動画01 ASMR スライム食べます
俺の名はジーク。平民なので家名はない。農村育ちで冒険者となり早10年。現在、C級にまで登りつめソロ冒険者としてひっそりと活躍している。
C級でソロといえばそこそこ。ただ、今年26で成長も止まった。俺はこれ以上、上にいくことはないだろう。よって俺の冒険者生活はルーティーン化した。
いつものように迷宮探索。安全を期して何度も攻略しているボス部屋へ突入。穴場──ボス弱いし、ここのドロップ品が高値で捌けるのだ。ちょっと苦労しつつも何とか階層主を討伐。意気揚々と宝箱を開いた俺は顔を顰めた。
「あん?何だこれ」
いつもなら蜥蜴の鱗が入っているのに初めて金属の板がでたのである。
コンコンと叩いてみる。銀色、材質は鉄だろうか。だとしたら最悪、鉄は安い。ただ裏を向けると黒光りの中に自分の顔が映る。こっちは鏡ってやつだろうか、自分の顔が薄らと映るが真っ黒で見にくい。鏡としても質が低そうとガッカリする。
「ハズレ引いたかこれ」
鱗が出ないなら大赤字である。糞っと苛立ちを板にぶつけ、その際俺は何かを押したらしい。直後、輝いて音が鳴り板の中に小さな人が現れたのである。
”どうもーASMRの矢子チャンネルです!もう!やごはトンボの子供、やごじゃなくて矢子だぞー”
「うおっ!?」
何だ?魔道具?精霊?思わず手放してしまったが慌てて拾い上げる。よし傷ついてない。魔道具なら高値で売れる可能性がある。
ホッとしたのもつかの間、精霊さんが目を半開きにした凄い表情で固まっていた。
「しっ死んでる」
なんてこった。まさかあの程度の衝撃でお亡くなりになってしまうとは。いや、この極薄の中に閉じ込められていたのだ。ちょっとしたことが死に繋がってもおかしくはない……。やっちまった、不注意な俺のせいで尊き精霊さんが
”今日はお・待・ち・か・ね・の食べれるスライムいっちゃうぞ”
あっ生きてた。触れたら動き出した。しかし、何言ってるか全然わからない。これが精霊語ってやつなのだろうか。喋りかけてみてもガン無視される。
「テンション高いなこいつ」
独り言っぽいのにハイになってる。これ呪いの装備なんじゃないか。距離をとろうかそう思ったのもつかの間、俺は目を剥いた。ドンっとスライムが出現したかと思うと精霊はそれを引きちぎり、何と口の中へ。
「おいっ止めろ!何してる!死ぬぞっ」
”クチ クチャッ クチィイイイ”
スライムを食べるなどどうかしてる。だが、それよりも轟く咀嚼音。その精霊、想像絶するほどのクチャラーであった。
◇◇◇
俺、ジークは神経質である。家族の食う音ですら気分が悪くなり、幼少期から離れて食うほどだった。俺がソロを続ける理由に至ったのもそれ。だが、そんな俺に革命が起きていた。
「何故だっ何故こんなにもっ咀嚼の音が心地いい」
俺の中で不快度指数100%だったクチャ音。それが脳を擦って気持ちがいい。しかし、それにしても何て美味そうに食うのだろうか。
”うーん美・味・し・い……んまっ♡”
そして何故、囁き声なのか。何言ってるかさっぱりだが──
「もしかしてスライムって旨いのか?」
幸せそうに頬を落とす精霊。ゴクッと喉が鳴った。
「そういえばここの2階層にいたよな?」
ちょっとした興味心だったのだ。多くは語らない。この後、俺ジークは──治療院直行行きとなる。ああ、そうだ。俺は多くは語らないちょっと寡黙なC級ソロ冒険者のジークだ。