動画18 店づくり フォレスト プラクトロ
「なんだと……」
30層、フェアリーケイブ目下制作中。銀の板を使って参考になるものがないかと調べていると一から家を作りあげる動画が見つかった。
だが、そのエグさに度肝を抜かれる。
土を掘り、その泥を使って凄まじい家を男達が作り上げた。こっちの世界でホテル級のものをほぼ自然物だけで完成させてしまったのだ。
「泥か」
基本的に木造建築なので泥を固めて建築するのは盲点。ただ、一人で住むわけじゃなくお客さんが来る場所なので強度的に真似する訳にはいかないか。
その動画を見たがためのちょっとした思いつき、何となくだった。制御し、石礫ほどのメルト玉を掌に浮かべる。それを維持したまま壁に当てて見た。
「おおっ」
削れて穴が開いた。これができるなら、くり抜いてしまえばいいのだ。洞窟型建築って言えばいいのだろうか。早速スコップを取り出してそれに纏わせて一掘りしてみる。スライムみたいにボロっといけたけど……
くっそ手間掛かりそう。だが、俺は細々とした繰り返し作業が得意な男、ジーク。やり遂げてみせるとスコップっを突き入れホリホリを開始した。
キングオブ地味作業だが、銀の板があればマジで苦でも何でもない。音楽は大量に眠っているし、動画も飽きるのは不可能だろってくらい無限にある。
正直、これを無料で見ていいのかと心配になるレベル。精霊たちはやっぱり金儲けとかしないんだろうか。あっいやそういえば一回取られたか。
そういえばあの鍛えるアイテムどこやったっけ?フィットネス・カリバー。不可抗力とはいえ折角買ったのにキャンプ地のどっか埃被らせてしまってる。
あの手のグッズは買うもんじゃないな。まぁ不可抗力だったけども。それに対してこのジャガイモチップスは重宝している。軽食にいい。太るかもだが。
「ふぅ疲れた」
そこそこの穴が開いた。これを旨く削って行けば机やカウンタを生み出せるはず。
「敢えて一段高くしといてっと」
そこに段差を埋めるための板を引いてゆく。テラスみたいな感じにするのがイメージ。迷宮内だが外で食ってる気分を味わえるように演出する。自然豊かにして滝も動画からパクろう。
「如何、楽しくなってきたぞ」
凝りだすと沼だ。でも折角やるかには中途半端は嫌。休憩がてらにモンスを狩りつつ俺は作業に没頭した。
魔物をそこそこ狩ったが前回ほどの金は得られなかった。よほどの奴が紛れていたらしい。それでもナタリアちゃんにはこんなに倒したんですかと驚かれてしまったけど。パトが優秀でと適当に誤魔化しておいた。
その金を持ってパーネ婆さんの元を訪れる。ドアを開けばカラコロカラーンという鐘の音。これお店にいいな。貰おう。
「これ!馬鹿者めが!何ナチュラルに泥棒しておる」
うおっ婆、隣にいやがった。
「泥棒じゃねえ買うつもりだ」
「誰がどう見ても売り物じゃないじゃろが!この!頭空っぽ男めが」
いつもはカウンターで不動婆なのに。そういえばあのカウンター……いいな。
「コラコラコラ!何故的確に店の備品だけを付け狙うんじゃ!帰れ!冷やかしなら帰るんじゃ!」
「婆、冷やかしじゃねえ」
「何じゃと」
「俺は本気で店の備品を狙っている」
「頭イカれとるのかお主は。大体、何故冒険者の小僧が備品なんぞ購入しようとしておる?」
「店をやるんだよ。料理屋。彼女ができたから腰を落ち着けるためにも」
「考え無し猪……っと言いたいところじゃがこういう向こう見ずな奴に限って商売成功するものが出るのが嫌になるのう。よかろう、知らぬ仲というわけではない。協力してやろう」
「気のいい婆」
では、早速収……
「じゃが備品は駄目じゃ」
「え?」
「借り物なのじゃ。わしのものではない以上売ることはできん」
じゃあ協力ってどんな形で?と首を傾げる横でパーネ婆さんは遠い目をした。
「務めて早30年、いい加減この仕事も限界と思っておった」
嫌な予感がしたので離れようとしたがガっと掴まれた。力強っ。
「わしがウエイトレスとしてお主の店にいざ行かん」
「ステイ、婆。流石に店が廃れる」
「断言する。元々お主の手掛けた店など寂れておると。これは運命じゃ。雑貨屋パーネ、ちょうどここにいい感じのウエイトレスの服が」
「アンタ……まさかそれを着る気なのか。正気かっ婆」
「わしはまだまだ現役じゃ。ここに来たばかりの頃、散々助けてやったのはどこの誰だったかのう」
「ぐっ」
それを出されると言い返せない。だが、例え劣勢だろうと婆のウエイトレスだけは断固拒否する。絶対にだ。
◇◇◇
「疲れた」
今までで一番と夕方のラギア平原──近づいてきたキャンプ地にハァっと息をつく。婆のウエイトレスだけは阻止したがパーネ婆を雇うことになった。
パーネ婆さんはもう鑑定所を辞めることになっていて、代わりも既にいるらしく。ギルドは快く許可を出してきて詰んだ。
ただ、フェアリーケイブは30層にある店。通えなかったら雇えないってことはパーネ婆さんには伝えてある。俺としてはそこへ一点張り、70越えの婆さんが行ける道ではないと思いたいが意味深なあの婆の余裕顔が気に掛かる。
まさか開店前に従業員を雇うことになるとは……。いや、飲食って本来そういうものだろうけどできれば若い女の子が良かった。
まあでも婆さんには世話になったし恩を返したいとは思ってた。できれば別の形が良かったけど。正直、婆さん働かせるのはちょっと感あるし、今まで通り雑貨店でもやって貰うか。
「バフっ」
「どうした?パト」
俺の声にも止まらず駆けていったパト。お家大好きなパト、いつもこうやって直前になると走って自分のお気に入りの場所を陣取るわけだがちょっと様子が違ったように見え、俺も後を追う。ちなみにキーは大人しく俺の肩に乗ってる。
放心したように立つパト。辿りついた俺はアチャーっと顔を顰める。キャンプ地が荒らされている。魔物の手によるものではなく人の手によって。
「やられたな、酷いもんだ。盗むのは分かるが態々壊さなくてもいいのにな」
正直に言えば野晒しで放置しているので文句は言えない。貴重品、家具は全部アイテムボックスの中なのでほぼ被害はないが色々と壊され残していた飯も食われた痕があった。誰かが食ったものとか気持ち悪っ!鍋ごと捨てよっと。
「何盗られた?碌なもの無かったはずだが、あっ」
置きっぱにしていたと思う。あのフィットネス・カリバーが無くなっていた。いや、まぁいいか廃棄に金掛かるくらいのものだし。
「キィっ!?」
「それくらいだな。ん?どうしたキー。げっ」
パトがぶち切れてる。俺が作ったお気にのベットが潰れていてその前に立ち竦む背からゴゴゴゴっと黒いオーラを立ち上らせている。凄いマジでオーラが見えるほど怒髪天を衝いてる。
お前F級モンスでは?
「グルルル」
歯を剝き出しにして人様にお見せできないお顔に。
「ほーらパト、どうどうどう。また作ってやるから怒るなって。竜肉出してやる。皆で食べよう、なっキー」
「キィイ」
こっちに振るなとフリフリと首を左右に振る蝙蝠。お前絶対、人の言葉分かってるだろ。暫く俺はパトの機嫌を宥めるのに必死になったのだった。




