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SIDE 聖騎士エルザと聖女 視点 前編

 私の名前は聖騎士エルザ。ルゼリア教会の教徒であり、聖女マリアベール様の傍付きの役目を頂いている。マリアベール様には困っている。彼女は天真爛漫(てんしんらんまん)な性格で無理難題を平気で言ってくるのだ。


 A級の実力を持ちほとんどの魔物に苦戦しない私も彼女の世話には手を焼かされている。王都から町へ行くために迷宮を通ってゆくと申されたのだ。確かにオクトラの迷宮は各街と繋がっているとはいえ危険極まりない。


「いい加減戻りましょうお嬢様、何かおかしい。魔物数が多すぎる。これ以上は私といえど害が及ぶ可能性が」


「あら、教会の盾と呼ばれる貴方が傍にいればどんな危機からも救ってくれるのでしょうエルザ。あの時の誓いは嘘だったのかしら」


「そっそれは……本心ではありますが」


「ならこのまま突っ切りましょ。それと周りには誰もいない。マリーでいいわよ」


 命令でもそれだけは聞けないと言えば彼女はムスっとした。籠の中の鳥であったためかマリアベール様は子供っぽい。


 需要人物でありながら自由を許され警備が一人なのは彼女が役目を終えたから。100年に一度と呼ばれる勇者召喚の失敗。その責任を取らされ、マリアベール様は聖女の任を解かれ、新たなる聖女がその席に据えられた。


 あっけらかんとしているのは彼女の性格が故。それでもやはり未練があられるのだろうか。場所が違うとはいえ迷宮に来たいとおっしゃられるとはと私は息をつく。


(私の忠誠心(ちゅうせいしん)は母君とその娘マリアベール様に向いている。何があろうとお守りする絶対に)


 そのためにも意志は確認すべきだと重い口を私は開く。


「マリアベール様は戻られたいのですか。聖女としての地位に」


「え?嫌よ。御役目に縛り付けられて外に出る事もままならない。新しい聖女さんには悪いけど、せーせーしてるわ」


「では」


 何故迷宮を調べようと考えたのか。それも勇者と関りが無いオクトパの迷宮を。アリアベール様は壁に手を触れさせた。


「ねえ、エルザ。勇者は本当に死んだと思う?」


「残念ながら私は見ております。遺体となった勇者様が迷宮に呑み込まれる様を」


 理由も分からず殺された。”彼”はそんな表情をしていた。


「貴方は騎士団を疑っていたんだったかしら」


「はい、証拠はありませんが致命(ちめい)となった一撃は人の手によるものでした。潜っていた冒険者の誰かだろうと結論づけられましたが、彼らはやけに現場の発見が早かった。少なくとも情報を知っていた。私は」


「ああ、そんな事はどうでもいいのよ。私が言いたいのは皆舐め過ぎだってこと」


()め過ぎ?」


「神様のことも勇者のことも、あれは理外。本来この世界に(あら)ざるモノ。そしてそんなものを呼び寄せなければ対抗できない厄災も人の手でどうにかなるものではない。まぁ馬鹿な事をして滅びるなら勝手にすればって私は思っちゃうんだけど」


 思わず絶句する私にマリアベール様はほほ笑む。何が飼われた鳥か、これは蛇。伊達に聖女という大役をこなしてきたわけじゃない。少女は立派に成長している。ちょっと、褒められた方向じゃないかも知れないが。


「そんな神が招いた存在を人が簡単に(ほふ)れるかしら」


「しっしかし」


 実際に死体を見たとする私をマリアベール様が手で止めた。


「常識に囚われちゃいけないわよエルザ。勇者とは人(あら)ざるもの。私が思うにこれは本当に文字通り。勇者とは人間じゃなくモノ。異界の道具のことなのよ」


「へ?」


 あまりの内容に私はキョトンとしてしまったのだった。


 いけない。驚きで周囲の警戒を緩めてしまった。魔物が多く不穏な空気が漂っているのだ。正直言えば談笑していい場所じゃない。でも、気になってしまうと固まる私にマリアベール様がほほ笑む。


「ねえ、エルザ。貴方も信徒なら初代勇者が所持していたものは知ってるわよね」


「聖剣です。名は確かイカスカリバー」


「そう、そして初代勇者は聖剣とコンタクトをとっていたと言われている。つまり喋るのよ。念話な上に神語を使用するから周囲からは独り言にしか見えなかったらしいけど。兎に角、勇者と思われてる異界人は必ず一つそんな異界の道具を携えている。何故かしら」


「私にはわかりません。それが神の加護であるとしか」


 でもこれはそれが勇者であるという話だろう。


「今回、神は未熟な聖女のせいもあって勇者召還に失敗した。勇者は迷宮に飛んでしまい、結果遺体となってしまった。人の中ではそういうことになってるけれど、神様がそんな失態(しったい)を犯すかしら。ううん、そもそも神が人のために動くと思い込んでるのが人の業」


 マリアベール様はそこで言葉を切り、私を見据えた。


「今回の件が仮に神の狙い通りだとすればどうかしら。次のように考えられる。神は私欲を尽くさんとするルゼリア教会を見限った。そこで欲深き者達の包囲網から勇者を逃がすための算段さんだんをつけた。人が守り人である異界人を勇者と誤認していることをいいことに、迷宮の効果を使ってホンモノを外部に逃がした」


「馬鹿な……神が教会を捨てた?」


「私なら切るわね。所属している身でなんだけど皆、自分勝手だもの。いつしか自分のために用意されたものだと思い込む。ニンゲンの悪い癖。母様が言うには初代勇者は英雄とは思えないほど女好きで横暴な男だったらしいわ。それでも体裁を保てていたのは聖剣の指示によるものだと。母は真の勇者は聖剣だと話してたけど私もその意見には同意。今回の件で更に確信したと言えるわね」


 持ち主が死んだ聖剣は教会奥に封じられていると言われている。確かに上層部は血眼になって異界の道具を探していると聞くがまさか。


「ではマリアベール様は勇者を探しにここへ?ですが、勇者が死んだのはロメルタの迷宮でここオクトパの迷宮とは違います」


「エルザ、ロメルタの迷宮とオクトパの迷宮は繋がってるわよ」


「え?」


 呆ける私にマリアベール様はその笑みを深めたのだった。


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