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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第四部 ロスタム王子の冒険 暗黒竜の復活
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第一章 第一節 修行

 「サルワの怒り」と名づけられたこの巨大な嵐による壊滅的な被害から十五年。採掘された石炭も底をつきていた。もはや電力もなくなった。アフガン、東トルキスタン「新生マルダース王国」には鬼族がいるのだ。

 神聖ファリドゥーン王国の議会は震災復興費と防衛費と冥土物質の除染費用のため王族関連の予算を縮小するほかなかった。それだけでなくかつてファリドゥーンが王子時代に偉業をなしとげた事を期待し、カーウース国王の王子ロスタム王子に対し、鬼王と東トルキスタンにいる魔族討伐命が下された。議会は全会一致だった。父たる国王カーウースはなきながら法律に捺印したという。王権に実権はないのだ。


◆◆◆◆


 向こうに見えるのは虎人タウス。昔ながらの友人だ。普段は近衛兵だ。


 「王子。私を修行の場では憎き魔族と思いください。この右腕にあるバンダナを切ったほうが勝ちです。行きますよ!」


 虎人が棍棒をかまえる。棍棒がおそいかかる。棍ではじき返し、逆をつく王子。が、獣の跳躍力であっという間に背後に廻ったタウスは己の爪でバンダナを器用に切り裂く。黒き血飛沫が腕から飛ぶ。


 (いくら王子でも、いくら王宝修羅剣があろうともこんな短期間で、しかも宮廷生活しかしていない人間にこの命令は酷すぎる……。いくら暗黒竜の子孫だからといって議会は期待しすぎなのでは……?)


 「仕方がない」


 腕のバンダナを外し、捧にバンダナを結ぶタウス。


 「王子、今度はもっと楽です。この棍棒についているバンダナを切るか、棍棒ごと叩き割ってください」


 「いやああ!」


 腕の傷が黒き鱗で覆われながら巨大化した。一気に巨大化した己の腕の力で木の剣を振り下ろす。棍棒を仕留めた。手ごたえありっ!


 だが、そこにあるのは残影。


 「お前が切ったのは私の残影なのだ」


 そのまま背中を棍棒で打たれる王子。床にたたきつけられる王子。


 王宮僧侶である犬人ケンが回復魔法をあわててかける。


(無理だ。鬼王退治どころかこれでは魔族1人も退治できない……。これでは彼は死にに行くようなものだ!!)


 「王子、もういいです。戦闘の修行は終りにしましょう」


 「いつもすまない……」


 王子の修行はこれだけではなかった。王宮暮らしのせいで「サルワの怒り」のあとでも十五歳になっても王宮から一歩も外に出たことがないのだった。わずかであるが外は残存魔導物質の影響もあるからだ。そんな王族の特権も財政破綻のため王族であっても公務に付く以外の者は労働義務が課せられた。

 買い物の方法、王立職業安定所に行って求人を見る方法、そこには魔物退治から土木工事といった日雇い、職業を身につける訓練など様々あった。財政難の王国に王族を養う金などなかった。経済は破滅していたのだから。物々交換からようやく金貨、銀貨、銅貨が流通しはじめた。紙幣は紙くずとなって十五年。医療が受けられずに死んで行った墓が並ぶ光景、「サルワの怒り」で死んだ墓……。人間、半獣、獣族関係なく墓標はあった。人口は激減したのだ。使い物にならない錆びた横断歩道の信号機が床に置かれている……。

 これが神聖ファリドゥーン王国の現実。墓清掃も立派な業務の一つなのだ。


 幸い、王子には宮廷自慢の竜馬が与えられる。


 議会に指定された出立の時は来た。父であるカーウースが閲覧室にて王宝修羅剣を王子に手渡す。

光を放つ修羅剣。血筋のなせる業なのだ。だが、ためしにタウスに光を当ててもなにもならない。


 「当たり前じゃ。元魔族であってもアフラ様、ミスラ様、ヴァルナ様、ファリドゥーン様が同一のお姿となって放たれた光を浴びたもの本人及びその子孫は魔族であることを失うのじゃ」


 ケンは苦笑いしていた。教育係として後で怒られる事であろう。


 「ただし、先祖がえりした魔族と鬼族と東トルキスタン、アフガンの地にいる魔族はこの光の加護を受けておらん。だから、この剣の光を浴びると弱い魔は死ぬ。じゃが、天空から来た鬼らにはきかぬぞ。光族性の天魔なのだからな」


 (天魔、か)


 「かの鬼らが吹雪を撒き散らし、雷を落とす。あるいはサルワが嵐でもって破壊する。かつてのような力を現在は持っていないようだが、もう一回あのような力で攻められたら、わが国は終りじゃ……」


 「行ってくれるな、わが子よ」


 「はい」


 「最初の使命は簡単じゃ。北部山脈で取れる硫黄を持ってきてもらう」


 「硫黄、ですか?」


 「酒と硫黄を混ぜればエタノールが出来るという」


 「エタノール、でございますか」


 「そうじゃ、簡単じゃろ」

 

 「戻ってくるのじゃぞ」


 「はい」


 「タウス、ケン」


 「王、御身の傍に」


 「議会はそなたらにも探索命令が下った」


 「そうじゃ、そなたには近所にある木から間伐材を持ってきてもらう」


 「小規模の風力モーターでは我々はもう持たない」


 「王、かしこまりました」


 こうして王子が竜馬と共に王都の門を抜けた。


その数時間後、太陽が沈むころに二人の獣人が馬とともに王都の門を抜けた。


 彼らが果てしない旅に出た瞬間であった。


 そのころ、王が宮廷魔術士らにつめよった。


 「木材で発電できるというのは本当じゃろうな?」


 「本当でございます! 風力と違い天候にも左右されません」


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