動画16 バスケットアニメ『スラット ダ〇ク』
別人であることは間違いない。そもそも絵だし、ただここまで似るものか?ってくらい特徴が寄っている。眼鏡で目が見えないところとかそっくり。
そういえば眼鏡って存在もカーネル先生から知ったんだったか。他に掛けてる人はいない。
「カーネル先生も精霊世界の住人だったとか?」
まさかなっとパトの頭を撫でる。10層超えても俺がこうやって動画を愉しめているのはパト無双のお陰。何か想像以上に強い。考えたところで分からないので前のテイマーが鍛え上げたのだろうってことでもう納得することにした。
「グッボーイ!グッボーイ!パト」
というかパトの方が実力上な気がするので媚びないと死ぬ。ドロップ品を拾いつつ俺の目が銀の板から離せない。恐らくは最終局面で台詞すらない試合。見入ってしまう。鬼気迫る面白さである。
「クック、キサマニンゲン」
「うるせえ、今いい所だっ」
ん?イラっとして何かぶった切ったけど今、誰か喋らなかった?地面を見れば骨が落ちてた。普通の魔物が喋るわけないし銀板から出た音を誤認したか。
拾った骨をぎゅっと握って応援する。
「行けるぞ。勝てるぞお前ら」
ライバル同士が手を合わせたところ感動して俺は思わず目が潤んだ。熱い。この世にこんな熱い物語があったとは……。死闘を演じ勝ってしまった。
もうこれは居ても立っても居られない。
「パトお手」
「バフッ」
パァンっと名シーンを再現し、この滾りを魔物にぶつける。
20階層主、ゴーレムへ突撃。固い装甲を持ち、鈍足ながらその腕力から放たれる拳は強力で、絶対に受けちゃいけない。俺だってただ遊んでいるわけじゃない。
「パトッ!スクリーン」
見よう見まねで精霊界の者達の動きを模倣する。入れ替わりゴーレムの懐に入り込みメルト玉を纏った剣でゴーレムの腕をぶった切った。
「まだ動くか」
ビっと剣の切っ先を岩の巨人に向ける。まるで高速紙芝居の主役になった気分だ。どうやら俺はすっかり紙芝居オタになりつつあるらしい。
「ガウッ」
トンっと飛んだパトがゴーレムの首を嚙みちぎって、軽やかに着地。その後ろでズゥンっと倒れ込む。
「……」
じっと見つめ合って手を出してきたのでパァンっと再び名シーンを再現した。いよいよ俺が飼われてる気がしてきたぞこれ。
それから苦戦することもなく、俺は目的地である30層手前、セーフティールームに辿り着いたのだった。
◇◇◇
「ひーふーみっと」
軽く並べてみたがドロップ品がてんこ盛り。計算してないがこれならそこそこの資金になるだろう。全てはパトのお陰。索敵外の敵も見つけて倒してくれるのでここまで集まった。
作り置きしておいたオムライスを与えると全力の尻尾ふりを見せてくれる。媚びておこう全力で。主人より強くても普通に可愛いしと頭を撫でつつ、俺は寂れきった店を見据えて魔物の出ない部屋を一望した。
これがセーフティールーム。それはボス部屋前に必ず存在する謎の休憩ゾーンである。パーネ婆さんが言ったように迷宮は冒険者を自ら呼び込んでいる。
快適にし油断を誘えばいつまでも糧が自ら入ってくる。そんな思惑があるとしか思えないほど冒険者に有利なポイントが作られているのだ。
それが迷宮が生物じゃないかって言われる所以。リソースが延々と尽きないこともその説を後押ししているけれど、俺としては迷宮最奥に辿り着いた人が何かを知ったからじゃないかって勝手に予想してる。
少なくとも踏破された迷宮なので王家は知ってるはずだ。気にならないと言えば嘘になるがこの迷宮は30層以降難易度が跳ね上がり旨味もないと聞くので、やろうとは思わない。ってか流石にパト入りでもソロじゃ無理だろう。
セーフティールームであるけど俺がいる場所はボス部屋と繋がっていない。なので本来は人が沢山いる場所だがここは行き止まりで、意味の無い空間で完全に寂れきっている。
ピピンさんが設けたであろう店も廃墟となっているのも見た目的に加速させている。
端的に言えばピピンさんは騙された。彼の要求がセーフティールームだったことをいいことに。偶然、何も無い空間にあったここを王家が無理やり取り決めてしまった。
迷宮ではこうした構造ミスのような場所が存在するので知らなかったピピンさんのミスではある。
彼は受け入れ、商売をしその結果がこれである。まぁ報奨金はたんまり貰ったらしいので道楽みたいなものだったんだろうけど。
「んーこりゃ来るわけねえわな」
地図で行き止まりなのだ。冒険者は地図を見て動くので客を呼び込める気はしない。とはいえ、それでも迷って来る奴はいるはず。
そいつをキャッチするためにもういっそここに住むっていうのはどうだろう。今も野晒しだしキャンプとか言ってたけどほとんど動画見てゴロゴロしてただけだし。
パトもここの方が戦えていい運動になりそうだ。
「よし決まりだな。問題は流石にこれは使えないって話だけど、収納」
やっぱり成長しているのか。半壊した木材を収納できてしまった。業者を雇う余裕はないので30層に到達し掃除するのが今日から俺のルーティーン。
◇◇◇
「ふふふふふ、ふふふふーん んーふふ~ふふーふ ふーん」
最後の試合をもう一周見てご機嫌に流れる曲と同じ鼻歌を歌いながら迷宮からの帰還を果たす。パトも満足したのか俺の足に噛みついている。
もう俺にとって銀の板は最高の娯楽となっている。こうやって音楽を聴いてるだけでも受付待ちという暇な時間を楽しいものに変えてくれるのだ。
しかしギルドがハチャメチャに混んでる。魔物が増えてるって話がちょくちょく出てたけどえらいことになってるようだ。ナタリアちゃんの前に立つ。
「あっジークさん」
「忙しそうだな」
「そうなんです!魔物の数が増えていてそれの対応でてんてこ舞いで。ジークさんはいつもの鱗ですよね。もう入れちゃって下さい。書いておいたので。それじゃ私呼ばれているのでお願いしますね」
あっ行ってしまった。鱗だけじゃないのだがいいのかこれ?まあいいか。ぶち込み待っているとチーンっとエクスチェンジャーが鳴り、想像の何倍もの金貨が出てきた。
「おおお」
どうやら凄いドロップがあったっぽい。バレないようにさっとアイテムボックスで回収する。ラッキーすこぶるついている。レベル鑑定してこのまま商業ギルドであの土地のローン契約を結ぼう。
「ふふふふふ、ふふふふーん んーふふ~ふふーふ ふーん」
俺は再び音楽に浸るが、それによってある再会をスルーする。なんと俺を追放した『フィストラル』のライエルがこの町に来ていたのだ。だがしかし、動画に夢中だった俺は欠片もその存在に気づかなかったのである。




