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何枚も上手のパーネ婆さんと女騎士との気づかぬ再会 前編

 魔物が出ない、入ってこないとされるセーフティールームとはいえ、普通に爆睡してしまった。動画見まくって夜更かししてたのが原因だ。


 パトがいるとはいえ不用心が過ぎるか。


「鍵付けるか、変なのに来られても困るし」


 俺が変なのってツッコミはなしだ。しかし、迷い込んできた奴とか言ってたがマジで人がこず閑古鳥になりそうだ。店を開くなら宣伝を考えなければ……


 コンコンコンっとノック音が聞こえた。入口の木製壁所に人が来たようだ。魔力探知で見る限り4人。でも、子供か?30層に?


 警戒しつつ扉を開くとそれなりの装備を整えた少年少女が立っていた。リーダーであろう先頭の少年が呼んだくせに呆気にとられた顔をする。


「うわっ本当にいた」


 何だそのちょっとヤバい奴みたいな反応は。


「ちょっと失礼だよレイン君、世の中モノ好きな人っているんだから」


 隣の少女がサポートに入ったがそのフォローも失礼だからね。


「何だよお前ら迷ったのか?」


「あっいえ、俺達は『ジオの盃』ってPTで依頼を果たしにここに来ました」


「依頼?」


 これをっとレイン少年が手紙を渡してくれる。というかこれも依頼書だ。


「えっと、冒険者ジークへの指名依頼。迷宮30層まで無料で鑑定士パーネを送り届けること。依頼人パーネ」


 何だこれ。この場で破り捨てていいだろうか。


「それを届けることが俺達への依頼だったんです」


「成程な。よく30層まで来れたな」


「はん、馬鹿言うんじゃねえ。俺らは40層に挑戦する予定なんだぞ」


 後ろにいたヤンチャの少年がドヤるが理解できる。この年でここに来るだけでも相当凄い。俺なんて5層でヒーヒー言ってたと思うのでかなりのエリートだ。


 全く下から抜かされまくって嫌になる。


「それでなんですが、依頼料の方を頂けると」


 申し訳なさそうにレイン君が言う。


「は?」


 着払いの依頼ってありかよ。が、彼らには罪は無いので仕方ないとアイテムボックスから財布を取り出して支払いを行う。


「アイテムボックス持ちですか」


「珍しくても大したスキルじゃないさ。その年でここの40層に行けるなら直ぐにマジックバックにも手届くだろ。ほれ依頼料とサインだ」


「有り難うございます」


「あっお前らオクトパの迷宮これからも潜るなら妖精料理店、フェアリーケイブをよろしくな。もうちょいで開店予定だから」


「え?飲食って迷宮でですか?」


「そうだぞ。ここがそのお店だからな」


「二大変人の噂本当だったんだ……」


 ん?今、少女がボソったけど何か言った?まあいいやっと昨日作ったビラをレイン君に手渡す。


「これビラだから良かったら知り合いに()いてくれ。味は最高って保障すっから」


「え?あっはい!気が向いたら行きます。じゃあ俺達はこれで!皆行くぞ」


 うん、絶対来ないやつ。


「やっぱこのビラは駄目か」


 昨日のオンミョウドアップ写真を利用したビラ。歌って踊れる精霊いますっと謳い文句足したが若者にはウケが悪いようだ。こんなにカッコいいのに。


「四人揃わねえとだな」


 自分で言うのも何だが俺ジークのセンスは神懸(かみが)かっている。


 ◇◇◇


 パトとキーはお留守番したいということで一人でパーネ婆さんの元へ向かう。鑑定所前に辿り着けばマジで住む気じゃないだろうなっとツッコミたくなる巨大風呂敷とそれを見張る美麗な女騎士がいた。素通りしようとすると止められる。


「待った、お前がジークという冒険者か」


 綺麗な女性だが恋に一途な男の俺は惑わされることはない。ナタリアちゃんのことは忘れ俺はミリーさん一択の男。


「悪いがナンパなら間に合ってる」


「きっ騎士がナンパなどするか!この馬鹿者めっ」


 だったら何だと目で問えばオホンと赤面して咳をうった。可愛……いや駄目だ。俺にはミリーさんがいるのだ。ときめくな俺の中の男よ。鎮まれ。


「パーネ様から護衛を頼まれたルゼリア教会の騎士エルザだ。パーネ様から凡顔の冒険者が同行するという話を聞いている」


 凡顔言うな。ってかパーネ様?あの婆さんを様付け?この女、さてはあの婆さんから金を借りたな。


「ん?お前……どこかであったか?」


「すまない、俺にはお付き合いしている女性がいるんだ」


「だからそういうのじゃないって言っているだろ!何なんだこの男は」


「イッヒッヒ、エルザよその男と真面に会話してはいけないよ。常識から外れているからね」


「でたな婆、失敬な」


「そのままそっくりお返しするわい」


「なっパーネ様に何て口を」


「ほら、無駄話をしてる場合じゃないわい。小僧よ、これ持って貰ってよいかの」


 顎で荷を示す婆さんに仕方がないと溜息をつく。


「しゃあねえな、収納」


「なっ!?」


「それ行くぞ。ワクワクするのう」


「なぁ、住むとかは絶対無しだぞ?」


「分かっておるお主との二人暮らしなど虫唾(むしず)が走るわ」


「こっちの台詞だからなそれ」


「ちょっちょっと待て」


 二人で進もうとすると呼び止められた。


「今!どうやったのだ」


「どうってスキルのアイテムボックスだよ」


「馬鹿を言え!あれにそんな容量があるものか!」


「使ってたら増えてくんだって。普通だぞ普通」


 知らんけど。一杯入るから何だって話だし。


「そうじゃフツーじゃフツー。ほれ、行くぞ。エルザよお主には高い依頼料を払っておるんじゃ。わしの護衛。しっかり頼むぞ」


「え?あっはい!お任せを……ですが気になると言いますか。しかし騎士として任務に集中すべきなのか?」


 自問しだしたエルザさんを置いてクイクイっと婆さんの服を引っ張る。


「何じゃレアドロップの小僧っこ」


「俺、依頼料貰ってないどころか金払わされたんだが」


 ちょいちょいっとわしに寄れとパーネ婆さんが手で示してきたので屈むと耳打ちしてきた。


「ハーレムじゃぞ。雄なら金払ってでも味わいたいじゃろ。一生涯ないことぞ」


「ハーレムって半分婆っいっだ!?」


「ほれ行くぞ。小僧っこ」


 全く元気な婆さんだと俺は彼らの後を追った。


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