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動画20 マールンチャンネル 乙女ゲーム再現ドッキリ 前編

「おっとっと」


 巨大鏡から飛び出した俺は着地が決まらず何とか踏ん張る。初めての転移、何か変な感じだ。これがパーネ婆さん持参の魔道具『転移鏡』。


 独りでに光輝きエルザとその彼女にお姫様抱っこされたパーネ婆さんが現れる。俺の時もこんな感じだったんだろう。


 しかし、これはまたとんでもないものを隠し持ってる婆さんである。


「ふいーこれで繋がったの。これでここからフェアリーケイブにいつでも飛べるわい。しかし、魔力をもってかれてしもうた。わしも年じゃの」


「パーネ様は現役ですよ。魔道鏡を動かせるものなど上層部の者でもそういませんから」


「わしはもう引退した身。エルザよこの事は内密じゃぞ?力があると知れば虫が寄ってくるからの」


 エルザさんがコクっと頷いたのを見てから俺は聞きたかった事を開く。


「婆さん、教会の偉いさんだったんだな」


 まぁ、流石にエルザさんを(あご)で使ってる時点で察していたけど。転移した場所も街にある離れの教会だった。


「なんじゃ、分かっておらんかったのか。出会った時からてっきり気づいておるものじゃと思うておったぞ。鑑定は教会の者しか使えんスキルじゃからの」


 あ、そうなの。それは知らなんだ。


「ジーク、引退した者がギルドとの契約で鑑定所に回る決まりになっているのだ」


 成程ーっと感心する俺に向ってパーネ婆さんが投げつけたものをキャッチする。広げて見るとブロ―チだった。


「それが鍵じゃ。自由に出入りできるようになる」


「本当にいいのか?こんなの貰っちまって」


「場所代のようなものじゃ。店を開いた時、わしも小物を売らせて貰う。それで老後も安泰(あんたい)じゃ」


「構わねえけど、客こなくても恨み節なしだぞ。割と怪しいからな」


「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞジーク。あの味ならば人は来るだろう。信じられん料理の数々。冒険者達が(こぞ)って駆けこむのが目に浮かぶ。迷宮店というのもいい。冒険者というのはランクだの装備だのと下らないマウントを取るのが好きな生き物だからな」


「あんま人が来るとそれはそれで楽出来ねえんだがな」


「変わった男だお前は」


 じっと見つめ合い、俺はペコっと頭を下げた。


「ごめんエルザさん、俺彼女いるから」


「だから違うと言ってるだろ。いい加減しばくぞ」


 たった一回の迷宮潜りだったが、ちょっとだけ彼女とは打ち解けた気がする。


「ではパーネ様、私はこれで。ジーク殿、もしかすると主人を連れて行くことになるかも知れない。その時はよろしく頼む」


「ああ、店空いてる日や時間は婆さんに確認とって貰ったら分かると思う。後、これ持って行ってくれ」


 そういってビラを渡すと無言になった。さっき高速で4人揃ったオンミョウビラを作り上げたのだ。クオリティーに言葉もでないようだ。


「一応……頂いておこう」


 感触よし!このビラで行こう。


「コラ!小僧!そんなもの勝手に教会に張るでないわ!ええい何枚張る気じゃ」


 そして、遂に決戦の日がやってくる。フェアリーケイブオープン前日、ミリーさんとのデート日。


 6回目の歯磨き、クリーンにクリーンを重ね掛け、匂いは一切消し去った。髪も整えて完璧な仕上がり。


「落ち着けジーク。大丈夫、大切なのは自然体だ」


 まだ時間はある。予習しておくべきだと銀の板を手に取った。俺はある動画を恋のバイブルにしていた。


 ”世界の裏からまーるんるんー。ルンルンとマー君のマールンチャンネル♪”


 それはカップル動画。終始イチャイチャしてたから間違いない。もしミリーさんという彼女がいなかったら俺は発狂していたことだろう。


 言葉が分からないながらこれは女の子の落とし方、プレイボーイへと至る道を教え解くものだと理解した。


 ”今日やっていきたいのはこちら!デート中、乙女ゲームのイケメンキャラ行動をやって見たらルンルンはどんな反応をするのかドッキリっ”


 パチパチパチパチっと叩く男の精霊にゴクッと喉を鳴らす。何度も見てるからどうなるか知ってる。デート中、男が女の子の肩に手を……回したぁあああ。


 ”え?マー君?何!”


 戸惑う彼女。それでも真顔の少年は動じることなく抱き続け、女の子は照れたようにそっと体を預けた。裏山けしからんっ。


 ハードルが高え、難度G。できるのかこの動きが俺に。


 初デートなのに攻め過ぎと思う奴もいるだろう。


 ノンノン、ノノン、ノン、ノノン。死亡率が高く、恋愛ごとが盛ん。肉食獣多きこの世界、攻めなければつまらない男と断じられる可能性が高い。


 それに知っているか?男子諸君。草食的紳士的振る舞いがいつも賞賛されるとは限らない。そんな奴が急にライオンになるよりは初めからライオンの方が良かったという女の子だっているのだ。


 この日まで草食紳士で失敗し続けた男ジーク。だから今日、俺はライオンさんになるのだ。そしてあわよくば……卒業する


 ”キャっ”


 動画の精霊と呼応するように俺は壁をドンっと打った。そして想定したミリーさんの顔をクイっと上げ


 ”奪うぜ 唇”


「ウバウヨ クチバシ」


 よし完璧。時間だ。


「パト来てくれ」


 迷ったが迷宮デートなのでパトも呼ぶ。


「キーお前しかいない。留守番を頼む」


「キー……」


 ぎゅっと抱きしめフェアリーケイブの守りをミニ蝙蝠(こうもり)に任せて俺は戦場へ行く。きっと長い日となるだろう。


 ◇◇◇


「お待たせジーク、あれ?貴方パトも連れてくの?」


 広場で待っている俺の元にやってきた治療士の服装となったミリーさん。その似合いっぷりに思わず呆けてしまった。


「ねえ、聞いてる?」


 いかん、動画見て練ってたプランが全部吹き飛んだ。パトをよこして正解だ。耐えられない。


「え?あっーとデュオで迷宮だろ?流石に危ないからいたら安全かなって、やっぱ駄目か?」


「そんなことないけど、今日披露してくれるっていう貴方のお店まで行くんでしょ?パトが大丈夫かなって話を」


「それなら無問題。30層くらいなら一人で行けるレベルで強えから。そうだよな。パト」


「バフっ」


 まるで言葉を理解しているように自慢げに胸を張るパトの頭を撫でて俺も平常心を取り戻す。ミリーさんの可愛さが想像を超えてきた。危ない危ない。


「ねえ、それって本当にマナガルムなの?こんなに大きかったかしら」


「ちょっとでけえけどマナガルムだって。前のテイマーが優秀ですげえ鍛えてくれたみたいなんだ。なーそうだよなー」


「ワフっ」


「人の言葉分かってるくらい賢い気もするけど……まあいいわ。早速行きましょ。はー久しぶりの迷宮に入れるって私ずっとワクワクしてたんだから」


 彼女の後を追う俺。おい、これどのタイミングでどうやって肩抱くんだこれ。あの陽キャ精霊凄すぎだろっ。


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