動画09 ドライブレコーダー これで過失2割とか納得いかない
ひょいっとパンに挟んでモキュモキュと頬張るミリーさん。可愛い。じゃなかった、何でこの人がここに?ってかパト用の方をこの人食った。
パトから怒りの気配を察知したので味付け濃い目の俺のを与えてやる。まぁ魔物だし大丈夫だろ。それよりもだ。
「カーネル治療院の……看護婦さんが何でここに?」
「先生からの頼まれて渡しそびれた薬を届けにきたのよ」
「一人でここへ?」
危なくないか。
「こう見えて冒険者だった時期もあるの。ラギア平原の魔物くらいなら後れを取らないわ」
んっと突きだすように渡された紙袋を思わず受け取る。開けて見れば注射器が。何この危ない薬?本当に大丈夫なやつか?
「いや、もう必要」
「貰っておいた方がいいわよ。カーネル先生は優秀だから。貴方、ソロ級冒険者なんでしょ?今回は辿り着けたからいいものの途中で倒れでもしたら死んでたってこと理解してるわよね?」
う”っと言葉に詰まった俺にそれよりもよと迫ってきて仰け反る。
「それで?頭ボブゴブリンこそここで何してるのよ」
「何って俺はキャンプを」
ってかその呼び名いい加減止めて欲しいんだが。
「キャンプって……。どう見てもホームレスじゃない。街で軽く噂になってたわよ。貴方が浮浪者になったって」
ぐはっ!マジかよ。俺の事興味ないと思ってたのに。とはいえ、せめてパトに従魔の証を買い与えるまでは街を拠点にするわけにはいかない。ほぼ放し飼いなのだ。問題起こせばこいつの命に係わる大事になってしまう。
「ふーん、この子のためってこと。パトって元々、貴方の子じゃないでしょ?ギルドの話では預かったとか」
「そうだが」
何でそんなに詳しいんだと見れば肩を竦めてパンで挟んだ肉を俺にくれた。いや、元々俺のなんだが。一個食べられてしまった。パンは嬉しいけど。
「貴方の居場所を聞いた時にナタリアって受付嬢に聞いたのよ」
「ああ」
成程、ナタリアちゃんなら俺の事色々知ってるので納得だ。人当たりのいい彼女だ。掃除のおばさんとも仲良さそうにしているのを見かけたことがある。
「マナガルムのために外で暮らすことも厭わないだなんて貴方ってよっぽどの犬好きなのね。あんなデカい犬の写真まで飾っ!動いてる!?」
「ん?ああ、上級国民犬な。とんでもない犬だよなってまさか見えてる?」
コクコクと頷くミリーさん。驚いた。何人かに見せたのだが見える人はいなかったのだ。実は受付嬢ナタリアちゃんも音だけで画面は見えてなかった。後から知った話だがそのオッパイは勘違いですって俺が急に叫んだのでドン引きしただけだ。
「そういえばそれからピアノの音が鳴ってたわよね。女性の写真だったはずなのに……。もしかして魔道具なの?」
「ダンジョンでドロップしたんだ。精霊の生活が覗ける魔道具だぞ」
「精霊の生活が覗ける!?」
「時間あるならドライブに連れてってやるよ」
あっテンション上がって陽キャのように誘ってしまった。ぶっちゃけこのアイテムの楽しさを共有できる相手が欲しかったのだ。
◇◇◇
ヤバい……二人で銀の板使うってこういうことなるのか。ピトっとミリーさんと肩がくっついてドキドキする。
「ねえ、念のために聞いておくけど頭ボブゴブリンってお風呂には入ってるわよね?」
「勿論、それに俺魔法のクリーン使えるから!大丈夫、衣服含めて清潔だ」
だから、抱き着いても無問題です。
「ソロなのにC級だったわよね。貴方って意外と強いのね」
「いや、昔いたPTで上げたみたいなもんだからそんなにダ」
近距離の上目遣いにちょっと見惚れた。糞っ、でも俺にはナタリアちゃんという心に決めた人が。
「それでドライブって?まさか本当にその板で?」
「ちょっと待ってくれ、えっと」
銀の板はそこそこ弄って色々分かってきた。画面を触れば矢印が動き、タッチで選択。文字を打ち込むことで好みの動画を出すことができる。
何て文字なのか全く分からないが、順番が決まった暗号だと思えばいい。場所を覚えさせすれば──
「こことそれとこれでそれ!」
ポチポチと押すことで一度見た精霊と何度もリンクすることができる。ターンっと最後の一発を決めて目当ての映像を呼び出した。精霊界の夜景を楽しめる馬車とは比べものにならない速度で進む動画。
まぁこれをドライブと呼ぶのは無理あるかもだが、その気分にはなれる。
「綺麗!これが精霊界……」
「凄いだろ?」
ドヤッ。あーやっと共有できた。誰かにずっと披露したくてモヤってたのだ。俺自身はただ見せてるだけで欠片も凄くはないけどついつい得意顔になってしまう。
「信じられないくらい早いわ。これって馬車じゃないわよね」
「精霊界の乗り物だな。見た目は……ほら、向かい側通ってる鉄の箱があるだろ?あれと一緒だ。ご覧の通り動力はさっぱり。ただ魔法なんだろうな多分」
「行きと帰りで別れてる。私達よりずっと理性的な世界。ねえこれって本当に精霊なの?」
「人の見た目してる奴が多いけど人外だな。スライム喰って平気そうにしてたし。魔道具って精霊の住処が定説だろ?」
「ああ、それで貴方スライム食べたのね」
う”……。こいつアホだなって感じのジト目で見られてる。いかん、どうにか挽回しなくては。
「とっ兎に角、楽しもうぜ。疑似的だけど本当に乗ってる気分に」
揺れた映像、突如ドガシャーン!!!っと結構な音が響いて心臓飛び出かけた。画面がひび割れ、うめき声が聞こえる。
「……」
「……」
「ものの見事に事故ったわね」
「うん」
「私帰るわね。頭ボブゴブリン」
「はい」
”明らかに相手が確認せず右折してきたんです。これでこっちが過失2割っておかしくないですか!あり得ません。この世の不条理です”
相変わらず未知の言葉で精霊が何か言ってるけど、俺は思った。確認大事と。何故だろう。何かがちょっと上手く決まった気がした。