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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第四部 ロスタム王子の冒険 暗黒竜の復活
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序章 繁栄を止めた破壊神  ※

 <ここはジラント王国のとある研究所>


 「魔力の糸、繋がり、よすがを断つ物質として『反魔導体』と名付け、トネリコや松の樹液で作ります。魔力が散逸しないため、糸のようにより合わせながらも交わらない作用が『反魔導体』です。魔導物質とセットで使うのです」


 「これはすごい、発明だよ!」


 「この冥土由来の魔導物質に雷魔法を入れるだけで雷が持続的に放出します。その雷が銅線を通り、各家に電気が遅れます。『反魔導体』によって雷の量を調整できます」


 「銅線などは我々にお任せください」


 人間の研究者が答えた。


 ジラント王国で生まれた魔導物質を使った発電はその後大きな社会の変化をもたらした。電気によって工場が発生した。照明はもとより、電気で走る車が誕生した。文明の恩恵は同盟三国に及んだ。


◆◆◆◆


 白きローブを纏い、雪肌と雪色の長髪、琥珀色の瞳を持つ者がとう利天の玉城の王座に座る。天帝インドラであった……。


 天帝が部下に命ずる。


 「我ら鬼族の子らにも我と同じように魔導石を入れているのだろうな」


 「はい」

 

 「それでよい。地中にある冥土物質を増幅させれば暗黒戦士を量産できる。さらに封印されたダハーカを利用し魔導石を増産すれば我らの天下よ。なにせ魔導石の力を増幅する人間や獣人の血肉は豊富にあるのだ」


 「サルワよ」


 「はっ」

 

 「そなたの体内にある魔導石を増幅させよ。さすれば鬼の血と阿修羅と竜の混血であるそなたこそ破壊の神として思いあがった地上の蟲を殲滅できるだろう」

 

 「御意。破壊の力の増幅は瞑想にて数十年かかりますがよろしいでしょうか」

 

 「我々にとって数十年など瞬きにすぎぬ。かまわぬぞ」


 「はっ」

 

◆◆◆◆


 天空にいる破壊神が目を覚ました。


 四〇年間の瞑想によって強大な神力を蓄えていたのだ。


 瞑想から目覚めた破壊神は天空城から下界をみつめていた。かの敵国の変わり果てた姿を。


 高速道路を電気自動車が次々走る姿。夜になると魔導物質が灯りを照らす姿。鉄道が駆け抜けていく。通勤通学客を乗せていく電車の光景。


 膨大な物質が工場で生産されていく。トラックや貨物列車によって製品が運ばれていく光景。広大な農場には機械化されたトラクターが魔導物質によって動く光景。


 病院に老人ホームに学校が林立する。


 熾烈な金銭競争を繰り広げる金融街。阿修羅のごとき闘争の世界。


 かつて人間と敵対し、魔族と言われた部族は今獣人族と呼び名を変えて人間と共存している。半魔族と呼ばれた人々も今では半獣人族だ。人間とのハーフだ。


 笑顔と平和にあふれる輝かしい光景がそこにはあった。


 このような繁栄を手に入れるためにかつては数多の血が流れた。


 アフラの導きによって魔王を封印した聖王ファリドゥーンの死去から四〇年。人間と獣人らは高度な文明を手にしていた。周りの国々に封印されたことを逆手に中世社会から一気に近代文明を手に入れたのだ。魔族が持つ魔法の力を使い、一気に経済成長を成し遂げたのであった。


 それを快く思っていない神々がいた。


 アフラ・マズダーこと阿修羅族と対立したダエーワ族の神々、インドではデーヴァと呼ばれた神々である。


 その文明の姿をシヴァ神ことサルワ神は見ていた。


 (羨ましい。人間とは、魔とはなぜこれほどまでに素晴らしいのだ)


 サルワの両手の爪が禍々しく伸びていった。


 (だが、その繁栄を独占することは罪)


 サルワの口から牙が二本伸びた。


 (魔族が人間と手を結び鬼族を裏切ることは反逆)


 サルワの胸が大きくなる。


 (その文明は人の手には千年も早き禁断の領域)


 サルワの瞳が金色に変わった。


 (破壊するか、さもなけば我々の領域の人間と鬼族にもこの文明を手にしたい)


 サルワが持つ鉾がふっと消えた。虚ろなその掌は前へと差し出す。


 (なぜ天空にいる我らよりも幸福な日々が送れるのだ!)


 破壊の神の心に生じたものは嫉妬。その後に生じたのは破壊への衝動。


 やがてやがて聖王ファリドゥーンが封印した暗黒竜アンラ・マンユの奪還に向けて、残された二大魔のうちの一人である破壊神が動き出す。


 破壊の主はそのまま天空から飛び降りた。


 周りが渦巻く中で己の体躯が巨大化し、青黒き剛毛が生じていく。蒼黒の毛並みが全身を覆った。牙がさらに巨大化する。風が全身を覆う剛毛を叩く。落下が止まり、渦の中心部で己も渦巻く。


 サルワが雷の声を発する。


 巨大な嵐はペルシャ中の太陽をさえぎり、大地は枯れ果てていく。


 スクランブル発進した航空機の銃弾や竜の炎が嵐をすり抜けていく。


 サルワの額から骨音が鳴り響く。やがてもうひとつ黄色の瞳が生じた。


 第三の目に閃光がたまりサルワは地に放った。航空機や竜が跡形もなく消える。


 ペルシャ中に次々生まれ行く廃墟。


 飽きたらずサルワは巨大な渦と共に北に向かった。そして彼が目をつけたのは繁栄の源、ジラント王国の魔導施設群だった。


 サルワが額から破滅の閃光を放った。破壊するとやがて大きな爆発が響き爆風が遠くまで届く。王都にもその爆風が届いた。


 人間が一気に消失し、消失を免れたものは獣人へと変化していく。阿鼻叫喚の声こそが破壊神の獲物。


 魔導物質による灯りが消える。暗黒の世に逆戻りしたのであった。


 道路では信号が故障し、車が次々激突する。


 電車が止まり、線路の上を歩く人々。


 ポンプが使えず、水も出なくなった。


 電気も水もなく、医療品が届かず、病院で死者が続出する。病院になだれ込んだ無数の患者の最後のよりどころが消えた瞬間だった。


 さらに神聖ペルシャ王国の魔導施設群に光線を放つ。


 数日後に爆発し、両国は地獄と化した。


 これほどの巨大な嵐と破壊の閃光の源を作るのに時間を要したが無事に勤めを果たした。


 渦を小さくし、牙を縮小させ、大蛇の体から青黒き皮膚をもつ人の形に戻る。青黒き煙から三叉鉾が生じ、手に取る。


 「次の仕事のために力を蓄えなければ」


 人に近い姿のままゆっくりと己の牙を伸ばすサルワ。そのまま鉾で生き残った獣人と人間を殺戮し、己の腹に血肉を入れる青き鬼の姿。獲物が発する絶望の絶叫も己の糧。何度も己の牙を獲物に突き刺し、味わう。


 食事を終えると、小さな渦が天へと向かう。天帝の下へ戻るためだ。


 天帝は暗黒武具による武装をしておらず普段着である白きローブを纏っていた。


 「よくやった。それでこそ世界の半分を与えし者。無秩序サルワの名にふさわしき功績」


 「あの姿の時は『ヴリトラ』ともお呼びください。最もすべての力を出し切るときはこちらの世界が破滅しますが」


 「そうだったな。元は敵同士であった。お前は阿修羅の血族にして最後の兵器であった」


 「茶番にすることで我を退治したことにして、天帝様はインドの大地に住む人の心を射止めたのですからな。もっとも倒したのは我の肉体から生じた擬態ですが」


 「そして我が支配する大地の半分をそなたに与えた。破壊の神として見込んだだけの事はある」


 「いずれあのまま阿修羅の側にいれば破壊だけの我は魔として断罪されただけでしょう。あの時我はインドラ様に助けていただいたのです」


 「小アンラ・マンユと呼ばれただけの事はある」


 「はい、そのお力を下さったアンラ・マンユ様は山に封印されておりますが……」


 皮肉そうに笑みを浮かべる。もはやそれは聞きたくもない別名であった。


 「我らの盟主、いや盟約の君を取り戻し、阿修羅の繁栄を壊し、インドの大地の人の子らに恵んでやるのだ」


 「承知」


◆◆◆◆


「サルワの怒り」と名づけられたこの巨大な嵐による被害によって彼らの北の大地、ジラント王国は壊滅し、人が住めぬ大地と化した。


 神聖ペルシャ王国側の被害も甚大であった。アラビア王国にいたって国土のすべてが嵐と津波によって全壊した。


 科学文明を享受した姿はもうそこにはなく、ただ、瓦礫と危険な魔導物質に汚染された大地が広がって行った……。


 工場は止まり、失業者は溢れ帰り、難民キャンプにあふれる人々。


 その後、財政は破綻し、経済が混乱した。銀行に殺到する人々。


 人と魔が共存した高度文明はたった1柱の破壊神によって終った。


 そんな中、霊鳥が神聖ペルシャ王国の首都「ファリドゥーン」の地にある宮廷を旋回したという噂が流れた。破壊を免れた宮殿の地下で王子が無事出産した。


 帝王切開により無事出産した。幸い、非常用電源と王族専属医師がいたため難産だった王子の出産は無事であった。半獣族であったためか母体である人間にはやや出産のリスクがあった。まして王家には暗黒竜の血筋が流れているのだ。象のように巨大だと言われたが、実際は人間の赤子の2倍の大きさであったという。血も黒色で半獣人としての証であった。


 この赤子こそが暗黒竜の化身ザッハークの血を引きながらファリドゥーンの子孫でひ孫にあたるロスタム王子である。


 神聖ペルシャ王サルムは孫の出産を見届けることなく、心臓発作で亡くなった。若き二十代の息子カーウースが後を継ぐことになった。


 人々と獣人らは瓦礫と魔導物質の脅威におびえながら暮らしていた。


 三王国の政府はその後、少ない石炭によって電源を確保したが、電力はとても賄えず、国内ではテロや暴動が頻発した。どうにか獣人や武装した人間軍隊が中心となって軍隊が暴動を抑えた。幸いジラント王国から石炭が多少採掘されるが、夜間三時間限定の灯りとなった。三王国にある電気製品はすべて破棄となった。水道も井戸に戻った。

 文明はこの時5世紀も逆行したとも言われている。魔導物質に汚染された大地の食物を人間が食うと病死してしまうので魔導物質の影響が少ない獣人族が除染を試みたがうまくいかなかった。魔導物質とは暗黒の力によって出た冥土の力。出現したのはこの世の冥界であった。結局、汚染された大地は封鎖されることとなった。獣人族も魔導物質を長く被曝すると凶暴化し、理性を失うからだ。「人」を失ってしまう。魔族に戻ってしまうのだ。


 破壊神ことサルワは絶対なる破壊によってペルシャの大地に「この世の魔界」の出現に成功したのであった。


 生き延びた人々は都会を捨て、多数の難民キャンプからやがて簡易住宅が建設されていく。初代ジラント王国の施策が見直され、三王国では開拓地法が施行された。難民キャンプの人々は国から借用書をもらい、開拓地で農業を学び、無料の住居と食事をもらいながら一定期間を終えると開拓地を広げ、開拓した農地の農作物を売ることによって借金を返すことになった。

この施策によって最悪元の世界のように「人」と「魔族」という分断は避けられた。様々な援助物資、護衛、友人という存在。絆が生まれた。木造や煉瓦の住宅が作られて行った。器用で細かい作業は人間が、力仕事は獣人が行なった。半獣族はその中間の役目を背負った。


 すでに三王国とも経済は破綻していたので兌換紙幣は使えず、貨幣は金貨や銀貨に交換という形で逆戻りしていた。


 ロスタムとはペルシャ語で「私は救われた」という意味である。母はこの時「私は救われ、悲しみは終った」と言い伝えられている。国中が悲嘆に嘆く中、希望をこめてこの言葉を国中に発したという。この「救われた(ロスタム)」という語こそ、後のペルシャ帝国の救国の主となるもう一人の勇者の名である。


 この時、東トルキスタンから鬼族が攻め入った。人間が居ないはずの国に魔族や鬼族が多数いたのであった。神聖ペルシャ帝国やジラント王国の一部が占領された。震災直後に奇襲を受けたペルシャ王国軍は敗北した。泣き崩れるカーウース国王と国民らの姿が居た。

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