動画03 世界名作劇場 〇ダースのわんこ
便座に座って、ゴンっと扉に頭を打った。気張ってるわけじゃない。もうスライム食中毒から快方し、快便だった。開幕汚くてすまない。出れないのは精神的理由。ギルドのトイレに籠る俺。怖いのだ、依頼を取りに並ぶのが。
一体どんな目で見られるのか。初めてボス部屋に入る時ですらこんなに緊張しなかった。特にナタリアさん。彼女にどんな顔であえばいいのか。
「ハァ……」
それもこれもあの呪いの板のせいだ。このまま流してやろうか。キっと睨みつけると光り輝く板。ほら見ろこいつは悪魔なのだ。誰が見……
なんだ?これまでと違う。絵が動いている。
「紙芝居みたいなもんか?」
地元の田舎で見たことがある。恐らくこれはそれの超進化版と判断。後ろに人がいて超高速で何枚も絵を捲り上げているのだろう。凄腕の紙芝居士だ。
「おい、虐待だろ!」
餓鬼が犬に荷台を引かせている。俺は犬好きだ。絶対に許せられない。気づけば俺は夢中になっていた。一話、二話とのめり込み気づけば時間を忘れ、言葉が分からないながらも彼らの物語に夢中になっていた。
◇◇◇
「ぐぅうっぐっくぅ……あんまりだろうがっ!!」
怒りに震えトイレの壁を叩いてしまった。餓鬼が死んだ。犬と共に天に昇っていったのだ。言葉はわからなかったが何て悲しい物語なのか。
「まさかこの年で本気で慟哭することになるとはな」
ふっ何だか人の目を気にして怯えていたのが馬鹿らしくなった。そうだ、人間いつおっちぬかわからねえ。いいじゃねえか少し小ばかにされるくらい。
俺冒険者で成功したら犬飼うんだ。
「ふっ勇気貰ったぜ餓鬼。犬公、あばよ」
ガチャっと扉を開いて外に出る。あれ?真っ暗で誰もいない?
「アンター何しとるだがや」
声に振り返れば掃除のおばちゃん。え?もしかしてメッチャ時間たってる?
「もうとーくにギルド営業時間は終わっとるだがや」
「あーこれはすっすいません。今すぐ出ます」
俺が離れようとした瞬間、ハッとしたおばちゃんの手が俺を掴んだ。
「アンタ……仲間を亡くしたんだがや」
「いや」
「えーえー嘘言わんでええ。大の男がそれ以外で泣くかいな」
ぐっ……これは説明できん。
「全滅か?僧侶かい?魔導士かい?恋人かい?」
おばはんメッチャ聞いてくるやん。帰りたいんだけど全力で掴んでくる。仕方がないここは適当に誤魔化すか。
「えっと実は死んだのは犬で」
「犬?あーアンタ、テイマーさんだがや。!待ってな、ちょうどいいだがや」
何でこうなる。丁度いいって何?嫌な予感しかしないんだが。有無を言わさずズダダダっと奥へ行ってしまった。スッと何食わぬ顔でギルドから出たいところだがそんなことをすれば事務員からの評判まで下がってしまうだろう。
仕方なく待っているとおばはんが犬の魔物マナガルムと思われるやつを引きづってきた。F級の雑魚モンスター。何か流れ分かった気がする。やっぱあの板は呪われてるに違いない。
人に懐いていないようでおばはんめっさ足噛まれてるし、何が何でも断固拒否だ。
「ちょうどマスターを亡くした子がいたがや」
「いや、態々持ってきて貰ったところ悪いんだが俺はテイマーじゃなくて」
「ありゃ?勘違いだがや。じゃあ、こいつは殺処分だがや」
「え?」
そうか、殺されてしまうのか。そう思ってマナガルムを見つめると頭にあの音楽が流れ始めた。
「らんらんらーらんらんらー」
「どっどうしたんだがや急に歌い出して」
「おばちゃん、こいつ貰うよ。テイマーじゃなくてもF級の魔物なら飼えたよな」
「いいのだがや?それだと結構な金が掛か」
「いいんだ、パト行くぞ」
ボッチだった俺に仲間が出来た。名前はパト。めっちゃ足噛んでくるけど、大切にしたいと思う。