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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第三部 暗黒竜の絶望
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終章

 光の竜がたどり着いたのはマルダース王国の王都であった。


 竜の姿を解くと人も魔も半魔も集まっていく!


 町全体が祝賀パレードとなった。


 城につくとビルマーヤの姿があった。


 同じ魔の親子同士となった再会であった。


 息子はただ泣きながら言った。


 「ジラント王国に帰ろう、お父さん」


 「そうだ、帰ろう。ここはお前の産まれ故郷だが、お前は生まれたばかりの時にお前を連れていった。思い出はなかろう。本当の故郷に帰ろう。もう勇者としての役目は終ったのだ。ジラント王に会えばお前の役目は終る」


二階の謁見室に入った。そこには王妃……だけでなくもう一人と一匹がいた。


「その『王』ならもうここにいますよ」


 その声はマオであった。


 謁見室にはなんと優美なる赤の翼を持った黒き光沢の鱗を持つ竜、ジラント王がいた。


 「待っておったぞ。勇者よ。お前に最後の役目がある。これで勇者としての勤めは終りだ」


 「王、なぜこちらの宮殿に」


 「戒厳令かいげんれいを発したあとの王には王権を剥奪されるようになっているのだ。我はもう王ではない。それにこの破壊する力は暴走すれば周囲が人の住めない冥土と化す。ダハーカらが持っているあの力と同じだ。我も闇種子やみしゅうじの一人」


 「ゆえに王権を剥奪され、追放された王は……魔王として扱われ追放され、かつ前王が指名した勇者に処刑されるのです」


 マオが言った。


 「そのような姿は母国で見とうないであろう。だが、これが民主主義を破壊した王のとがにして罪。これが国を破壊の力で守りし者の宿命なのだ」


 「で、できません!」


 「この力を見よ!」


 口から吐いたのは黒き煙。そして自らの腕を鍵爪で抉り取ったのは黒き血肉。鱗は祝福されし光沢の鱗でありながら体内は暗黒の血筋のままであった。


 「これがそなたの養父を魔にした力。闇の源である証拠なのじゃ。この力がある限り、ダハーカの子孫である我が次の魔王となってしまう!」


 「そんなことはございません、王」


 「どうかお考え直しください」


 親子が懇願する。


 「ダメじゃ。そなたも暴走して血肉に飢えた竜となったであろう。遅くはない。もう一度ヴァルナの下に赴くのじゃ、ビルマーヤ」


 かぶりを振る親子。


 「いいわけの聞かぬ部下じゃな」


 そう言うとファリドゥーンが持つ剣斧をむりやり奪い取って、自分の腹部に突き刺した。


 光がジラントの体中を貫き、やがて光とともに消えていく。


「なぜ、どうして……。もう魔とか人とか関係ない世界になったのに……」


 親子が身を寄せ合って泣く。


 うつむく臨時総理の職を解かれたマオ。この時点で吹雪のごとき甲高い笑い声が聞こえた。


 「これが勇者、これが世界の救い主。笑わせてくれる」


 シャフルナーズ王妃だった。


 「こんな国、くれてやろうぞ、勇者!」


 アルナワーズ姫の方はおびえていた。


 「余はこれからアルボルズに近い場所で余生を送る。お前らはここで修羅場を繰り広げるがよい!」


 きびすを返して去っていく王妃。実は魔であったザッハークを愛していたのだった。王妃を誰も止めるものはいなかった。


 テラスに向かうと大勢の国民の喝采を受けた。


 「ファリドゥーン様、ここで王となる宣言を」


 マオが言った。


 勇者は無表情のままこう宣言した。


 「ここに神聖ペルシャ王国設立を宣言する!」


 喝采かっさいがさらに大きくなった。


 以来神聖ペルシャ王国は王が統治権を失ったまま議会制民主主義の国となった。ジラント王国と同じ象徴王政となったのだ。


 そこには人も魔も半魔も関係ない――!


 光と闇の戦いは闇を光にすることで光が勝利を得ることとなった。


 本来、世襲すべき王妃二名は……アルボルズ山脈に近い山々……王妃達はここで幽閉された。蛇王ザッハークの王妃という事とファリドゥーンの后になることを拒否した事、旧魔族への加担の事実が発覚したもあって、王妃は責任を取らされる結果となった。ただし、王族追放処分は子の出産という関係もあり出来なかった。生まれた子は幽閉されず次代の王族の子となった。これ以上の復讐の連鎖を止めるためでもありもう魔族という存在も消えたため幽閉する意味を失ったからである。


 ジラント王国臨時総理マオは官職をすべて公職追放された上に国外追放とされたため神聖ペルシャ帝国放浪の旅に出た。戒厳令を敷いたことに対する責任は臨時総理にも当然及ぶのだ。後にアラビア半島で熱病に倒れ、亡くなったという。マオ死亡の知らせはジラント王国にすぐに伝わり、亡骸は母国ジラント王国に引き取られ、救国の英雄の一人としてジラント一世の墓の横に埋葬された。


 父ビルマーヤはヴァルナ神殿にてヴァルナの祝福を受け、光沢を持つ黒き毛を抱いた牛人となった。帰って来たとき、再び抱きしめあった。命を失うことなく試練に打ち勝ったのだ。


 さらに強固な封印石に置き換わることによってジラント王国と神聖ペルシャ王国はタブレット無き者は再び入れない国家となった。


 勇者は最後に剣斧の姿を解き放ち、それぞれ元々す姿である修羅剣とミスラの杖があった場所に戻し、石棺に納めた。


 収めるたびに光が生じ天に向かって行った。神が天に帰還したのであった。


 最後に竜鱗剣をヴァルナ神殿にいるヴァルナに返し、勇者のとしての最後の旅は終った。ヴァルナは相変わらず冷徹な瞳で勇者にこういった。


 「油断するな。魔の手はいつ襲い掛かってくるかわからんのだからな」


 ヴァルナらしいアドバイスを残し天空へと去っていった。


 国中には人も魔も半魔も笑顔であふれる国になったという。


 国王は兵士以外の武器携帯禁止令を出した。もう武力にも魔族にもおびえる必要もなくなった。また防衛以外の戦争を禁じる基本法も制定させ、軍事費を圧縮させたのであった。このことが経済復興に多いに役立った。


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