動画19 ”屋久島『白水峡』4K sound nature”
朝、寝不足の目を擦る。昨日は荒れるパトを諫めるのに大変だった。徹夜で寝床を作ってやったら収まってくれたがやれやれだ。
誰かに荒らされるのは時間の問題と思ってた。というよりこんなにこのキャンプをだらっと続ける予定じゃなかったのだ。
従魔の証を得るお金を料理屋フェアリーケイブにぶち込んだのが原因。ただ、俺としても街で暮らさない事にメリットができてしまったのも理由にある。
全てはこの銀の板。
伝説級なのでそう人様の前で見せびらかしていい道具ではないが、ほとんどの人に見せられないため周囲から見れば板を見てニヤケテいる変態男にしか見えない。
この世界での宿は寝泊まりでしか利用できず日中は追い出されてしまうので町だと人の目があって使えないのだ。
そのちょっとした時間も我慢できないほど中毒になりつつある。こいつがないと生きていけない。動画サーフィンとでもいえばいいか。一生見てられる。
「あー面白」
パトを撫でながら鑑賞。しかし、精霊たちの活動っぷりはちょっと羨ましく思えるほどだ。この精霊界には娯楽というものが溢れている。
そういった趣味のようなものを全力で楽しんでるものが多い。こっちではコロシアムだったり戦闘だったり命のやり取りばかりで碌なものがない。
「エンタメか」
こっちの世界で取り入れられないだろうか。玉蹴りとか玉入れとか、ルールが複雑そうなのは難しいが玉蹴りとかなら何とか流行らせられそうな気も。
「キー」
バサバサと羽ばたいてキーがやってきた。
「お前どこ行ってたんだよ」
キーはパトぶち切れから事件からどこかへ飛び立ってしまい。ぶっちゃけ野生に帰ったと思っていたが帰ってきた。
スタっと着地すると体を振ってヨタヨタと歩きパトの前で土下座した。それを見てパトが鼻を鳴らす。
「おい、何かわかんねえけど古参だからってキーを虐めたら駄目だぞパト」
「バフッ」
伝わったか分からないが頭を撫でてやる。窺うように近づいてきたキーも指で頭わしゃわしゃ。何か完全に懐かれてしまった。
「面倒だけど、拠点移すかー。さっさとフェアリーケイブ作ってお引越しだな。冒険者は荒くれ多いから壊されねえように収納しやすい造りにして。30層手前だから出入り面倒なのがネックだよな」
どうにかならないものか。まあアイテムボックスあるから食料買い込めばやっていけはする。トイレは専用の魔道具を購入する予定だが、もしかしたらフィットネスカリバーのように精霊産のトイレを密かに買えないかと狙ってたりする。
「よし、もう一本見たら行こう」
もう俺は銀の板のない生活に戻れない。この魔道具、末恐ろしい中毒性である。
◇◇◇
時間を掛けて30層。ちょっとだけ怪我をしてしまったが大事無くて良かった。これが冒険に支障があるレベルだと大変なことになる。やっぱソロだと30層はきつい。パトとキーがいなかったらヤバかった。
迷宮ではかなりの冒険者が潜ってるはずだが、こっちは誰も踏み入った様子が無くてホッとする。皆、地図を持っているものだし、やっぱり態々行き止まりに来る者はいないようだ。
「ふむ」
壁に空いた大穴を見る。動画見たノリで掘ってしまったわけだが一日置いて考えたら土地は借りたが迷宮は王家の所有物である。
やってしまったものは仕方がない。気持ち隠そうと入口を木製の壁で仕切ってしまう。張りぼてだがまあいいだろ。
ゴロゴロしてるパトとキーを尻目に動画を見ながら作業に没頭する。メルト球を纏わせたスコップでカウンターと棚を作り出した。流石地味作業を得意とする俺、我ながら最高のものが出来上がった。
まぁ精霊界という参考できる資料があるお陰だけど。内装を色んな動画から拝借してくみ上げてゆく。フェアリーケイブというからには可能な限り精霊界を再現したいのだ。
「奥の、カウンター辺りのランプはオレンジかな」
魔力で動く魔晄ランプを使用。魔法使いなので動力はタダ。奥はオレンジで雰囲気を出しつつ、手前は森をイメージ。迷宮の壁は殺風景なので、できれば変えたい。
「いっそ絵でも書いて」
いや、辞めて置こう。素人が手を出すと悲惨なものになる。そういえばと銀の板を手に取る。ミリーさんが弄った結果、飛び出すオンミョウが出てきたわけだけど、もしかしてまだ機能があったりするのではと。
よく観察してみれば枠の下にマークがついてる。唯の模様だと思っていたが
「ボタンなのか?」
丁度、オンミョウドアップ動画。適当にポチポチ押してみるとパラっと紙が銀の板から排出された。
「おおお」
オンミョウの胡散臭い顔ドアップ写真。要らないが記念に貼っておこう。森の動画を探す。”屋久島『白水峡』4K sound nature”
精霊語で書かれたこれがカッコイイとタップ。美しく神話的な森が広がっている。また写真を出してみるが流石にちっさい。なので対応する魔道具を使う。
取り出したのは『ダイアルアップ』という拡大器。丸いダイヤルで薄いものなら何でも大きくしてしまう魔道具。ただ魔力を使った幻影で、そのものを大きくしてるわけじゃない。
それらを壁紙にして自然を演出。実際に木や草、造花を飾って庭を作って洞から繋げたウッドデッキから望めるようにする。
「完璧だな」
基礎工事が終了。ここから細々と仕上げてゆく。ずっと暮らすのは流石に息が詰まりそうだが、荒らされたし緊急避難的にカウンター側に部屋を設けて家具を詰めこんた。トイレは取り敢えず穴を開けた簡易的なもの。
クリーンが使えるので衛生面での問題はない。ただ見た目的にあれなので早く購入しないとだ。
早速、俺の部屋で縄張りをつくって寛ぎだすパトとキー。
「何かいよいよ冒険者じゃ無くなってきたな」
俺も休憩とベットにダイブして銀の板を眺める。
「あーマジ最高だ」
巷の男子が憧れる英雄道より俺、ジークはやっぱりこっち派なのである。




