第二章 第三節 光を求める者
<闇と絶望と砂漠が支配する大地、ペルシャ>
その小国に一人の王がいた。
王は灰色の服を身に纏い礼拝所に入る前に手や顔を清める。次に横長の茶色の帽子を取り床に置いてから儀式を行い拝火壇に残っている聖灰を顔に塗った。拝火壇に炭を入れ火をつける。白檀で火を崇める。儀式が終わったのちに種火の状態にし……神殿を離れる。顔を洗い、拝火壇から離れると帽子をかぶり手に鍬を持ち、畑を耕していた。
相次ぐ人間同士の戦乱、増え続ける魔族の襲撃で王族や王といえども生き残るためには数少ない人間とともに食糧確保に努めなければならなかった。嘗ての栄光の光景は……もうない。
昼にはいつ魔や他の民族の襲撃が来るか分からないので戦闘に備えるために剣を振るった。
彼の名はカーグ。
王とはいえまだ一三歳である。紫色の服を着るのは高貴な身分だった証である。仕事が終ると光の神であるアフラマズダに祈るのが日課であった。
「このへんはまだ大河ユーフラテスに近い。光の恵みもある。アフラ様のおかげだ」
実際、魔物の力も弱かった。
しかし、魔はここまで迫って来ていたのだ。
アフラ神の祠は岩を削って松明に火をともし、光を賛美する。
その他に水の神、契約の神、薬の神などさまざまな天使や精霊を祭っていた。
彼は幼いころに両親を殺された。
両親は決して褒めるべき存在ではなかった。
重税を課し、麻薬にふけり、俺にも暴力を振るい、城下町には風俗街を作り、アフラ神ではなく、イシュタルという女神を祀り、売春税を取っていたのだった。
産業もなにもない砂漠で病者や魔族から逃れる人々が集まる逃れの街と化してしまった以上、信仰も半ば捨てて商業で生き延びなくてはならなかった。
ある日、暗黒の竜に突然襲われ、従者とともに地下通路を通って逃げ延びた。
国は滅びたのだ。
闇に憑り付かれたような街であったがために当然の結末とも言えようが、それでも親を殺され国を滅ぼされた恨みは大きかった。
まだ八歳の時の出来事であった。
以来、放浪の旅を数年し、大河に近い土地を見つけそこに小さな村を作った。
そこを勝手に王国となのっていたが法も税もかつての王国のものを使っていた。
信仰を大切にし、王族と一般人の区別もすべて無くした。
そうせざるを得なかったともいえるが。
王政といっても現実には共和制であり、かつ規模は村そのものでしかなかった。
合議されたものをただ承認するだけであった。
民はつつましくとも幸せであった。
だが、王族に対する恨みから王族を尊敬するものなど誰も居なかった。ゆえに自分は暗い性格であることを自覚している。いっつも「僕は……」と発言の途中で黙り込むことが多い。僕はそういう人間だ。
なので、僕に対して村人全員がよそよそしかった。
しかし、ここでも悲劇が起こった。そう、魔族の襲撃であった。急いで顔を洗い帽子を被ってから外に出る。
※古代ペルシャではある程度服の色で身分を現していました。高貴な身分は紫色の服を着る事が許されていました。もちろん高位の身分の者が毎日紫色の服を着るわけじゃありませんが。