ジークとライエル運命の再会と不和 後編
向こうも驚いたようで時が止まったかのように見つめ合ってしまった。変わっていない美形のエルフ。整い過ぎていて男としての自信を無くしてくる。
『フィストラル』リーダー、ライエル・ハーストン。性格も変わっていないようで女の子を侍らせている。
「ははっジークじゃねえか。久しぶりだな」
「ああ、元気そうだなライエル」
ホント折角イケメンなんだからその小悪党みてえな軽薄な笑みを浮かべなきゃいいのに。
「くっくっくっハッハッハ!」
「何がおかしいんだよ」
ってか十中八九お前が悪いからミリーさんに謝れ。
「これが笑えずにいられるかよ。俺らのPT追い出されたお前が一体どうしてるかと思えばまさか料理人にドロップアウトしてんだからな」
声がでかい。わざと周りに聞こえるように騒いでいるんだろう。ほら、性根腐ってる。まごうこと無き糞エルフである。無視でいいやもう。
「ミリーさん立てるか?」
「ええ、大丈夫。ありがとうジーク」
「はっその女が悪いんだぜ。何せこの勇者である俺様の誘いを断ったんだからな」
勇者?ってか服ダサッ。何だそのゴテゴテの鎧はっダサッ。いや、違うな。これはあれだ。銀の板の視聴によって俺の美的感覚が変わっちまったんだ。恐ろしく古臭いものに見える。
ってか勇者って行方不明でかどわかした嫌疑がライエルに掛かってたんじゃなかったか?何でこいつが勇者名乗ってる?まあいい、ようわからんしと俺はミリーさんにコソコソと耳打ちする。
「大丈夫か?ミリーさん。何があった、いやこいつに何かされたんだろうけど」
「何かいきなり俺のものになれって言われて。怖いわよこの人。ジークの知り合いなのよね」
「昔のPTメンバーだったんだ。恥ずかしながら追い出されてさ」
「別に恥じることじゃないと思うけど、それにそのお陰でこうしてジークに出会えたんだし」
「ミリー」
「ジーク」
思わずギュってしかけたところでダンっと机を叩かれてしまった。
「てめえふざけてんのか」
やべ、周囲に人いるのにミリーさんが天使過ぎてイチャつくところだった。オホンと咳をうって誤魔化す。
「ライエル、お前は客だし、昔の仲間だがミリーさんを傷つけるっていうなら出てってくれ」
「ジーク、誰に向って口きいてやがる」
お前に向ってだよ。それくらい分かれよと睨めば思いついたように口角をあげた。
「そいつはお前の女なんだな。なら今日一日俺に貸せ。それでチャラにしてやる」
「は?」
何言ってんだこいつ。
「お前はそういう役割だったろ?荷持ちのジーク。何でもかんでも俺に譲るってのが俺らのお決まりだったろ」
え?こんなに屑だったのコイツ。まさかここまでとは思わなかった。それとも変わってしまったのか。屑はモテるのか。よくこれでハーレム築けるものだと感心する。何にしろ俺にとって二度と顔も合わせたくないゴミ野郎になったみたいだと伸ばしてきた手を振り払う。
「痛っ!?」
んな強くやってないだろ。
「別に譲った記憶とかねえんだが、仮にそうだったとしてもこの人だけは絶対駄目だ。第一、女はものじゃねえし、結婚決めてる相手を他の男に渡すかよっ」
ん?あれ?ヤバい!?今、俺って勢いでプロポーズしてしまったのでは?振り返るの怖っ──
「ジーク!危ない!」
「え?」
「てめえ!」
へぶぅっ。思いっきりライエルに殴られた。あれ?全然痛くない。手加減してくれた?うおおお!?ご主人の危機を察知したかこっちにお見せできない形相で駆けてこようとするパトを身振りで止める。
噛んだらこっちが悪者になってしまう。
(どうどうパト!とにかく止まれ!俺は大丈夫だから)
「ふっ痛くて動くことすらできねえだろ。手加減してこれだ。いいか?俺はレベル129、教会に選ばれた勇者様なんだよ。俺に媚びといた方がいいぜ。すぐに災厄とやらが訪れて俺様が救ってやるんだからな」
介抱してくれてるミリーさんの胸があたって全然話が入ってこないが邪魔なので帰って貰うかと動こうとした瞬間、スッと入ってきた第三者がパンっとライエルの頬をビンタした。結構な威力、痛そう。
やったのは元聖女のマリアベールさん。その背後には勿論、騎士エルザさんがいて彼女も止める気はなさそうだ。まあ女性からは敵意を持たれて当然だろう。ある意味勇者だ。
「恥を知りなさい。貴方は勇者ではありません。こんな人が英雄であるわけがないっ」
「てめえマリアベール。元はと言えば俺の傍付きであるお前が役目を果たさず勝手にうろつくのが問題なんだだろうが。俺はレベル129で人類最強、何よりてめえら教会が俺を勇者と認めたんだろうがっ」
「世界を救うから股を開けと?山賊か何かですか貴方は」
「んだとっ」
「かー嫌になるな」
肉を齧りきりながら会話に入ってきたのは前回来たドワーフと女戦士ヴィヴァロさん達を率いるリーダー、武道家姿の男。すまん、多分名前は聞いてないので不明だ。
「折角うめえ飯が不味くなる。盛るなら娼館でやっとけや兄ちゃん」
「関係ねえ奴は引っ込んでろ」
「そんなに大声で騒がれちゃ関係ねえもねえだろ。迷惑なのさ。それともお前の目は周りを見れねえのか?一緒になってる嬢ちゃん達が可哀想だ」
自分がジトリとした目を向けられている事に漸く気づいたようだ。どんな力を得て増長してるのか知らんけどこれは酷い。慎重じゃなかったか?こいつ。
「くっ俺は英雄だぞ」
「厄災だか英雄様だか知らねえが、お前も冒険者なら為してからイキれや。どんな実力持っていようが踏破できねえ奴もいる。実力主義のこの世界で踏み越えてねえ野郎の話を誰が信じる」
そうだそうだ!言ったれ言ったれ。
「お前っ後悔するぞ」
「させてみろ」
あれ?俺忘れ去られてね?俺を蚊帳の外にしたバチバチと火花を散らす二人。まさに一触即発の空気だったが、またまた新しい声によって遮られた。ここでまさかのナタリアちゃん。息も絶え絶えで彼女は肩で息していた。
「聞いてくださいっ」
そういえばデートで来るって話だった。ただ、出てきた場所が奥にある俺の部屋からでギョッとしてしまう。あそこから登場したということは彼女は『転移鏡』を使ったということになる。
使わせたのはパーネ婆さんだろう。そういえばあの婆さんどこいった?手伝うって話だったはずなのにさてはサボったな。
「ギルドの受付嬢?」
「スタンピードが起こりましたっ」
「なっ」
兆候はあった。しかし、まさかこのタイミングとは。場がどよめくがフェアリーケイブにいる者は30層に到達できる強者たちなので突破の相談をし始める。だが、そうじゃないとナタリアちゃんは否定するため声を荒げた。
「違いますっダンジョンじゃないんです。ラギア平原に数万の魔物達が展開。私達の町が侵攻を受けてるんですっ」
「マジかよ」
最悪、俺達の想定を遥かに超えた事態が起こったのだ。




