動画15 最高の炒飯、オムレツの作り方教えます
過去、所属していたPT『フィストラル』のリーダー、ライエル・ハーストンの事を俺は穿った目で見ていた。無類の女好きで目を付けた美人なら糸目をつけずに告白しまくる。
生粋のハーレムマン。ちょっとだけ羨ましいと思いつつもハーレムって大変なんだなって理解した。そして思った。俺は普通の恋愛をしようと。
が、そんな過去の自分に言いたい。普通の恋愛ってなんだよと。
好きになって告白して、お付き合いするというお決まりのストーリーラインを勝手に頭で思い描いていたがそんな流れこの年になるまで一度としてなかった。
ガツガツいかないと彼女なんてまずできない。典型的な恋物語はモテ男のためのものなんだと凡人たる俺はようやく理解したのだ。
つまりはここに全つっぱ。俺はモテ男に近づくために心血を注ぐのだ。彼女を胃袋を掴む、女冒険者に俺の料理のウケは良かった。
やはり頼るは銀の板。俺にしかできない味がいいだろう。精霊界の料理を俺は会得する。まずはいつものルーティーン、オクトパの迷宮10層ボスリザードマンを俺は数分で粉砕した。
これまでは時間が掛かっていたボスも楽勝。間違いなく強くなっていると俺は手をじっと見て拳を握り込むとほくそ笑む。
「これが恋の力か」
俺、ジークは過去最大レベルで浮かれている。
◇◇◇
「なんじゃ気持ち悪い顔しおって」
いけない。にやける。なんてこった。パーネ鑑定所、珍しいものが置いてあるに調味料を買いに来たわけだが顔のゆるみが止まらない。
「塩、胡椒、醤油を貰えるか婆さん。勇者が好んでたっつう伝説の調味料を」
「女じゃな?大方、胃袋掴めばやれると思うておるんじゃろうが浅はか。これだから童貞は」
「婆さん、そうやって罵れるのは後数週間だと思っておくといい」
「忠告しておくがイキるなら一皮剥けてからにせいレアドロップの小僧っこ」
カウンターに乗せられた調味料の数々。勇者が好んで使ってた品というが間違いない、動画で出てきた奴だと思う。
ん?俺は教会に任命された奴が勇者って認識でいるけどもしかして勇者ってあの動画にある精霊界の住人とか?それとも精霊の力を呼べてそこから嵌ったとか?
まあいいか関係ないし。俺は大枚叩いて異界の調味料を入手したのだった。
市場で素材を買い足して拠点に戻って調理開始。『フィストラル』にいた頃は雑用係だったので料理は腕はそこそこ。教えを乞う人なんていなかったので見よう見まね。自然と観察力がついて再現できるようになった。
とはいえ、流石は精霊界の料理。中々に難しい。ただ技術を隠すという考えがないのか惜しみなく動画の中で精霊が披露してくれる。
”中火でさっと卵と一緒に炒めるのがコツですね、炒飯はスピードが命です”
「うっし完成」
あんまり人気が無い米という食材を使った炒め物の完成だ。御椀を使って小山のように盛るところまで真似てみる。洒落てる。いけない、これはモテる。
が、肝心なのは味だ。ゴクッと喉を鳴らして一口パクリ。
「うっめええええええっ!?何だこれ」
お口の中で革命が起こった。芋の煮つけと卵で包んだ料理も再現し、その凄まじき旨味の暴力に俺は膝から崩れ落ちる。
「なんてこった……こんな美味いモノがこの世に存在しただなんて」
これを味わってる精霊からすると俺の普段の食事など残飯以下だろう。いや、こっちの世界の高級料理ですらこの域に届いていないのではないか。
「あれ?これ店出せんじゃね?」
クイックイっと引っ張られ見ればパトがきゅるんとした目で見つめてきた。纏めて与えると狂ったように食べ始める。犬の魔物だがパトは美食家である。その姿を見てこれはいけると確信する。
妻を持つ身となれば冒険者よりも固められる仕事を持った方がいいだろう。資金を貯めて精霊料理店を開くのありかも知れない。
妻ミリーと愛犬パトを愛し、余生を過ごす。いい、凄くいい。何かもう結婚してる気になってきた。
目標ができた。そうと決まればレパートリーを増やしつつ活動資金とデート資金の確保。兎に角、金が必要だ。
「迷宮行けるとこまで攻略やってみるか」
「バフッ」
尻尾フリフリするパト。
「おっお前も行きたいのかパト」
F級モンスだけど異様に強いしまあ大丈夫だろ。散歩にもなるし。顎を撫でてやるとひっくり返った。可愛い。
「俺がお前を上級国民魔犬にしてやるからな」
今日の俺は一味違う。思い立ったらすぐ行動だとパトを連れて街に向った。
まだ昼時。早速、迷宮と言いたいところだが先ずは店を作れる場所があるかの確認だ。ってことで俺は商業ギルドの門を潜り抜ける。
迷宮を取り仕切るのが冒険者ギルドならその他商売を取り扱うのが商業ギルド。別に競合しているわけではないがトップ同士の仲が悪く犬猿と言われている。噂では魔物の素材や魔道具の扱いに揉めたかとどうとか。
まぁ迷宮は莫大な利権を齎すから真実であってもそうおかしくない話。兎に角、それは下っ端に影響が及んでいてギルド員が下に見てくることがある。
「お前冒険者だろ。とりあえず帰れ」
ほら、こんな感じで。受付にいたのはくすんだ茶髪のそばかす少年。しまったな並ぶところ間違えたか。
「他並んでも一緒だぞ。筋肉馬鹿の冒険者どもに商売の話ができるわけないって皆思ってるからな」
「随分冒険者を馬鹿にするな。一応、客だろ」
俺が言えばそばかす少年は資料を整理しながらうんざりとなった。
「ご覧の通りこっちは忙しいんだよ。子供の俺を駆りだすくらい大混雑だ。ほら、見ろ。子供の受付に来る奴なんていねえ。そんな奴が持ってくる話は大したものじゃないから追い返せって親父から言われてんだよ。って!あ!おいっ」
無視し、スッと座る。
「なら、安心してくれ。その大した話とやらを持ってきた。こいつは絶対に儲かるお話だ」
「この世で詐欺師しか使わねえ言葉だろそれ。大体、テイマーが何の用だよ」
「俺はテイマーじゃない。こいつはペットのパトだ」
「バフッ」
「もう何なのお前……」
俺は冒険者の証を置いて本題に入る。
「俺はC級冒険者のジーク。今日ここへ来たのは他でもない飯屋をやる貸家探しに俺は来たんだ」
「いや、だから何なんだよっお前」
俺は至って真面目であるが、少年が頭を抱えてしまったのだった。そして何で俺が子供の前に座ったかだって?だって大人だと緊張するじゃん。




