第五章 第二節 アエーシェマとの決戦
勇者が見たものは床一面魔法陣だらけの謁見室。笑みを浮かべる雌羊と雄牛と人の三面一臂の姿アエーシェマが玉座にいた。手には槍。
「この先にある姫と暗黒の種に通じる部屋へは行かせん!」
竜に乗ると槍でもって攻撃してくる。竜はブレスを吐く。次々かわしていく勇者。黄金の斧剣から出た光で炎ははじき返す。
「はっ!」
勇者が気合を入れると魔法陣が発動する。
一つは雷、一つは炎、一つは氷、一つは刃が入り混じる風であった。
「敵を襲え!」
号令とともに勇者に襲い掛かる。
勇者は飛び上がり、アエーシェマを正面から切り込もうとする。
「馬鹿め!」
そう言ううと魔法陣を描き、巨大な炎が生まれ勇者にぶつかった。
側面に叩き付けられる勇者。さらに床から雷の攻撃を受けた。
「お前に足を踏み入れる居場所などここにはないわ!」
(さすがはダハーカ様作った魔法陣。勇者など私で十分ということか)
さらに呪文を唱えると勇者はあまりの電撃で気を失いそうになる。
そして……勇者は崩れるようにして倒れた。
「今だ!」
今度は魔法陣で吹雪の呪文を唱え、槍から発した。
勇者がまたも側面の壁に叩きつけられる。
そこには風の刃が舞っていた。さらに吹き飛ばされ、今度は竜の炎によって反対側の壁まで叩きつけられた。
普通の人間ならば即死だろう。だが、もう勇者は人間ではなかった。人間を捨て、竜となったのだから。
絶命したのか確認するため竜に乗ってアエーシェマが勇者に近づいた。
勇者が持つ剣の先端が水色に光りだす。勇者の体も輝きだし、傷が癒えていった。水色の光は水の刃となって竜の四肢を切断した。
咆哮が謁見室に響き渡る。水色の刃は閲覧室の炎の魔法陣を破壊した。
次に勇者は気合を入れると斧の部分を光らせる。斧からは暖かな光が生じ閲覧室全体に発した。すると刃が入り混じる風が消えて行った。
最後にもう一つの斧から炎が発せられた。阿修羅のごとき怒りの光の炎が氷の魔法陣を消し去る。
残ったのは雷だけであった。
「こしゃくなあああ!!」
勇者に突っ込んでいくアエーシェマ。だが。いとも簡単に宙返りされ背後に廻った勇者に戦斧で雄牛の首を切り落とされた。
飛び散る紫色の血。返す刀で雌羊の首を切り落とした。
「なっ、やはりわたしでは……!」
勇者は人間の首を切り落とした。紫色の煙が飛び出す。
(やはり大魔は元人間や神々の体を器にしている!!)
(この戦いを早く終りにしないと)
そう思った勇者は姫の部屋の封印がアエーシェマの死によって解かれていることを確認して飛び込んだ。
そこは何十もの魔法陣によって守られた部屋であった。
怒号と轟音によっておびえていた姫はベッドの上に座っていた。
抱きしめようとする勇者。
だが……。帰って来たのは平手打ちの音。
「勇者、いえ、新たな王よ。勘違いなさらないでください」
勇者は衝撃だった。何が起きたのか理解できなかった。
「貴方のやっている事はかつてのザッハークと同じ。破壊と殺戮だけです」
姫も半魔だから、なのか? それとも純粋に修羅の世に怒っているのか? それともザッハークを……。
「姫、その通りだ。だから俺は支配者になる資格なんてないさ」
そう言うと勇者は部屋を後にし、ベランダに向かった。
「ジラントの勇敢な勇者達よ! 暗黒の輩の城は我が奪い取ったり!」
勝鬨が上がる。
しかし、勇者の表情は硬い。
最後の戦いが待っていたからだ。もうひとつの部屋を開けた。
黒色に渦巻いている魔法陣。ここが「闇の種」の洞窟の入り口、大魔たちの始原の場――!!
「我は最後の戦い、ダハーカ討伐のため魔界に出る。いいか。我を追うな。万が一我が死んだら姫がこの国の政治を執り行うのだ。ただし、王権のない民主主義でな」
そう言い残すと渦の中に消えた。
勇者を飲み込むと渦は消えて行った。まるで勇者を知っているかのように。




