SIDE エルフ、キー、ロアード団長 壮大なる勘違い勃発
Side ヤルルとシーラ
エルフの長から勇者の見極めを任された二人、ヤルルとシーラは焦っていた。肝心の勇者がいつまでも経っても見つからないのだ。
「ねえヤルル。もう勇者はこの町にいないんじゃないかしら」
「しかしここに彼の反応がある」
ヤルルが持っているのは羅針盤のような魔道具。オークキングの遺体から勇者の魔力であろう魔力を接種し、居場所を探る手法をとった。ただ大まかな位置しかわからない。この周辺にいるのは確かだが。
「じゃあ、外に住んでるとか?」
「馬鹿な勇者だぞ。恐らく匿われてるはず。待った……反応が強い。この方向はっ!教会だ」
変装し、人の姿であるヤルルとシーラは遂に見つけたと共に頷き、ルゼリア教会に急行した。
さっと群衆の中に紛れる。丁度レベル鑑定を行おうとした人物の姿にシーラが驚嘆する。
「え!?エルフっ」
「静かにシーラ、ここは教会の目がある。しかし彼はどこの者だ?里を出た者は僕たち以外にいないはずだが」
おかしい、スンスンと鼻を鳴らしたシーラは目を瞠った。
「森の匂いがしない。あの人エルフじゃない」
「れっレベルっ!?ひゃっ百二十九っ」
突如、叫ばれた内容に考えていた何もかもが吹き飛んだ。
「129だとっ」
「嘘……」
自分たち46であることを考えれば恐怖すらも滲む。
「エルフの英雄だ」
いや、だからエルフじゃないと群衆のその言葉には苛立ちを感じたが英雄的な強さであるのは違いないとシーラは目を細める。
「彼が勇者だ」
「でもあの時と容姿が違うわよ」
「張って見れば答えが分かるはずだ」
何せ今のエルフ姿も正体ではないのだから。
ヤルルの指摘通り、直ぐに判明した。とった宿を張っていると遅くフードを被ったブ男が現れた。エルフの耳が彼の呟きを捉える。
「あいつら抱くのもいいけど、偶には娼館で違う女を抱かねえとな。くっくっまさかあんなことになるなんて俺は運命ってやつに愛されてるに違いない」
「サイテーっ」
女性であるシーラはライエルの考えに嫌悪感を示し、ヤルルは冷静に告げた。
「人の英雄は色を好むという。残念だが彼があの勇者だ。129レべルの人間がそうゴロゴロいられてはたまらないからね。僕たちが遭遇したあの姿も変えたものだったってわけだ。エルフの容姿で女性を釣っているのは頂けないが。慎重な男だ。近づくのは至難だな」
「私あーいう男大っ嫌い」
プク―っと膨らむシーラに苦笑しつつヤルルも強い視線で彼を射抜く。
「僕らが頼まれたのは見極めだ。が、今の君はマイナス。どれだけ強くとも組みたいとは思わないよ、勇者ライエル・ハーストン」
ライエルが勇者と勘違いしたヤルルとシーラは見落としてしまったのだ。自らが持つ羅針盤の針が別方向を指していることを。
Side キー
魔王マスタードが放ちし蝙蝠、使い魔のキーは焦っていた。偶然、近くにいた雌蝙蝠と出会い求愛に必死になり使命をすっかり忘れていたのである。
フラれた衝撃で彼はハッと思い出したが既に数日が経ち、辿れと言われた魔力が霧散していた。
これは拙い。
「キー……」
仮にも魔王、失敗したものには容赦がない。もう勘だと近くにあった人の拠点にキーは降り立ったのだ。
暫く彼は街を彷徨っていた。諦めようとしたその時、強烈な邪を察知した。それは主である魔王マスタードすら超える濃密な魔の気配。
「キー!?」
恐る恐る近づいて見れば人の足に齧りついている犬だった。地獄の番犬と名高いシャドウイーターの攻撃を受けて平然と歩く人間。遂に見つけた。マスタードの探し人はあれだとキーは確信した。
だが、報告するかを迷う。明らかにあれはマスタードよりも強いのだ。いや、生み出して貰った義理は果たすべきだ。入って行った教会に止まって念話を行う。頭の中でマスタードの声が響いた。
”キーか。随分と連絡に時間を要したようだが何があった”
「キーっ」
そんな事より見つかったとキーは告げる。
”そうか見つかったか。よくやった。四天王達の仇、あの男がそうか”
いや、違う。その奥に消えた方と言いたいが彼は言葉を話せない。まぁ、待ってれば……来た!あれ!あの犬に嚙まれてる奴っとバサバサと羽ばたく。
”おい!そう興奮するな見つかってしまっ!ぬ!?”
「れっレベルっ!?ひゃっ百二十九っ」
”人の身で129だとっ馬鹿なっ”
いや、だからそっちじゃなくて。
”これはいかん、想定以上。まさか勇者とはな。だが顔は覚えたぞ。キーよくやった。戻ってこい”
あっ……ブツっと切れた。マスタード様、絶対勘違いした。129っていうのが何かは分からないがそれよりも遥かにヤバい奴が奥に。キーは冷や汗をかくが何にせよ役目は果たしたと飛び立とうとする。だが、念話が入ってピシリと固まる。
”覗いているのはワカッテイル 雑兵よ 誰の手にものかは知らぬが 我と我が主に仕えよ”
恐る恐る振り返ればシャドウイーターの目が自分を捉えていて……。もうマスタード様への義理は果たした。キーは首を縦に振って彼らの軍門に下ったのだ。
Side ロアード団長
ルゼリア教会、管轄ルゼリア騎士団本部。団長室、その卓がこの部屋の主人によってぶっ叩かれた。怒りに震えるは団長ロアードである
「馬鹿なっ今、何といったマルス」
膝を折っているのは騎士団員マルス。上げた彼の顔は厳しいものだった。
「129です団長。ライエル・ハーストンのレベルは129と」
「ふざけるなっ。何だそれは!何かの間違いだろう」
「ですが、鑑定球の情報を改竄することはどんな力でも不可能であることは団長もご存じのはず。それに私が関係を持っている受付嬢の話では昼頃ワイトキングダム討伐の証を換金しにきたと」
ぐぬぬっと唸りロアードは椅子に凭れ掛かった。
「129だとっ人類最強ではないか。どうなったらそうなるこれではまるで奴が」
勇者ではないか。そう言いそうになったのをぐっと堪える。異界の使者、勇者は死んだのだ。討ったのは他ならぬロアード。成り代わって勇者となる計画だったが。
「既に情報は出回り彼こそが勇者だと市民の間で囁かれています」
「……奴を勇者に仕立てあげるしかあるまい」
「ですがっ彼はエルフです」
絞りだすように出された事実にロアードは天を仰いだ。
「何ということだ」
「ロアード団長、我々は買ってしまったのではありませんか?神の怒りを」
「滅多な事を言うなマルス。あれは神などではない」
「え?」
「いや、忘れろ。上と話をせねばならん。ライエル・ハーストンの相手はすまんがお前に任せる」
「はっはい」
「後、聖女を呼べ」
「聖女様なら丁度こちらへきてますが」
「違う。元聖女マリアベールの方だ」
運命の悪戯か、それとも神が望みし筋書きか盛大な勘違いが起こっていた。そしてそれを巻き起こした張本人でもある男は我関せず異界の動画に夢中なのであった。




