動画02 某ピアノ動画
「もう一度、自分の口でしっかり言って下さいジークさん。ほら、はっきりとご自身が何をやらかしたのか」
見下ろす看護婦。しょんぼりする俺。そしてここは町のカーネル治療院。
「私、ジークはスライムを食べ治療院の皆様に多大なるご迷惑を」
「まぁまぁ、ジーク君も反省しているのだしその辺で」
怒り狂う看護婦に見かねた治療院の先生がフォローを入れてくれた。
「いや、この人26ですよ!26歳でスライム口に入れますか普通!飢えたホブゴブリンだってしませんよ。完全に頭おかしい人でしょ」
ぐはぁっと心の中で吐血。だって……だって……美味そうに見えたんだ。ちなみにスライムの味はゲロまずだったと伝えておく。やはり板の住人は人外だった。完全に騙されたのだ。そう、俺は被害者なんだ。
「ちょっと待ってくれ。全部この板のせいなんだ」
「その板がなんなんです?」
ジト目。信じてないな?ふっ見てろ板妖精さんの姿に腰を抜かせ。
「見てろ今、付け……付け?」
付かねえっ!?いや、そんなはずわ。悪戦苦闘しているとポンっと肩を叩かれた。
「どうやら君は疲れているようだ。休みなさい気が済むまで」
「待ってくださいホントなんです!もう少しだけもう少しだけ」
「ジーク君、いいんだ。先生は信じる。でも諦めなさい、試合終了ですよ」
「お世話に……なります」
カーネル先生っ俺、先生の優しさが辛え。
◇◇◇
治療院のベットでボーっとする。スライムを食べた冒険者。こんな極上といえる酒の肴が噂好きの冒険者どもに伝わってないわけがない。終わった。俺の冒険者生活が終わった。元々、ぼっちだったけどこれで完全に孤立しただろう。
何故、俺はスライムなんて口にしたのだろう。これもそれもあの板と住人のせいだ。二度と使うものか。
……10分後。
暇だ。絶望的に暇だ。そんな俺の思いに答えるかのように板が輝いた。ふっやはり呪いの道具。誰がもう見てやるものか。俺の意志は鋼鉄のように固っ……
「なっ!?」
俺は釘付けとなる。住人が変わった。顔は見えず、胸元を大きく開けた服を着た女の子が谷間を披露していた。信じられないことが起こった。あれだけの決意を固めたというのに俺の手が伸びていたのだ。そう、呪いの力によって。
谷間、IT's a 谷間。こっちでこんな服を着る女は貴族くらいでまずお目に掛かれない。落ち着け、ジーク。こんなものただ肌色に線が入ってるだけじゃないか。
だが、何という吸引力。視線が谷間に落ち逸らすことすら叶わない。
谷間が演奏を始めた。ピアノってやつだろうか、無教養の俺でもそれがとんでもない名曲であることが分かる。しかし──全く耳に入ってこない。
曲が終わってしまった。ちょっと残念な気持ちもあるが遂に解放される。ホっとしたのもつかの間、新たな枠が生まれ、新たな谷が増えた。
(分身しただと!?)
生唾を呑み込んだ。薄っすらと理解した。これに触れれば俺はきっと戻れなくなるだろうと。無限谷間ロードだと。しかし、引かない!何故なら俺は男なのだっ!!!
◇◇◇
「……さん」
「………ジークさん!起きて下さい」
はっ!?覚醒。どうやら寝入ってしまっていたらしい。眼の前には俺がひっそり恋心を抱いている受付嬢のナタリアさん。獣人で茶髪の糞可愛な女の子。しかし、何故彼女がここに?ままままさかっ俺の見舞いに!?
「ジークさんが腹を抑えて倒れたって聞いたので、心配で来ちゃいました」
はい天使。はいここ天国。
「それにしても意外でした」
「ん?」
「ジークさんが芸術に明るい人だったなんて。ピアノですよね?今、王都で人気っていう」
あっ付けっぱなしだった。確かに鳴ってる。
「もしかしてお詳しいんですか?」
「まあ、嗜む程度には」
キリッと。
「その板からですよね?もしかして魔道具ですか」
そういって手を伸ばすナタリア。微笑ましく彼女を見守っていた俺は事態を理解し目を剥いた。
「駄目だっナタリア!裏というか表を見ちゃいけない!止めるんだ。止めろおおおおおお」
治療院で男の絶叫が響く。男ジークはあまり多くは語らない。ただ俺の評判が下がったとだけ記述しておく。