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ジークとライエル運命の再会と不和 前編

 閉店、ミリーさんが帰宅した後──


「クリーンっと」


 厨房で手を(かざ)し、積み上がった使用済みの紙皿を魔法で綺麗にして収納する。経営初心者なので採算取れるか不安だったけど大儲け。


 正直言うと、パーネ婆さんが伝手で調理素材を取り揃える商家と契約を結んでくれたのが大きかったりする。あの婆さんには頭が上がらない。


 関係性上、下手に出ることはないけれど恩は返したいと思う。何より助かったのが彼女が(もたら)してくれた『転移鏡』というマジックアイテムだ。


 やってみて分かったが無かったら続けるのは不可能だった。


 まさにご都合主義。俺のために用意されたんじゃないかってくらい運が良かった。そしてと俺は立てかけた映像流れるそいつを手に取る。


「そもそも辿ればこいつのお陰だしな」


 精霊の世界を覗ける銀の板。パーネ婆さんが言うには誰かが持ち込み死に遺品となって流れた神話級の代物という話だがよくもまあそんなものが俺の所へ流れてきたと思う。


 レアドロップの低級スキルがあるとはいえ、幸運ってどころじゃない。余り外で使うなって注意を受けたけど、もう手放せない。


 ミリーさんと結婚することもそうだが、ルーティーンをこなすことで満足していた俺に目標ができてしまった。


 いつか精霊界に行って見たい。後、向こうの娯楽をこっちに(もたら)したい。まあ叶う夢なのかも不明だが、動画に登場するあの精霊たちのように趣味を謳歌(おうか)するような生き方をしたい。


 そう()んだ瞳で胸ピアノさんを眺めつつけた。婆とミリーさんが帰って(ようや)くできた自由時間を俺は一点の曇り無き眼で堪能し続けたのだ。


「バフッ」


「キー……」


 使い魔たちが呆れてる気がするのはきっと気のせい気のせい。


 ◇◇◇


 予兆、迷宮の様子がどんどんおかしくなっている。そんな警告がナタリアちゃんの口から告げられた。ただ、俺も薄っすら気づいていた。というのもフェアリーケイブのお陰で冒険者とより接するようになったため彼らから聞いたのだ。


 低層なのにやけに強い魔物が混じってると。事実、C級に死者も出ていて俺も転移鏡を使用せずに遭遇していたらヤバかったかもしれない。


「ってわけなので迷宮にはあまり近づかない方がいいですよ。ジークさんはお店やってるのでそういう訳にはいかないかもですが」


「いや、今日で一旦締めることにするよ。ギルドが言うってことはよっぽどだ。フェアリーケイブに行こうとした結果、死んじまったってなったら流石に気は悪いから」


「え?締めちゃうんですか?」


 ざっと周りが聞き耳を立ててきた雰囲気があったがきっと気のせいだろ。


「丁度、明日祝日だしな。俺って危険回避するタイプだし」


「ジークさん、ちょっと待ってくださいね」


 バっとナタリアちゃんは小型の魔道具を取り出してそいつを耳に当てて会話しだした。通信機のようだ。


「あっマルスさんですか。ナタリアです。今日非番でしたよね。デートいきませんか?はい!今からです。仕事?大丈夫です。風邪ってことで休みますから」


 サボり魔の俺が突っ込むのも何だが、おいっ。そして俺は一体何を見せられてるんだこれ。


「フェアリーケイブに行きましょう、デートスポットにいいって友達に自慢されて絶対にいきたいんです。今日閉じちゃうらしくて」


 ガタッと後ろで立ち上がる音が聞こえた。


「てめえら予定変更30層を目指すぞ」


「私達もこうしちゃいられないよ。PT資金使って買い込むよ」


「僕らも行きましょう」


「「「フェアリーケイブに」」」


 桜かってくらい意気統合してる。


「いいけど、死ぬなよお前ら。後PT人数分×4までな」


 俺が思った以上に精霊飯はこの世界の人々の心を捉えてしまったらしい。これは屋台って形で2号店を町に出してやった方がいいかも。事故起きそう。


 フェアリーケイブに戻ってくるともうミリーさんが待っていた。従業員なので彼女も鍵を貰って『転移鏡』を使用している。彼女のウエイトレス姿が眩しい。


「ジーク、外見た方がいいわよ」


「え?」


 こっそりと扉を開いて確認した俺はその作られた大量の列にうわっとリアルに声が出た。


「マジかよ……」


「美味しすぎたのよ。後、話好きの冒険者が引き金となってここが簡単にいけない場所なのも原因ね。加えて今日締めるみたいな事言っちゃったんでしょ?」


 まさかこうなってしまうとは甘く見てた。


「一応、ポールを設置してセーフティールームから出ないようにはしたから」


「助かる」


「でも、溢れちゃうのは時間の問題よ。店開いた方がいいと思う。貴方は作る事に集中して、お祖母ちゃんが年長組連れてきて手伝ってくれるって。その代わり給料は弾めって」


 頭が上がらない。彼女達の協力が無かったと思うとゾッとする。やると決めた以上はしっかりしないとだ。


 厨房、卵を割ってかき混ぜて包み料理を一気につくる。ひたすら単純作業だが銀の板があれば苦でも何でもない。


 ノールックで調理可能なので高速紙芝居を愉しみながらっと思ったが流石にフロアのミリーさん達が忙しそうで手伝うかと二つ持って外に出る。


「あっジークさん」


 するとすぐに見知った奴らに出会った。彼らは確か『ジオの聖杯』っていう手紙を届けてくれた子達だ。


「レイン君だっけか?君らも来てくれたんだな」


「えへへ、本当は来る気無かったんですけど周りの冒険者があんまり美味しいって言うから」


「信じられねえほどうめえよ。あっお代わりお願いします!」


「ちょっと!そんなに食べたら今日潜った収入が飛んじゃうじゃない」


「投資だよ投資、冒険者は体が資本だろ?」


「もうリーダーこいつに何かいってよ」


 PT仲間の女の子に言い寄られアハハっと口元を引きつらせるレイン君、まだ若いのに苦労してそう。


「まあゆっくりしてってくれ」


「はい」


 別れて進むとまた知った顔、まさかの商業ギルド員エール君だ。お忍びか俺と目が合ってさっと目を逸らしたが前に立つと観念したように溜息をついた。


「来てくれたんだな」


「親父に見てこいって言われたんだよ。ったくあの糞親父、コロコロ意見変えやがって。でも、アンタが料理人としてここまで凄腕で商才を持った奴だってのは見抜けなかった。料理も凄いがこの内装どうやったんだ?」


「内装は兎も角、料理は俺だけの力じゃねえからな」


「は?」


「まあ説明できるようになったら説明するって。ごゆっくり~」


「あっおい」


 申し訳ないが俺も忙しい。頼まれていた場所に料理を運ぶ。驚いたことにまたまた知り合いだった。エルザさんと彼女が主と仰いでいる女性だろう。白色髪を編んだ妖精のような美少女だった。


「お待たせしました。妖精エッグロールです」


「数日ぶりだな。ジーク」


「わざわざありがとうございますエルザさん」


「お前が敬語だと変な感じだ。普通にしてくれ」


「じゃあ遠慮なく、一応客と店員の関係だしそっちの人が目上の方かと思ってさ」


 チラっと俺が少女を見ればニコっとされた。エルザさんがオホンっと咳をうつ。あぶな見惚れてた。


「こちらは私の主、マリアベール様だ。聖女であらせられる」


「エルザ、私はもう聖女じゃないってば。初めましてジーク様、私はルゼリア教会の元聖女。今は一シスターにすぎませんので気軽に接してください。エルザから貴方の事は色々と聞かせて頂きました。出会っていきなりで申し訳ありませんがどうしても質問がありまして、パーネ様ともお知り合いということでどういう関係でしょう」


「俺に様とかいいって。関係って言われても初めてこの町に来た時に助けて貰ったってだけだぞ。後、婆さんの孫と一応付き合ってる」


「パーネ様のお孫様と……そうですか……」


 何だろうこの質問。謎だが。


「悪いがそろそろ俺はこれで。二人ともゆっくりしてってくれ」


「あっお待ちください。ジーク様、最後に一つ」


 様はやめて欲しいんだがこの人は聞いてはくれなそうだと続きを促す。


「この見た事もない精霊料理にこの音楽、一体どうやって貴方様はこれを思いつかれたのですか?まさか」


 銀の板のことは話せない。それでも俺なりに答えようとしたがガシャンっとグラスが割れた音に遮られた。見れば尻もちをつくミリーさんと立ち上がろうとする男。どうやら揉め事起きたと俺は慌てて駆け寄る。


「ミリーさん大丈夫か?」


「何とかね」


 明らかに突き飛ばされた。俺の彼女に何すんだと睨んだその相手がライエルであることに俺は目を見開かされるのだった。


(ライエル・ハーストン……)


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