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オクトパの迷宮

 胸に付いたプレートを見るにエール君というらしい。彼の胡散(うさん)臭いと言わんばかりのジト目が俺を射抜く。


 子供で良かったかも大人だったら心折れてた。


「何で冒険者が飲食開くんだよ」


「安定した収入ゲットのため。恋人ができたんだ。俺に」


 ドヤッ


「……念のため聞くけど、いつ店を出すって考えに至った?」


「今日だ」


 ドヤッ


「やっぱ頭ん中筋肉だろお前。帰ってくれるマジで」


「残念だがエール君。普段やる気がない俺だがやると決めたら押し通す男。周りが並ばないことをいいことに俺は居座り続ける。折れて対応してくれるその時まで」


「世界一の迷惑客かよ」


 髪を毟ったエール君は面倒くさそうに資料を取り出し始めた。


「考えが甘すぎるとかしかいえねえ。ド素人が飲食やって成功できる土地じゃねえ。ほら」


 投げられた資料をキャッチして開き見た俺は目を()いた。


「高っ」


「当たり前だろ。迷宮ある街は栄えてて冒険者っていう恰好(かっこう)の良客がいるんだ。メイン通りを押さえてないならその世に商人はいないね。需要がある場所は土地だって値段が吊り上がる。そんな金があるなら、そもそも店開く意味ないだろ」


 どこもかしこも通りから外れた場所にあって値段もかなりする。流石に甘かったか。でも見ない上には始まらないし……おっ


「ここ!ここいいじゃねえか。予約しといてくれないか?」


「アンタ字が読めねえって訳じゃないよな?正気かよ。そこは」


 ”迷宮”の中。ほら、訪ねてみて良かった。とんでもない場所が売りに出されていたことが判明した。ここなら俺にも手が届く。採算とれるかは知らんけど。


 ◇◇◇


 遥か昔、といっても100年くらい前。漁師だった男ピピンが海から市場へ魚を運んでいる際に偶然、迷宮の入り口を発見したのが事の始まり。


 この世界では迷宮の傍に街、都市を併設(へいせつ)するのが常識で各国は血眼(ちまなこ)になって迷宮を探し多額の懸賞金をそこに掛けたという。


 発見者となり報奨金を得たピピンは幾らか王家に返還(へんかん)する代わりに迷宮の一部を土地として得ることを願い出て王家はそれを了承した。


 迷宮の構造と漁師であったことからオクトパの迷宮と名付け、セーフティールームと呼ばれる魔物がでない安全地帯、その一区画を授かったピピンは浴場施設と軽食場をそこに設けた。


 所謂(いわゆる)、海の家ならぬ迷宮の家。30層にあって、俺も初めて攻略した際に見かけた記憶がある。


 当時はそれで繁盛(はんじょう)していたらしいがマジックバックの普及やクリーンの魔法が浸透することで(さび)れ、経営者だったピピンも死に潰れてしまったのだそうだ。


 親族は少しでも金になればと売りに出すが、いつまで経っても買い手が付かない。というのが商業ギルドに激安となっていた経緯とのこと。


 優秀な冒険者ほど食事には気を使って料理を持ち込む。だが、ぶち抜けて美味い食い物がそこでしか食べれないとなればどうだろう。


「冗談抜きで行ける気がしてきたな」


 何より俺にはこいつがあると空間から剣を取り出す。実は同じと考えられているマジックバックとスキルであるアイテムボックスには大きな違いがある。


 そいつは保存が永遠に持続するってことだ。子供時代に入れ忘れていたスープが大人になっても暖かいままだった事実に衝撃を受けたのは記憶に新しい。


 それを使えば幾らでも作り置きできるので、売れ残ってもロスがでない。そう考えると天職かも知れない。まぁ、開くのは一週間に二日とかにするけど。


 下見込み、資金稼ぎと俺はオクトパの迷宮入口前にパトと共に並び立つ。


「行くぞパト」


「バフッ」


 目標はピピンさんが開いていたという30層だ。


 オクトパの迷宮、全50層。入口は8か所存在し中央に向って(くぼ)んでゆくという特殊な構造をしている。なので蛸壺(たこつぼ)なんて異名もあったりする。


 俺のルーティーンでご存じだと思うが10層ごとに大ボスがいてそこを突破すると雑魚敵が現れる通常階層の難易度も跳ね上がってゆく。


 隣町や他国にも通じているので糞デカい。普通に迷って死ぬ奴もいるくらいだ。踏破(とうは)済みだが、ただ中央に何があるのかは一般には知らされていない。


 迷宮は(さち)(もたら)すものなので壊しでもしたら罪に問われる。まあ、滅茶滅茶固くて壊す手段とかないんだけど、人に害のある魔物を生み出す場所でもあるが……。迷宮外に出てきたら話はまた違ったかもしれない。


「あれ?」


「ガゥウウウウ」


 ゴブリン二体をパトが瞬殺する。


「お前F級だよな?」


 危なくなったら手助けに入ろうと思ったが、ばっさばっさなぎ倒してゆく。そういえば過去会った魔物使いが飼い主の腕で能力が変わるって話をしてたっけか。


「俺の(あふ)れる知性が従魔であるパトに影響したってことか」


「バフッ」


「そうか、お前もそう思うよな」


「くぅううん」


 足()んできたけど俺には分かる。そう思うって言ってる。これならサクサク行けると更に歩を速めた。


 魔力感知で極力、冒険者を避けて通るのはマナーだ。挨拶も面倒なので魔物がいてもそっちを選ぶ。そもそも金策でもあるので今日は何が何でも戦いまくる。


「よし10層リザードマン撃破」


 俺のスキルの効果であるレアドロップ率上昇によってほぼ確定で落ちる蜥蜴(とかげ)の鱗を懐にしまう。また簡単に倒せてしまった──愛の力っと言いたいところだが自分の力が上がってる気がしてならない。


 パトがいることを加味しても本当にカーネル先生が言ったようにレベル上限の枷が外れているかも。


「いい加減教会に見て貰うか」


 レベル鑑定はルゼリア教会で行われてる。俺は余り数値に興味がないので昔、頭打った時に一回行った切りである。今日の稼ぎにもよるが薬のこともあるしそろそろ見て貰った方が良さそうだ。


 ただ兎に角、これなら20層、30層の敵ともガンガン戦っていいかも知れない。勿論、油断は駄目だ。俺はソロなので怪我を負った時点で死に繋がる。回復魔法はあるが折れた骨が一瞬でくっついたりはしない世界。


 如何に怪我を負わないかが体を資本とする冒険者にとっては重要なのだ。


「パト、こいつは遊びじゃない。油断するなよ」


 ”全国大会だ。いいか! 一瞬でも油断するな”


 俺は腹から銀の板を取り出した。駄目なのは分かっているが、気になってしまって視聴が止まらない。


 今、ハマっているのは高速紙芝居による玉蹴りとは別の球技を描いた作品だ。球を地面に玉突きバウンドさせながら運んで設置されたリングに叩きこむ、または放り込むことで得点になるようだ。


 面白いのは事実だが、俺の興味を引いたのはある一点。やっぱり見間違いじゃなかったと俺は目を(みは)った。


「カーネル先生……」


 カーネル治療院の医師とすこぶる似た精霊が動画の中に登場していたのである。


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[良い点] ドリブルこそチビの生きる道ッ‼
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