ」


「嘘……」


「そのまま諦めず抑えておくのですよジーク君。治療しますよ波っ!!!」


 カーネル先生が拳を胸にぶちこみ、カハっと空いたマルス君の口に薬を放り込んだ。物理が過ぎる……っとカーネル先生を見れば


「ジーク君、応急速度こそ医療の(きわみ)ですよ」


 うん、この人が言うと何言っても正しい気がするのほんとズルいと思う。


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