動画17 アクミョウ退散 陰陽師 前編
「ふわぁー」
よく寝たと欠伸を一つ入れてキャンプ地からのそっと這い出る。久しぶりに動きまくったこともあって爆睡した。ちなみにレベル鑑定した結果は36で変わらず頭打ち。どうやら上がっているというのはカーネル先生の勘違いだったようだ。
ただ薬は効いているので購入し続けるつもりだけど、何の病気かは調べて貰わなきゃならない。
俺は金貨袋を取り出すとその重みにほくそ笑んでしまう。
「マジで稼げたな」
偶然、レア度の高いドロップがあったらしくたった一回で信じられないほど大金が手に入った。これならもう店やらなくていいんじゃないって思う人もいるだろう。
だが甘い。そう考え調子に乗ったどれだけの冒険者が借金を背負う羽目になったことか。繰り返しになるが冒険者は体が資本であり、この世界では怪我は簡単に治らない。
よってもし骨折でもしようものなら治癒するまで稼ぐことはできず、入院費と生活費がかさんでいく。
また装備代も馬鹿にならない。数回戦闘すると一本は確実に手入れが必要。成り立ての頃は滅茶苦茶稼げると目を輝かせた俺も経験を経て現実を知った。
アイテムボックス持ちである俺の場合は安物の剣を大量に入れてたりして節約してたりするけど極力冒険回数は減らした方がいい。
上級冒険者と呼ばれる人たちは華やかだが、俺らみたいな中級・低級組は地味なのである。偶に潜ると楽しい迷宮も毎日行くと飽きるし。
「キー!」
「ん?何だお前まだいたのかよ」
まだ寝てるパトの横からもぞもぞと出てきたのは蝙蝠の魔物。何か懐かれたのか帰る際、ずっと俺達に付いてきたのだ。
テイムした魔物でもないので本当は倒さなくちゃいけないのだが、パトが気に入ったのか背に乗せたりするので殺すに殺せなくなった。
ちっさいし、弱そうなので放置してたけどまさか逃げずに残ってたとは。俺の肩に飛び乗ってきたので流石に警戒したがスリスリ頬を擦りつけてきた。
何か恐ろしいくらい俺に媚びてる感じがするのは気のせいか。チラッチラッ様子を覗ってくるのがどうも中間管理職のオジサンっぽい。
「いつでも出てってくれていいが、居座るつもりなら名前どうすっか」
「キー」
「よし、じゃあキーで決定」
ガクッと項垂れたがまさか人の言葉が分かるわけないし偶然だろう。テイマーしてない魔物を飼うことになるがパトがそうなので今更だ。
「お前何喰うんだ?自分で狩りはできるよな。流石にこいつは食わねえよな」
そう言って卵包みを出してやるとハグハグと貪り始めた。俺の中の蝙蝠像が潰れてしまったけど魔物だからと納得する。
彼は味に感動したのか目を潤ませて土下座した。何、この人間臭い蝙蝠。ムクっと起き上がったパトが空になった皿を見て無言の圧を俺に掛ける。
何、この人間臭い犬。やっぱり贅沢させたら味覚えてしまって駄目かも。ただ今回の稼ぎの功労者なので出してやるけども。
「おい、俺の分無くなったんだが」
兎も角、俺に新しい仲間?蝙蝠のキーが増えたのだった。魔物ばっか増えていよいよ世捨て人みたいになってきてるのはきっと気のせいであるはずだ。
風を感じる。外に出て、いや元々お外だったけど生活圏から出て俺は踊っていた。運動、プラス全てはモテる──ミリーさんを射止めるがため。
銀の板では踊る映像が割と多い。その中で一番カッコいいと思ったものを俺はマスターするためチョイスしたというわけである。選んだのは胡散臭いオッサンのドアップから始まる奴。
後に現れる面子はヘンテコだが、踊りと曲が超絶カッコいいのだ。この動き、俺が女なら確実に惚れる。
「オンミョウジ! アクミョウ タイサン アクミョウ タイサン」
意味はサッパリだがイントネーションは掴めて少しなら発音できるようになってきた。いける。今自分がカッコいいという自信が体の奥から溢れてくる。
「貴方、何やってるの……」
来たかミリーさん。最高のタイミングで俺は振り返る。
「ちょっと踊りたくなってさ。どう?」
「どうって、やっぱり頭ボブゴブリンとしか」
あれ?
期待したリアクションを貰えなかった。こいつは男女からくる感覚の違いってやつなのかも知れない。何でだ。こんなにカッコいいのに。キャンプに戻ってベットに座るミリーさんは指でトントンと銀の板をうった。
「ねえ、これって悪霊の前で踊る奴よ絶対。いえ、寧ろこの人たちが悪霊よ」
何てこと言うんだ。こんなにイケてる連中なのに。
「ミリーさん、この人たちは精霊だって。よく見て見ろよノペーっとしてるしカクカクしてる。人じゃない」
確かにと持ったミリーさんは固まった。
「ねえジーク」
「ん?」
「ごめんなさい、私変なの押しっちゃったかも。何かボタンみたいなのが」
確かにデカデカとボタンが表示されてる。”3Dホログラムモード”って書いてるけど当然読めない。まあとりま押せば分かるだろ。はて?何も起きないが。
「じっジーク……」
目を見開くミリーさん、可愛よ。ただ、様子がおかしい。カタカタと震えた指でうっ後ろと言うので振り返ると──
「うおっ!?」
心臓止まりかけた。動画の登場人物だったはずのオンミョウの精霊が目の前にすっと立っていたのだ。ミリーさんを庇い立って剣を抜く。
が、動かない?そして俺もミリーさんのおっぱいが手に当たって動けない。それでも男ジーク、一生触れていたいその感触を振り切って顔の前で手を振ってみる。
「だっ大丈夫なの?」
恐らく、というかこれもしかしてと銀の板を操作すると4人現れ踊り出した。
「キャッ!増えた!増えたわよ!」
「ミリーさん、これ映像だ。銀の板の映像がここに映ってるんだ」
言った俺も呆けてしまうほどビックらテクノロジー。
「凄すぎない?前から思ってたけど一体何なのその魔道具」
「鑑定士の話だと伝説級の代物らしいんだけど、ミリーさんそんなことより大問題だ」
俺のかつてない深刻な表情に只事ではないと彼女はゴクッと喉を鳴らした。
「何?」
「多分、これ消えなくなった」
「……」
どうしようこれ。
◇◇◇
「どう?美味いだろ。卵包んだ精霊界の料理なんだ」
「えっと、とても美味しいわ。美味しいけどジーク、貴方」
あれ無かったことにしようとしてないとスプーンで無音踊り子映像を指してきたミリーさんから俺はスッと目を逸らした。
それでも視界の端で一生踊ってるのがチラつく。カッコいいと思ったが流石に音が無いとシュール過ぎる。
静謐に満ちていた俺のキャンプ地が非常に騒がしくなってしまった。いや、音無いので静かだけど絵面的に糞五月蠅い。
俺のベットに向ってオンミョウを筆頭にした4人組が踊り続けるという構図。とりあえず、ベットの位置は変えようと思う。




