動画20 マールンチャンネル 乙女ゲーム再現ドッキリ 後編
ギルドで入場許可を得た俺達はオクトパの迷宮へ向かう。その際も、手をワキワキ。タイミングを計るが嫌われるのが怖くて踏み込めない。
やっぱり行き成りお触りは地雷行為である気しかしなくなってきた。壁にドンってする奴に切り替えるか?だが、あれの良さがサッパリ分からない。
やられた精霊の女の子がトキメイてたけど何あれ。イケメンにしか許されないムーブなのでは?
「「あっ」」
そうモヤっていると偶然の遭遇。マルス君、ナタリアちゃんカップルと出くわしてしまった。でたなリア獣。だが、男子三日合わざればなんとやら。
あの時の俺とは違う。今の俺は同じ舞台に立っているぞマルス君。
「えっと、俺何かやりましたかジークさん」
痛っ!ミリーさんにつねられてしまった。ナタリアちゃんが驚いたと目をぱちぱちして口を開く。
「ジークさんはそちらの方と」
「治療院で看護婦やってるミリーよ。今から迷宮に行く予定なの」
「あっあのぼっち王ジークさんがPTをっあっ……」
え?俺裏でそんな呼ばれ方してたの。確かにボッチだったけども。マルス君がすっとミリーさんの前に立った。
「すいません俺とどこかで会ったことありましたか?」
「あら、彼女さんがいるのにナンパ?」
「いっいえそういうわけではなくて……」
おい、止めろマルス君ミリーさんに近づくなよ。ガルルル
「悪いけど、私に覚えはないわね。さあ行きましょジーク」
「ああ、じゃあ二人ともまた」
「またですジークさん」
「あっそうだ。良かったらこれ」
思いついたので彼らにフェアリーケイブのチラシを渡す。
「これは手配書?」
違うわ。
「俺、迷宮でフェアリーケイブっつう料理店開くんだ」
「へ?迷宮に料理屋?」
「良かったらデートしにでも来てくれ。味は保証すっから。じゃあな」
呆ける二人を置いてミリーさんに追いつく。
「あの人たちも呼んだの?」
「デートスポットになればいいなって思ってるからカップルの反応も欲しくてさ。特に彼氏持ちの女の人とか」
「でも場所が30層でしょ?受付嬢にはきついんじゃないかしら」
あ……。
「それに彼氏持ちの女性の意見なら私から聞けばいいじゃない」
おっふ。赤くなってそう言ったミリーさんに俺も照れてしまった。
それから無言。ただ気まずいんじゃなくて甘酸っぱい空気。バフっとちょっと呆れたようにパトが鳴いた。
◇◇◇
「やあッ!」
バシッとミリーさんの持つ杖がコボルトの頭を叩いて昏睡させた。一般女子が放ったような攻撃だったが一撃。纏った聖魔法は魔物に対して効果抜群。
あれ?この人俺より強くね?いやいや俺だって負けてない。メルト玉を纏えば低レベなら消滅させられる。ただ魔力切れでぶっ倒れたらカッコが付かないどころじゃないので極力控えるけど。
ってわけでパトを連れてきてよかった訳だが……。
「わふっわふっわふうううう」
パト無双。どうやったのか分からんレベルで敵をなぎ倒してゆく。強すぎ。
「凄いじゃない!パト」
そして俺の活躍の場が彼に奪われる形。いや、これでいい。この間に俺は予習だ。肩を抱くのはハードルが高すぎた。
”じゃあ次、僕の彼女ルンルンにねじポケとNHK仕掛けていきたいと思います。NHKっていうのは二の腕とって本気でキスって略らしいです。じゃ、まずはねじポケからやってきます。手貸してルンルン”
”もー何よマー君。絶対何かやってるでしょ”
女の子の手をとって繋いだままポッケにイン。これならできる。まだ俺にもできると握る拳に力を込める。そして男の精霊はクイっと二の腕を引き──
”キャッ”
そのまま抱き寄せキスした。何度見ても嘘だろと言いたい。これがリア獣、プレイボーイと呼ばれし者達の動き。男性の皆さまこのムーブを自然にできますか?コイツらは凄いのだ。平然とこんなことをやってのけるのだ。こいつが勇者だろ。
しかし、長い。女の子も満更じゃないのかチュッチュっチュッチュしてる。こんなの載せていいのか精霊界。予め見た時は限界で消していたがまさかこんなにイチャついていたとは。つい、見入ってしまい。
「ねえ、ジーク。とりあえずデート中の余所見は女子受け最悪ってことだけ学びましょうか」
目のハイライトが消えたミリーさん。これは完全にやらかした。
20層、セーフルームにて正座する俺とその前に立つミリーさん。彼女の手には銀の板が握られていて俺が何に現を抜かしていたかのチェック中。
正座は自主的である。
「貴方この魔道具の中毒になってない?はい、何でこんな動画見ていたか説明!」
「でっデートに自信が無かったのでモテムーブの確認を」
「それで女の子から嫌われる行動してたら本末転倒じゃない」
おっしゃる通りです。
「ホント貴方って頭ボブゴブリンなんだから。はい」
「え?」
真っ赤になって手を差し出してくるミリーさん。
「私、ガツガツ来られるの苦手だけど繋ぐくらいなら良いわよ。というかあれ結構経ったカップルよ絶対。参考するものがおかしいのよ貴方って」
夢の恋人繋ぎに心臓が跳ねる。迷宮で何やってんだって批判が来ようがどうだっていい。この幸せを嚙み締めよう。
いいか?男性諸君、ガツガツ言ったら嫌われるんだ。俺から送れるアドバイスだ。
浮かれたまま30層突破。幸せな時間が溶けるように終わった。しかし、恋人繋ぎを行いレベルアップしたこの俺なら次は肩を抱き、NHK(二の腕とって本気でキス)……うん、無理。
「凄い、これ本当に貴方が作ったの?」
「フェアリーケイブの中見たらもっと驚くぞ」
持ち店と最高の料理でミリーさんの心を射抜くっと俺は開け開き、茶を啜って寛ぐパーネ婆さんの姿にそっ閉じした。
「どうしたのよ?」
「ミリーさんちょっとタイム。軽く片付けさせてくれ」
まるでHな本が見つかりそうな高校生が如く、さっと入った俺はか細い声で叫んだ。
「何やってんだよ婆さん。今日だけは来るなって手紙書いただろ!?」
「ふっあんまり駄目じゃ駄目じゃとお主が言うもんだからフリかと思うたんじゃ」
「笑わせる相手がいねえだろ。笑えねえよ。兎に角、今日は帰ってくれ婆」
「紅茶入れたてたとこなのにのう」
「自宅の教会でも飲めるだろ。ほらっ早く立って」
「あれ?お祖母ちゃんじゃない」
「うおおおミリーさん。違うんだ。婆に見えるだろ?こう見えて精霊って……ん?お祖母ちゃん?」
何……だとっ。
「おおミリーや。やはりわしの孫、可愛いのう。ほれ抱っこしてやろう」
「もう辞めてよお祖母ちゃん、私の事幾つだと思ってるよ。それに毎朝顔突き合わせてるでしょうに」
ありえん。全然似てないぞ。だが、これはいけない。
「お婆様、紅茶に合うクッキーでございます」
「うむ、ご苦労。苦しゅうないぞ。レアドロップの小僧っこ」
ぐぬぬ。
「待ってよどうしてお祖母ちゃんがジークの店にいるのよ」
俺が聞きたいよ。
「何じゃ聞いておらんかったのか。この男が引退するわしを気遣ってここに店を出すことを進めてくれたんじゃ。教会の孤児たちを喰わせるためには稼がねばならんからの。足りない分は俺が出すとまで言い切って」
言ってませんけど!捏造反対!オンミョウジ
「そう、だから貴方急にお店を出すって言ったのね。正直、見栄のためかなって思ってたけど貴方のこと誤解してた。ごめんなさいジーク」
「俺が黙ってたんだ。ミリーさんが謝ることはないさ。彼らを見てほっとけなくなってさ」
一回も会った事ないですけど、まあ子供好きだからいいんだが。パーネ婆さんが俺へ向けてスッと杖を出してきたと思ったら俺の首を引っかけて引っ張ってきた。
「うおっ」
無理やり俺を寄せて婆さんがひそひそと話す。
「確かにひ孫の顔を見たいとゆったがのう。そう簡単に孫娘をくれてやると言った覚えはないわ」
「婆さん、さては全部知った上での計算ずくだな」
「わしは鑑定士じゃぞ。全てお見通しじゃ。覚えておけ、凄腕は思考すら読むとな。というわけじゃ、これからよろしくのう婿殿」
「ぐっ」
「ねえ、お祖母ちゃんとジークってどういう知り合いなのよ。何か仲良くない?」
「行き倒れておったのをわしが拾ったんじゃ」
「嘘つくなよ。ちょっと奢ってくれただけだろ」
「どこぞの男と知らぬ奴に奢る奴は聖人君子たるわしくらいじゃぞ」
「よく言う。それをネタに扱き使った癖して」
「ちょっと二人とも喧嘩しないでよ」
折角のデートが祖母参加の食事会になってしまったが、悔しいが楽しかった。そういえば俺の田舎の両親はどう過ごしているだろうか。
この店が軌道に乗ったら招待するのもいいかも知れない。ミリーさんを射止めるためにも頑張らないとだ。




