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何枚も上手のパーネ婆さんと女騎士との気づかぬ再会 後編

「ぐぎゃあ」


 お決まりのやられ文句と共にエルザさんの剣を受けた魔物が消滅し泡となって消えた。彼女はルゼリア教会の聖騎士らしくその肩書通り強かった。A級らしいのでC級の俺など邪魔だろう。


 しかし、確かにあの動きどっかで見たような?ビっと剣を払ってエルザさんは俺を見た。


「お前は戦わないのだな」


「ん?ああ、俺はいいや。後ろ守ってるよ。疲れたっていうなら変わるけど」


「この程度の敵で疲労するものか。しかし、代わった男だな。冒険者と言えば大抵が戦闘好きかと思っていたが」


「俺、頭打ちだからな。戦ったところで経験値は入らなくて強くならねえし。ソロだから怪我したら終わるし」


 後、ルーティーンで日課と化したため普通にオクトパの迷宮に飽きた。前回のようなプチスタンピードが起こったりするけどあんなの稀だし。


 ドロップ品はくれるというので有難く俺は拾い係になる。儲け、儲け。


「しかし、こういう時に限ってレアドロップがよく落ちる」


「分割しようか?」


「いや、構わない。もっと上の敵、装備が落ちれば魔物と闘う部下が傷つかないで済むと思っただけだ」


 ふむ、俺のレアドロップアップは別に立ってるだけで周囲に作用するし悪い人じゃなさそうなので協力してやってもいいが……。


 そんな事を考えているとクイックイっとパーネ婆さんに裾を引っ張られた。


「なんだよ婆さん」


「大方、女子にいいところ見せてやろうとか考えておるんじゃろうが辞めておけ」


 ぐっエスパーか何かですか婆さん。


「エルザはいい奴じゃ。借りを与えれば必ず返す。だが、奴の所属する団体はそうとは限らん。大きな力をその個人で抱える者は振舞い方を考えねばならんのじゃ。でなければ引きずり込まれる」


「何に?」


「人の悪心(あくしん)にじゃよ」


 大袈裟(おおげさ)じゃね?レアドロップ効果は低級なんだが。上級モンスターには(すずめ)の涙程度しか作用しない。まぁ婆さんの言う通りこき使われる流れになってもおかしくないけど。そんな深刻な顔しなくてもと思うのだが。


 ただ伊達に長生きしていない。忠告は聞いておこう。


 ◇◇◇


「ちょっと休憩させておくれ」


 俺が出る間もなく、エルザさん一人で20層を突破。そこでパーネ婆さんが遂に息切れした。正直、年齢を考えれば凄いことだ。動ける婆、見直した。


「大丈夫ですか、パーネ様」


「平気さ。少し休めば動けるよ」


「なあ婆さん、やっぱ無理ねえか?もし何かあったら30層から降りなきゃならねえ」


 あれ?でも、それって俺も薬切れたらヤバくね?どうしよ……。とりま、カッコ悪いから黙ってよ。


「心配無用じゃ。お主が運んでる荷に転移の魔道具があるからの。いつでも、わしの家の庭から行き来できるようになる。わしでなきゃ設置できぬからの」


 スッと俺は屈んで真摯(しんし)な目を婆に向ける。


「パーネお婆様肩おもみしましょうか」


「現金な奴じゃの。心配せんでも使わせてやる。場所代としての。ほれ、一人にしておくれ。喋るといつまで経っても気力が戻らないからね」


 仕方なく離れているとエルゼさんがやってきた。はぁ、早く独りになって俺は銀の板を見たい。俺も変わってしまった。


「少しいいか?冒険者ジーク殿」


「アンタの方が等級も身分も上なんだ。ジークで構わない」


「そうか、ならジーク。やはりお前もハーレムを求めるのか」


 ごふっ!丁度水飲んだから器官に入った。何だその質問。


「ごほっちょっと待て!どこをどう見てそうなった」


 彼女は応えず俺の隣に座る。


「私にはお仕えする方がいる。その方は英雄様の傍付(そばづ)きになったわけだが、女癖が悪く既に何人もはべらせ、だというのに私の主に色目(いろめ)を使っているのだ」


 それはまたライエルみたいな奴だな。裏山(うらやま)けしからん。


「男とはそういうものなのか?私は分からなくなった」


 すっげえ困る事聞いてくるな。


「全部が全部じゃねえけど、割と男はアホだから一度は夢見たりはするんじゃねえかな。ただ、実際ハーレムに手を出す奴は特殊っていうか。極一部だと思うけど」


「何故だ?」


「高確率で駄目になるだろ?自分の時間無くなるし、未来想像するだけでゾッとするよ。付き合ったこともねえんじゃねえかな」


 童貞が語ってますが何か?付き合ったの小さい頃に一回だけだが何か?


「詳しいな」


「そういう奴が知り合いにいるんだよ俺にも」


 ライエルの横にいて正直始めは(うらや)ましいとは思った。でも彼が女の機嫌取りにひたすら奔走(ほんそう)する姿を見て段々とその気持ちは薄れた。


 あれは仮に女の仲を(まと)められたとて自由時間が消滅する。もう人生、女くらいじゃないと耐えれないだろ。


 少なくともこの俺、ジークには一人の女に集中しないと秒で愛想尽かされる自信がある。後、自分の時間が欲しい。


「どういう状況か知らんけど、実際ハーレム築く男はもう癖っつうか。そういう奴なんだよ。それでも好きっつうなら他人が出る幕じゃねえけど」


 ってかどういう話だっけ。自分でも何喋ってるか分からんくなってきた。つうかこの人結局何聞きたかったんだ?エルザさんと目が合った。ドキッ!いや、ダメダメ。俺にはミリーさんがいるのだから。


「お前のような男が英雄殿であったら良かったのにな」


「俺、超弩級(ちょうどきゅう)の凡人だぞ。仮に力あっても賞賛(しょうさん)されるの御免(ごめん)だし、注目されずに家でゴロゴロしたい派だわ」


 名誉欲っていうの?ゼロとは言わねえけどそんなにねーから俺。イダッ!パーネ婆さんに杖で殴られた。普通に会話に入ってこれねえのかこの婆さん。


「童貞が何偉そうに男を語っておる」


「言っとくが近く卒業するからな。そうやって揶揄(からか)えるのも今だけだぞ婆」


「デリカシーがない奴と詰りたいところじゃが、わしもひ孫の顔は見たいからのう。今回ばかりは許してやるかの」


「ひ孫?何言ってんだ」


 遂にボケたか婆さん。


「ほれ、早く行くぞ」


 元気なパーネ婆さんに従って俺達は30層、フェアリーケイブに到着した。


「パーネ様の言葉を信じていなかったわけではないですが、本当にこんな場所に店が……」


 ここからは俺の案内だ。作ったはいいが見せる人がいなかったのでちょっと反応がワクワク。


「っ」


 開け開いた光景に二人が絶句。想像以上に驚いてるようで嬉しい。


「……大したものじゃ」


「っ!?何だこれは」


「まだ完成じゃねえけど結構頑張ったんだ。すげえだろ」


「凄い何てものでは……いや待て!迷宮の壁を掘っていないか?」


 ヤッベ。やっぱ色塗って迷宮の壁ってバレないようにしねえとか。


「あー俺が来た時には空いてたんだよ。誰やったんだろうなハハハ」


「ぷはっほれ言うたであろう。こやつは頭のネジが外れておるんじゃ」


「そのようで……」


 ん?誤魔化せてない?無理?国から怒られるやつ?


「ほれ、小僧よ料理は出せるのか。わしは腹ペコじゃぞ」


「いいけど材料代くらいは払ってくれよ婆さん。あっ今更だけど一応いらっしゃいませ。これが迷宮料理店フェアリーケイブだ。まっ改装途中だけど二人ともゆっくりしてってくれ」


 自分の城を披露してちょっと鼻高々な俺である。うん、作って良かった。まだ開店してねえけど


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